シキミモドキ科

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シキミモドキ科

(上)1a. Drimys winteri
(下)1b. Tasmannia insipida の果実
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : モクレン類 Magnoliids
: カネラ目 Canellales
: シキミモドキ科 Winteraceae
学名
Winteraceae R.Br. ex Lindl. (1830)[1][2]
タイプ属
Wintera Murray (1784)[3]
= ドリミス属 Drimys J.R.Forst. & G.Forst. (1775)
シノニム
下位分類

シキミモドキ科(シキミモドキか)(ウィンテラ科[4]学名: Winteraceae)は被子植物カネラ目に属するの1つである。常緑性木本であり、多くの被子植物とは異なり道管をもたない。は不特定数の花弁雄しべをもち、雌しべ心皮が二つ折りで縁が完全には合着していない不完全心皮であることが知られている。精油を含み、英名で「… pepper」とよばれるものが多い[5]東南アジアからオセアニアマダガスカルメキシコから南米に分布し、日本に自生種は存在しない。5100ほどが知られる。

特徴[編集]

常緑性の小高木から低木であり[1][6][5]、つる性の種も知られる[7](下図2a, b)。節は3葉隙[6][8]道管を欠く[6][5][8][7]師管色素体はS-type[6]精油細胞をもつ[6][8]。ときにアルカロイドを含み、プロアントシアニジンが存在、フラボノイドとしてクェルセチンをもち、エラグ酸を欠く[6]

互生し、ふつう螺生する[1][6][8](上図2c)。葉は単葉、ふつう革質で無毛、油点をもち、全縁葉脈は羽状、葉柄が存在し、托葉を欠く[1][6][8]。葉裏はしばしば白色を帯び(下図3c)、気孔は平行型、ワックスで栓がされている[1][6][8][9]

3a. Drimys andina の花
3b. Tasmannia purpurascens の花(裏面)
3c. Pseudowintera axillaris の花と葉

は中型から小型、放射相称、基本的に両性であるがときに単性、ふつう集散花序を形成するが単生することもあり、花序は頂生または腋生する[1][6][8](上図3)。一部の種では、花は発熱性[7]は早落性[1]萼片は2–4(–6)枚、輪生し(上図3b)、部分的に合生、または完全に合着して花芽を包むキャップ状構造(カリプトラ)を形成する[1][6][5][8][7]花弁は2–多数、ふつう離生するが(上図3)、外側の花弁が合着してカリプトラ状になることがある[1][6][8]雄しべは3–多数、離生し、らせん状につく[1][6][5](上図3a)。花糸はふつう太く短く、ときに葉状、葯隔はときに突出、は沿着で外向、側向または内向、縦裂する[1][6][8][7]。小胞子形成は同時型[6]花粉は2細胞性、単口粒、ふつう4集粒として放出される[6][8][7]雌しべ心皮は二つ折りで不完全心皮としてよく知られ、縁辺が完全には融合しておらず、この部分が線状に柱頭になっている[5][10]。シキミモドキ属では縁辺全長にわたって融合が不完全であるが、ジゴギヌム属などでは縁辺下部は完全に融合している[5][11]。1–20心皮が1輪につき、基本的に離生心皮であるが(上図3a)、ジゴギヌム属では合生している(ただし柱頭や子房室は独立している)[1][6][5]。一方でタクタヤニア属では2心皮が完全に合生して単一の子房室を形成している[5]子房上位、心皮の縫合線に沿って胚珠がつき、1心皮あたり胚珠数は1個から多数、倒生胚珠で厚層珠心、2珠皮性[1][6][5][8]胚嚢はタデ型[6]。ふつう蜜腺を欠く[8]

4b. Tasmannia lanceolata の果実
4c. Pseudowintera axillaris(果実が見える)

果実は基本的に液果であるが(上図4)、タクタヤニア属は蒴果[1][6][5][8]。内胚乳形成は造壁型、油性[6]はよく分化しているが小さい[6][8]染色体基本数は x = 13, 18, 43[6][5][7][12]

分布・生態[編集]

シキミモドキ科は、主に南半球に分布するゴンドワナ要素である[5]フィリピンボルネオ島スラウェシ島小スンダ列島ニューギニア島ソロモン諸島ニューカレドニアオーストラリア東部、ニュージーランドメキシコから南米、およびマダガスカルに分布する[1][6][7]。多くは熱帯域の多雨林雲霧林内に生育するが、温帯域に分布する種もいる[6][8][7]

さまざまな昆虫、特に小型の甲虫アザミウマコバネガ双翅類によって花粉媒介され、ふつう花粉を報酬とするが、柱頭または雄しべから報酬となる物質を分泌するものもいる[8]。ただしタスマニア属の一部は風媒される[8]。多くの種は自家不和合性を示す[8]果実はふつう液果であり、鳥などによって種子散布される[8]

