「労働者派遣事業」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
人材派遣 2010年11月20日 (土) 17:58 を統合
1行目: 1行目:
{{Mergefrom|人材派遣|労働者派遣事業|date=2010年11月}}

{{Law}}

'''労働者派遣'''(ろうどうしゃはけん)とは、雇用形態のひとつ。事業主(派遣元という)が、自分が雇用する労働者を自分のために労働させるのではなく、他の事業主(派遣先という)に派遣して、派遣先の指揮命令を受けて派遣先のために労働させる事をいう。
'''労働者派遣'''(ろうどうしゃはけん)とは、雇用形態のひとつ。事業主(派遣元という)が、自分が雇用する労働者を自分のために労働させるのではなく、他の事業主(派遣先という)に派遣して、派遣先の指揮命令を受けて派遣先のために労働させる事をいう。


394行目: 390行目:
[[Category:日本の労働者派遣事業者|*]]
[[Category:日本の労働者派遣事業者|*]]
[[Category:労働問題]]
[[Category:労働問題]]

{{Mergeto|労働者派遣事業|労働者派遣事業|date=2010年11月}}

'''人材派遣'''(じんざいはけん、{{lang-en-short|worker dispatching system}}、'''労働者派遣'''(ろうどうしゃはけん)とも)とは、派遣元となる派遣業者に登録している者を、派遣先となる事業所へ派遣して、かつ派遣先の指揮命令のもとで労働サービスを提供する雇用形態のこと<ref name="hakenkeitai">原田二郎『あなたの知らない人材派遣』p.13</ref>である。日本では[[労働者派遣法]]を[[法令]]の根拠としている。

なお、[[まちづくり]]などの分野で、[[専門家]]を派遣する場合を「人材派遣」と称している。これは市民が主体となってまちづくりや地域計画、地区計画の提案や構想、マンション建替え検討等を行う場合に、地方自治体があらかじめ斡旋している専門家を当該地区に派遣し、合意形成や法制度、空間運用等、適正な計画づくりを支援するための人材派遣制度、[[アドバイザー制度]]で使用している。たとえば、東京都防災建築まちづくりセンターなどのまちづくり専門家等登録派遣制度があり、相談に応じて適切な専門家を紹介・派遣する制度としてまちづくりセンター人材バンクを設置している。

==概要==
===労働者派遣の法的な位置づけ===
労働者派遣業を行う業者は、[[1975年]]頃から急速に増えた。これに対応し、[[1985年]]6月に、派遣労働者の保護を目的とした「[[労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律]]」(以後労働者派遣法)が成立し、翌[[1986年]]7月に施行された<ref>([[南山大学]])渡辺直登、水井正明、野崎嗣政 1990「人材派遣会社従業員のストレス、組織コミットメント、キャリアプラン」経営行動科学 第5巻 第2号</ref>。

労働者派遣法第2条では、労働者派遣を以下ように定義している<ref name="hakenteigi">「人材派遣会社従業員のストレス、組織コミットメント、キャリアプラン」p.76</ref>。
<blockquote style="border: 1px solid #a0a0a0; padding: 1ex;">
自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする
</blockquote>

=== 業務請負契約との相違 ===
労働者派遣法によって労働者派遣契約は従来の業務請負契約と明確に区別されることになった<ref name="hakenteigi"></ref>という。

業務請負では、請負労働者は自身が雇用関係を結ぶ企業(=請負業者)と注文主の企業との間で締結した請負契約にもとづいて労働を提供する。そのため、労働者の指揮命令権は注文主の企業ではなく、あくまでも請負業者にあると定義されている<ref name="hakenteigi"></ref>。

一方、労働者派遣では、派遣業者と派遣先の企業が派遣契約を結び、派遣業者と派遣労働者が雇用関係を結び、派遣先の企業と派遣労働者が使用関係を結ぶ、言うなれば三角形の関係にある<ref name="hakenteigi"></ref>。そのため、労働者の指揮命令権は派遣先の企業に認められている<ref name="hakenteigi"></ref>。

===労働者派遣の分類===
====定常型派遣====
派遣先の有無に関わらず、常に派遣業者と雇用契約が結ばれている状態の派遣。

====登録型派遣====
派遣先が存在する時のみに、派遣業者と雇用契約の関係が生じる状態の派遣。派遣労働者の4分の3以上がこの登録型派遣に当てはまる。

=====日雇い派遣=====
登録型派遣のうち、雇用契約の関係が生じる期間が30日以内のものを特に「日雇い派遣」と呼ぶ<ref>[http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-06-26/2008062604_01_0.html 登録型派遣の規制を]</ref>。

=== 法令と異なる名称 ===
法令上は「労働者派遣」が正式の名称であるにもかかわらず、わざわざ「人材派遣」という名称を使用する業者や人がいる<ref>業界団体の社団法人も、その名に「人材派遣」の語を用いている。</ref>。これは以下のような理由によるともされている<ref name="hakenkeitai"></ref>。
*派遣先への直接雇用の意味合いを持たれるため
*「労働者」という言葉が、「[[ブルーカラー]]」をイメージさせることがあり、それを避けるため
*適性な「人材」を派遣して、労働サービスを提供する事業形態であるという印象を持たせるため
<!--
なお{{要出典範囲|[[人材]]という言葉は労働者以外にも意味することがあるため、「人材派遣」が意味する実体は民法上の請負や委任のようなケースを指すこともある|date=2009年6月}}。
-->
人材派遣という言葉の意味が明確ではないことの行政上の実例として、[[商業登記]]先例が挙げられる。[[2006年]]までは、会社の目的登記の表現には具体性が要求されており、会社目的の登記先例を掲載した目的事例集<ref>[[日本法令]]や、各法務局が編纂</ref>によれば、「人材派遣業」という用語は具体性を欠くものとして登記不可とされていた。このため、登記実務上は、「労働者派遣事業」など労働者派遣法に則した表現を用いている。

