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育英高校野球部わいせつ事件

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育英高校野球部わいせつ事件
地図地図
場所

日本の旗 日本: 兵庫県明石市魚住町[1]

標的 通りすがりの自転車に乗っていた10代の女子中学生A[3]
日付 2006年平成18年)6月19日
午後8時頃[3]から午後10時30分頃[1] (JST)
概要 部活帰りのXが[2]自転車同士の事故を装い故意にAに追突し[4]、因縁をつけてスーパーマーケット敷地内のトイレに連れ込む[1]。襟を掴んで脅迫し[4]、無理に体を触らせるわいせつな行為をした[5]
攻撃手段 自転車で故意に追突、襟を掴んで脅迫[4]
攻撃側人数 1人[1]
武器 自転車[1]
被害者 1人(女子中学生A)[1]
犯人 育英高等学校一年生の男子硬式野球部員X(16)[1]
容疑 強制わいせつ罪[5]
防御者 なし(Aと一緒にいたAの友人Bが110番通報[6]
対処 明石署員が現場付近でXを緊急逮捕[6]
謝罪 非行事実の重大性を認め少年院での更生を誓った[4]
少年審判 中等少年院送致(収容期間勧告なし)[1]
影響
管轄
  • 兵庫県警察明石警察署[6]
  • 神戸家庭裁判所[1]
  • テンプレートを表示

    育英高校野球部わいせつ事件(いくえいこうこうやきゅぶわいせつじけん)は、2006年平成18年)6月19日兵庫県明石市魚住町で起きた強制わいせつ事件(少年犯罪[1]育英高等学校に通う硬式野球部員である男子生徒X(16)が部活動後の帰宅中[2]、面識のない10代の女子中学生Aに自転車同士の交通事故を装って因縁をつけ[4]スーパーマーケット敷地内のトイレに連れ込み、わいせつな行為をした[1]

    第88回全国高等学校野球選手権大会の地方大会である全国高等学校野球選手権兵庫大会直前に[12]相次いで起きた育英高等学校硬式野球部の不祥事の一つであり[13]、本件に関連して日本高等学校野球連盟が硬式野球部の地方大会出場を認める応急措置を行った[5]。Xは元々出場選手として登録されていないものの[14]、育英高等学校が出場する試合で不祥事に関する野次が発生するなど、相次ぐ不祥事を起こす一方で出場を辞退しないことについて波紋を呼んだ[8]

    育英高等学校は出場の正当性主張を一貫しつつも謝罪し[9]、元阪神タイガース所属の藤村富美男の次男である藤村雅美野球部監督が引責退任した[10]

    事件概要[編集]

    育英高等学校硬式野球部が出場する、2006年7月9日開幕の第88回全国高等学校野球選手権兵庫大会における14日の一回戦を控えた約一ヶ月前に[12]事件は発生する[5]6月19日の午後8時頃から午後10時30分頃、兵庫県明石市魚住町の一年生硬式野球部員の男子生徒X(16)宅近くの路上にて[1]、Xが野球部の練習を終えて帰宅途中に[2]、自転車に乗っていた通りすがりの女子中学生Aに[15]後ろから自転車で故意にぶつかった[4]。Xは「足が痛い。自転車を運んでくれ」などと騒いで[5]、自身が負傷したと偽りX自身の自転車を運ぶように要求、付近のスーパーマーケット敷地内のトイレにAを連れ込んだ[1]。Xはトイレ内でAの襟を掴み「大声を出すな。しばくぞ」と脅迫し[4]、無理にX自身の体を触らせるわいせつな行為をした[5]。Aと一緒にいたAの友人Bは110番通報し、Xは駆けつけた兵庫県警明石警察署員にわいせつ行為を行った現場付近で緊急逮捕される[6]。Xは強制わいせつ容疑を認め、6月中に家裁送致された[5]

    Xの逮捕後、Xの両親は[3]「迷惑をかけた。退学させたい」と学校側に話す[7]。Xの保護者からは7月24日付で自主退学の申し出があり[16]、Xの自主退学が24日付で承認された[1]。26日には神戸家庭裁判所で第1回審判があり[16]裁判官は「事件の重大性、被害感情の大きさ、少年の性格から中等少年院送致が相当」と指摘し、Xの中等少年院送致とする保護処分が決定した[4]。Xは非行事実の重大生を認め、少年院での更生を誓った[4]。裁判官から収容期間に関する処遇勧告はなかったが、報道機関の見解では一年程度とされた[1]

    地方大会直前発生のその他事件[編集]

    別の硬式野球部員の痴漢[編集]