人間との関わり[編集]

5a. Tasmannia lanceolata の乾燥果実
5b. T. lanceolata の葉の乾燥粉末

シキミモドキ科の植物は精油を含み、葉や樹皮、果実が薬用や香辛料に用いられることがある[8][9][13][14]。よく利用される種としてウィンタードリミス[15](別名: ウィンターズバーク[16]Drimys winteri)、Tasmannia lanceolataTasmannia stipitata などがある(図5)。またニュージーランドに分布するPseudowintera axillaris および P. colorataマオリ語ホロピトhoropito)とよばれ、腸チフスの薬とされた[17]

ボルネオ島では、部族間の闘争の際にイヌを興奮させるため、シキミモドキ(Tasmannia piperita)のを揉んだものを嗅がせたという[5]

ウィンタードリミスなどは鑑賞用に栽培されることもある[9]

系統と分類[編集]

シキミモドキ科は道管を欠くことや雌しべの心皮が二つ折りで完全に合着していないなどの特徴から、最も原始的な特徴をもつ被子植物の1つとされていた[9][18]。20世紀末以降の分子系統学的研究から、シキミモドキ科はカネラ科とともに系統群(カネラ目)を形成し、カネラ目はコショウ目ウマノスズクサ科コショウ科など)の姉妹群であることが示されている[8][7]。このような系統的位置から、シキミモドキ科における道管の欠如は、二次的な欠失によるものであると考えられている[8][7]。また心皮の進化に関しては、二つ折りではなく嚢状(袋状)に発生する心皮をもつもの(アンボレラ目スイレン目アウストロバイレヤ目)が被子植物の中で最初期に分かれたことが示されており、これが被子植物の原始形質であると考えられている[19]

シキミモドキ科は比較的古くから認識されていた植物群である。古典的な被子植物の分類体系である新エングラー体系クロンキスト体系では、シキミモドキ科はモクレン目に分類されていた[18][20][21][22]。しかし上記のように、分子系統学的研究からカネラ科に近縁であることが明らかとなり、2022年現在ではこの2科はあわせてカネラ目に分類されている[7]

2022年現在、シキミモドキ科には5属100種ほどが知られている[1][7](下表)。この5属以外にベリオルム属(Belliolum)やブッビア属(Bubbia)、エクソスペルムム属(Exospermum)が認められることが多かったが[5][4]、これらの属は系統的にジゴギヌム属(Zygogynum)にきわめて近縁であることが明らかとなっており、これに含めることが多い[1][7]。5属のうちタクタヤニア属(Takhtajania)が最初期に分岐したことが示されており(下図6)、タクタヤニア属と他の4属を亜科のレベルで分けることがある[7][23](下表1)。

シキミモドキ科
Takhtajanioideae

タクタヤニア属 Takhtajania

Winteroideae

シキミモドキ属 Tasmannia

ドリミス属 Drimys

プセウドウィンテラ属 Pseudowintera

ジゴギヌム属 Zygogynum

6. シキミモドキ科内の系統仮説[23]

表1. シキミモドキ科の分類体系の一例[1][7]

シキミモドキ科に関連すると考えられている4集粒花粉の化石は、ガボンの1億2250万年前の地層から報告されている[7]。またシキミモドキ科に関連すると考えられるの化石も白亜紀以降に報告されている[7]。シキミモドキ科と考えられる化石記録は現在の分布域よりも広く、アフリカイスラエル南極南米北米オーストラリアニュージーランドなどから報告されている[7]