    一年生硬式野球部員の男子生徒X(16)によるわいせつ事件が報道された7月22日同日[5]、学校関係者の証言によりXとは別に二年生硬式野球部員Y(16)が痴漢行為をしていたことが判明した[7]。Yは5月上旬の登校中に[7]育英高等学校の最寄り駅である[17]神戸市営地下鉄西神・山手線板宿駅のホームの階段で、すれ違いざまに通りがかりの若い[7]女性会社員の胸や尻を触るなどの痴漢行為をしていたところを駅構内で巡回中の育英高等学校の教諭に発見される[13]。その後本人の希望で自主退学した[7]。Yは硬式野球部の練習についていけず、学校も休みがちだった[13]。Yの痴漢行為については学校側は兵庫県高校野球連盟に報告を行っている[13]

    野球部長の体罰[編集]

    5月20日に須磨区友が丘にある育英高等学校第二グラウンドの練習場で[18]野球部長の男性教諭Zが三年生硬式野球部員Cの練習態度に腹を立て、頭部を殴ったことが7月13日の報道で判明する[19]。Cに怪我はなかったが6月初めに投書があり体罰が発覚、日本高等学校野球連盟はZを有期の謹慎処分にした[19]。育英高等学校は野球部長を交代させた[19]。第88回全国高等学校野球選手権兵庫大会への出場は認められる[19]。7月19日開催の日本学生野球協会審査室に上申され[19]審査室会議でZの一年間の謹慎処分が正式に決定した[20]

    経過[編集]

    月日 出来事
    5月上旬 二年生硬式野球部員Yが駅で痴漢[7]
    5月20日 野球部長Zが三年生硬式野球部員Cに体罰[19]
    6月19日 一年生硬式野球部員Xが女子中学生Aにわいせつ行為[1]
    7月9日 第88回全国高等学校野球選手権兵庫大会開幕柳学園 - 佐用[12]
    7月13日 Zの体罰の件が神戸新聞社より報道[19]
    7月14日 第1回戦: 育英 - 淡路[12]
    7月19日 第2回戦: 育英 - 赤穂[12]
    審査室会議でZの一年間の謹慎処分が決定[20]
    7月22日 Xのわいせつ事件が全国紙で報道[6]
    校長と県高野連が日本高野連に訪れXの事件を報告[5]
    育英高等学校の出場が日本高野連より応急措置として認められる[5]
    7月23日 Yの痴漢の件が全国紙で報道[7]
    7月24日 第3回戦: 育英 - 東播工[12]
    24日付でXが自主退学[1]
    7月26日 第4回戦: 育英 - 姫路工(育英敗退)[12]
    家裁でXの中等少年院送致の保護処分が決定[1]
    育英高等学校が公式サイトに謝罪文を公表して改めて謝罪[9]
    7月31日 28日までに藤村雅美野球部監督が引責退任していたことが全国紙で報道[10]
    後任に野球部コーチが29日付で就任[10]
    10月5日 審査室会議でXのわいせつ事件による硬式野球部への警告処分が決定[11]

    地方大会出場可否における主張・見解[編集]

    7月22日に日本高等学校野球連盟より第88回全国高等学校野球選手権兵庫大会への硬式野球部の出場を認める応急措置が認められた[5]。わいせつ事件を起こした一年生硬式野球部員の男子生徒X(16)は元々出場選手として登録されていない[14]

    育英高等学校
    • 校長

    相次ぐ不祥事に「家裁の判断が下ってから対応を考える」と述べる[13]。「被害者には申し訳なく思っているが、出場辞退は考えていない[6]」「入学して間もない個人の犯行で[1]硬式野球部全体が連帯責任を負うことはおかしい[3]」と主張している他「生徒は一生懸命練習してきた。試合に出させてやりたい」と一貫して出場を望んでいる[2]

    一年生硬式野球部員の男子生徒X(16)のわいせつ事件において世間への公表及び日本高等学校野球連盟への報告が遅れた件については[14]神戸家庭裁判所少年審判の結果を待っていたこと[14]、従来から不祥事発覚時は兵庫県高等学校野球連盟に口頭で逐一報告していたことから、日本高等学校野球連盟から不祥事を隠蔽するつもりはなかったと弁明している[9]

    兵庫県高等学校野球連盟
    • 理事長

    選手個人の問題なのでチームに罰則を与えることにはならないとして地方大会出場に支障はないとした[21]

    日本高等学校野球連盟
    • 副会長(審議委員長[22]

    7月22日現状では詳細不明のため出場可否の判断ができないとして引き続き出場することは差し支えないとする他[22]被疑者以外の部員が関与しておらず、被害者とその家族に誠心誠意謝罪する学校の意向が確認できたとして、出場辞退までは求めない措置を決めた[23]