ギャラリー[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ シキミモドキ(Tasmannia piperita)は Drimys に分類されていたため、Drimys にシキミモドキ属の和名が充てられることがあったが[20][25]Drimys に分類されていた種のうち旧世界に分布するもの(シキミモドキを含む)は Tasmannia に移されたため、「シキミモドキ属」の名は Tasmannia に充てられるようになった。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r Winteraceae”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年3月28日閲覧。
  2. ^ a b c GBIF Secretariat (2021年). “Winteraceae”. GBIF Backbone Taxonomy. 2022年3月28日閲覧。
  3. ^ Winteraceae R. Br. ex Lindl.”. Tropicos.org. Missouri Botanical Garden. 2022年4月7日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j 田村道夫 (1999). “無導管被子植物”. 植物の系統. 文一総合出版. pp. 137–143. ISBN 978-4829921265 
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad 植田邦彦 (1997). “シキミモドキ科”. 週刊朝日百科 植物の世界 9. pp. 123–125. ISBN 9784023800106 
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y Watson, L. & Dallwitz, M. J. (1992 onwards). “Winteraceae Lindl.”. The families of flowering plants: descriptions, illustrations, identification, and information retrieval.. 2022年3月28日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u Stevens, P. F.. “WINTERACEAE”. Angiosperm Phylogeny Website. 2022年3月13日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w Judd, W.S., Campbell, C.S., Kellogg, E.A., Stevens, P.F. & Donoghue, M.J. (2015). “Canellales”. Plant Systematics: A Phylogenetic Approach. Academic Press. pp. 257–258. ISBN 978-1605353890 
  9. ^ a b c d Heywood, V.H. (ed.) (1985). “WINTERACEAE”. Flowering Plants of the World. Helm. p. 28. ISBN 978-0709937784 
  10. ^ 田村道夫 (1999). “不完全被子状態”. 植物の系統. 文一総合出版. pp. 158–161. ISBN 978-4829921265 
  11. ^ アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部光泰, 鈴木武 & 植田邦彦 (監訳) (2002). “雄蕊と心皮の系統発生”. 維管束植物の形態と進化. 文一総合出版. pp. 530–540. ISBN 978-4829921609 
  12. ^ a b c d e f Ehrendorfer, F. & Lambrou, M. (2000). “Chromosomes of Takhtajania, other Winteraceae, and Canellaceae: phylogenetic implications”. Annals of the Missouri Botanical Garden 87 (3): 407-413. doi:10.2307/2666199. 
  13. ^ Tasmanian Pepper (Tasmannia lanceolata)”. Gernot Katzer's Spice Pages. 2022年3月31日閲覧。
  14. ^ ドリミス・ウインテリ”. 山科植物資料館 (2013年4月30日). 2022年4月2日閲覧。
  15. ^ アレン・コーンビス 著、濱谷稔夫 翻訳・監修 (1994). 木の写真図鑑 完璧版. 日本ヴォーグ社. p. 310. ISBN 4-529-02356-7 
  16. ^ コリン・リズデイル、ジョン・ホワイト、キャロル・アッシャー 著、杉山明子、清水晶子 訳 (2007). 知の遊びコレクション 樹木. 新樹社. p. 113. ISBN 978-4-7875-8556-1 
  17. ^ horopito”. Māori Dictionary. 2022年3月28日閲覧。
  18. ^ a b 加藤雅啓 (編) (1997). “モクレン亜綱”. バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統. 裳華房. pp. 234–239. ISBN 978-4-7853-5825-9 
  19. ^ 長谷部光泰 (2020). “心皮の獲得”. 陸上植物の形態と進化. 裳華房. p. 226–227. ISBN 978-4785358716 
  20. ^ a b 井上浩, 岩槻邦男, 柏谷博之, 田村道夫, 堀田満, 三浦宏一郎 & 山岸高旺 (1983). “シキミモドキ科”. 植物系統分類の基礎. 北隆館. p. 219 
  21. ^ Melchior, H. (1964). A. Engler's Syllabus der Pflanzenfamilien mit besonderer Berücksichtigung der Nutzpflanzen nebst einer Übersicht über die Florenreiche und Florengebiete der Erde. I. Band: Allgemeiner Teil. Bakterien bis Gymnospermen 
  22. ^ Cronquist, A. (1981). An integrated system of classification of flowering plants. Columbia University Press. ISBN 9780231038805 
  23. ^ a b Thomas, N., Bruhl, J. J., Ford, A. & Weston, P. H. (2014). “Molecular dating of Winteraceae reveals a complex biogeographical history involving both ancient Gondwanan vicariance and long‐distance dispersal”. Journal of Biogeography 41 (5): 894-904. doi:10.1111/jbi.12265. 
  24. ^ Schatz, G. E. (2000). “The rediscovery of a Malagasy endemic: Takhtajania perrieri (Winteraceae)”. Annals of the Missouri Botanical Garden 87 (3): 297-302. 
  25. ^ 大場秀章 (2009). 植物分類表. アボック社. p. 21. ISBN 978-4900358614 

外部リンク[編集]

  • Kabeya, Y. & Hasebe, M.. “モクレン類/カネラ目/シキミモドキ科”. 陸上植物の進化. 基礎生物学研究所. 2022年4月1日閲覧。
  • Stevens, P. F. (2001 onwards). “WINTERACEAE”. Angiosperm Phylogeny Website. 2022年3月13日閲覧。(英語)
  • Watson, L. & Dallwitz, M. J. (1992 onwards). “Winteraceae Lindl.”. The families of flowering plants: descriptions, illustrations, identification, and information retrieval.. 2022年3月28日閲覧。(英語)
  • Winteraceae”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年3月28日閲覧。(英語)
  • GBIF Secretariat (2021年). “Winteraceae”. GBIF Backbone Taxonomy. 2022年3月28日閲覧。