    • 参事

    忌まわしい事件ではあるが部員個人の非行であり硬式野球部全体の責任にはならないとした[24]

    事件後[編集]

    試合中の野次[編集]

    7月24日に淡路球場において第88回全国高等学校野球選手権兵庫大会の3回戦があり[25]育英高等学校硬式野球部は不祥事発覚によって気落ちした様子で兵庫県立東播工業高等学校との試合に挑む[26]。22日の練習前のミーティング藤村雅美野球部監督は「一生懸命に野球をするしかない」と落ち込む選手を鼓舞するも、選手の動揺は隠しきれなかった[26]。育英高等学校が10対1の大量リードを奪ったまま試合終盤に差し掛かる7回目、突然一人の男性が観客席から「ここらへんで辞退せえ[8]」といった不祥事に関する野次を大声で飛ばし、球場が一時騒然とした[26]。試合はそのまま10対1の7回コールドで育英高等学校が圧勝した[8]

    校歌を歌い終えた育英ナイン一同に笑顔はなく[8]、試合後にバスに向かっている最中もただ敗者のように下を向いていた[26]。このとき報道陣が詰め寄ったが野球部コーチに「今日は勘弁してやってください」と止められ、選手にインタビューすることはできなかった[26]。試合後の育英ナインはチーム関係者に終始守られるまま淡路球場を後にした[8]。試合後に藤村監督は「批判は当たり前です。我慢しないといけない。せっかく頂いたチャンスに応えないといけない[8]」「選手たちにも聞こえていた。これからも中傷はあるだろう。耐えていかないと野球はできない」と語っている[26]

    学校による謝罪文[編集]

    7月26日に第4回戦があり育英高等学校兵庫県立姫路工業高等学校サヨナラ負けし、敗退する[12]。同日に元一年生硬式野球部員の元男子生徒X(16)の中等少年院送致の保護処分神戸家庭裁判所より決定されるとともに[1]、育英高等学校は謝罪文を公式サイトに掲載する[9]。被害者とその家族、在校生の保護者、OB高校野球関係者、高校野球ファンに向けての謝罪とともに、従来から不祥事発覚時は兵庫県高等学校野球連盟に口頭で逐一報告していたことを主張し、日本高等学校野球連盟より隠蔽する意図はなかったと弁明した[9]。また「入学して間もない個人の不祥事のため全員が連帯して責任を負い地方大会出場を辞退するのはいただけない」と主張する一方で生徒と教職員の規範意識の醸成に努めることを書き綴っており[9]、その後約5年間、硬式野球部は2011年の野球部監督による部員への暴力行為で日本学生野球協会に9月8日謹慎処分を下される件まで、不祥事が発覚することはなかった[27]

    藤村雅美野球部監督の引責退任[編集]

    7月26日の4回戦敗退後、一連の不祥事の責任を取り28日までに元阪神タイガース所属の藤村富美男の次男である藤村雅美野球部監督が退任する[28]。後任の監督には野球部コーチが29日付で就任した[28]。藤村元監督は2007年春に病床に伏しており、その後10月26日に脳梗塞により亡くなった際の報道で、事件後に一連の騒動に関して「精神的に疲れ果てた」と回想していたことが判明している[29]

    日本学生野球協会の硬式野球部への処分[編集]

    日本学生野球協会は10月5日、東京都内で行われた審査室会議で、一年生硬式野球部員の男子生徒X(16)のわいせつ事件における正式な処分を決定する[11]。硬式野球部に「部員の強制わいせつ行為」の名目で警告処分が下された[11]

    関連項目[編集]

    部活動後の帰宅中に犯行が行われた性犯罪

    脚注[編集]

    1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 酒井雅浩 (2004年7月26日). “<強制わいせつ>元育英高野球部員を中等少年院送致”. Yahoo!ニュース. 毎日新聞 (ヤフー). オリジナルの2006年8月5日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20060805200143/http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060726-00000131-mai-soci 2024年5月30日閲覧。 
    2. ^ a b c d e 武内彩; 竹内紀臣 (2006年7月22日). “強制わいせつ:育英高野球部員、容疑で逮捕 全国高校野球兵庫大会、出場辞退はせず”. 毎日新聞: 大阪夕刊. 社会面. p.10 
    3. ^ a b c d “神戸市・育英高 野球部員強制わいせつ 先月逮捕 「大会辞退考えず」”. 産経新聞: 大阪夕刊. p. 11. (2006年7月22日) 
    4. ^ a b c d e f g h i “名門・育英高の野球部員 少年院送致”. スポーツニッポン. (2006年7月26日) 
    5. ^ a b c d e f g h i j k “神戸・育英野球部員を逮捕 夏の大会への出場は認める”. asahi.com (朝日新聞社). (2006年7月22日). オリジナルの2017年8月2日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170802164354/http://www.asahi.com/koshien/88/news/OSK200607220033.html 2024年5月30日閲覧。 
    6. ^ a b c d e f “育英野球部員、強制わいせつ容疑で逮捕、家裁送致 【大阪】”. 朝日新聞: 夕刊. 第二社会面. p. 10. (2006年7月22日) 
    7. ^ a b c d e f g h “強制わいせつ 育英高野球部員を逮捕 5月には痴漢行為で退学”. 産経新聞: 朝刊 . p. 31. (2006年7月23日) 
    8. ^ a b c d e f g “育英、コールド勝ちも笑顔なし/高校野球”. 日刊スポーツ. (2006年7月25日) 
    9. ^ a b c d e f g お詫び”. 育英高等学校 (2006年7月26日). 2024年6月5日閲覧。
    10. ^ a b c d “育英野球部監督が引責退任”. nikkansports.com (日刊スポーツ新聞社). (2006年7月31日). オリジナルの2006年8月19日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20060819201111/http://www.nikkansports.com/baseball/amateur/f-bb-tp3-20060731-68749.html 2024年5月30日閲覧。 
    11. ^ a b c d “不祥事33件、処分決まる 学生野球協会【大阪】”. 朝日新聞: 朝刊. スポーツ第一面. p. 21. (2006年10月6日) 
    12. ^ a b c d e f g h 第88回全国高校野球選手権兵庫大会(2006)”. スポーツブル. 運動通信社. 2024年6月5日閲覧。
    13. ^ a b c d e “育英高校野球部 相次ぐ不祥事 5月にも部員痴漢”. 産経新聞: 大阪朝刊. p. 31. (2006年7月23日) 
    14. ^ a b c d “神戸市・育英高野球部 今度は・・・部員が強制わいせつ”. 東京新聞: 夕刊. p. 10. (2006年7月22日) 
    15. ^ “強制わいせつで育英高野球部員逮捕”. 神戸新聞. (2006年7月22日) 
    16. ^ a b “育英高元野球部員を少年院送致/神戸家裁”. 読売新聞: 大阪朝刊. p. 34. (2006年7月27日) 
    17. ^ 育英高校交通アクセス”. 育英高等学校. 2024年6月6日閲覧。
    18. ^ 同窓会-歴史”. 育英高等学校. 2024年6月6日閲覧。
    19. ^ a b c d e f g “育英野球部長、部員の頭殴る 謹慎処分、交代”. 神戸新聞Web News (神戸新聞社). (2006年7月13日). オリジナルの2006年7月16日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20060716171612/http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sg/0000069787.shtml 2024年6月6日閲覧。 
    20. ^ a b “不祥事43件、処分決める 学生野球協会【大阪】”. 朝日新聞: 朝刊. スポーツ第四面. p. 22. (2006年7月20日) 
    21. ^ “強制わいせつで育英高野球部員逮捕”. 神戸新聞. (2006年7月22日) 
    22. ^ a b “高野連:育英高に当面の大会出場認める”. 毎日新聞: 大阪朝刊. 運動面. p. 15. (2006年7月23日) 
    23. ^ “育英は出場継続 部員逮捕で高野連が判断”. 神戸新聞. (2006年7月23日) 
    24. ^ “育英の兵庫大会出場認める”. 日刊スポーツ. (2006年7月22日) 
    25. ^ 【試合結果】育英―東播工(3回戦) - 第88回全国高校野球選手権兵庫大会”. スポーツブル. 運動通信社. 2024年6月7日閲覧。
    26. ^ a b c d e f “育英耐えた!不祥事ヤジに笑顔なき白星…高校野球選手権・兵庫大会”. スポーツ報知. (2006年7月25日) 
    27. ^ “高校の不祥事、21件処分 学生野球協会”. 朝日新聞: 朝刊. スポーツ第一面. p. 23. (2011年9月9日) 
    28. ^ a b “野球部不祥事で引責 兵庫・育英高監督が退任”. 読売新聞: 大阪朝刊. 第二社会面. p. 30. (2006年7月31日) 
    29. ^ 藤島真人 (2007年11月16日). “(惜別)前育英高野球部監督・藤村雅美さん 甲子園に焦がれた勝負師”. 朝日新聞: 夕刊. 惜別面. p. 16