2006年以降、人材派遣業でも登記は可能となっているが、[[法人]]が一般労働者派遣事業の許可申請や特定労働者派遣事業の届出を[[都道府県労働局]]に対して行う場合、[[定款]]の目的には、「労働者派遣事業」を行うことが記載されていることが求められており、「人材派遣業」では認められない運用である<ref>労働者派遣事業、労働者派遣業、一般労働者派遣事業、特定労働者派遣事業、いずれも可能。</ref>。
よって、労働者派遣事業を行おうとする事業者は、事業目的を、「人材派遣業」ではなく、「労働者派遣事業」と定める必要があるのが原則ではある<ref>実際には労働局によっては「人材派遣業」「○○の派遣業務」でも「労働者派遣事業を行うことがわかる」と言うことで受理、許可をされている。</ref>。<!--これも労働局の見解です。-->

== 人材派遣業務をおこなっている企業 ==
*[[バンビプロモーション]] - タレントの人材派遣業務
*[[琉球トラスト]]
*[[アソウ・アルファ]]
*[[アソウ・ヒューマニーセンター]]
*[[メッドライン (企業)]]
*[[ユニバースクリエイト]]
*[[リッチフィールド (企業)]] - 貿易・[[物流]]業務の人材派遣業務を開始
* [[三幸興業]] - 沼津市にある人材派遣会社
* イカイ - 構内請負と人材派遣、その他ソフトウェア設計、広告代理、製造、運送事業等
*[[サンライズエージェンシー]] - タレントの人材派遣業務
*[[アゲインストプロダクション]] - タレントの人材派遣業務
*[[ドコモ・サービス]] - 人材派遣業務と、NTTドコモの料金業務
*[[シンテイ警備]]シンテイトラスト株式会社(警備業・人材派遣業務)
* テイケイトレード株式会社(人材派遣業務)
*[[BCA (制作会社)]] - [[人材開発]]・人材育成・人材派遣業務
*[[ジャパンテレビ]] - 人材派遣業務
*[[NTTマーケティングアクト]] - NTT西日本各地域会社の営業部門を中心とした人材派遣業務
*[[フレッシュハーツ]] - キャスティング業務・人材派遣業務
*[[首都圏コンピュータ技術者]] - ソフトウェア開発業務や人材派遣業務
*[[アストン]]
*[[東京ベイ通信]]
*[[北國新聞]] - 人材派遣業務、旅行業務、保険業務
*[[セノン]] -
*[[群馬銀行]]ぐんぎんキャリエール株式会社 (人材派遣業務)
*[[幼児活動研究会]] - 幼稚園・保育園に対する人材派遣業務「チャイルドサポート」開始
*[[アドバンテージ・リソーシング・ジャパン]] - 人材派遣業務を「株式会社グッドウィル」として企業分割していた
*[[ホーマック]] - 清掃、警備・セキュリティ、ビルメンテナンスの他、人材派遣業務などを担当

==問題点==
=== 事前面接の横行 ===
労働者派遣事業は本来、派遣先企業の要望を受け、登録された者から最適な者を選び出し、派遣先企業の詳細を正確に登録者に伝達するサービスである。そのため、労働者派遣法第26条で「派遣労働者を特定することを目的とする行為」は制限されているにもかかわらず、「見学」「面談」「業務確認」などの様々な呼称を用い、派遣業者が派遣先に派遣労働者を紹介する行為が横行している。業務を紹介する立場である派遣業者の社員が、その業務についてよく分からないと称して事前に面談を行なうケースが多い。これは法令順守以前の業務不履行であるため、政府は法令順守を強化するよう派遣企業に求めている。

[[日本経団連]]は、政府に対する雇用・労働分野の規制改革の要望に、事前面接の全面解禁を盛り込んでいる。全面解禁になると、派遣労働者の立場が今以上に弱くなるのは決定的と見られており、派遣労働者からは、[[パワーハラスメント]]の更なる横行が懸念されている。

また一部の面談では、面談時に正社員採用も考えると、実質虚偽の内容が含まれた面談も報告されている。特に上場企業で派遣社員を正社員として採用した例は極めて稀である(工場勤務等は除外)。

=== 契約更新の問題点 ===
大手労働者派遣会社に多く見られる3ヶ月更新の労働条件は、'''使用者と労働者双方にとって更新を拒否する自由がある'''ことを意味するが、実態は労働者側からの更新拒否を、法律の原因なく甘受しない企業も少なくない。「1年以上の長期間の就労を期待しつつも、契約は3ヶ月更新を要求する」など、労働者にとって不利な提示がなされている。

=== 日本の国際競争力低下の懸念 ===
日本は原材料を輸入して加工し、製品を輸出して成り立っている典型的な加工貿易国家である。日本は世界でも最高水準の品質の製品を多数生産し国際競争力を保持しているが、社外の人間であり、短期就労がほとんどの派遣社員に製品への忠誠心や品質意識を要求するのはほとんど不可能である{{要出典|date=2010年8月}}。

現在は純粋にコスト面から労働者派遣制度を利用する例がほとんどであるが、国際競争力保持を視点に入れた労働者派遣制度に転換していかないとコスト面よりも主に品質の面から、日本の国際競争力を徐々に低下させる危険性があり、コスト・品質を両立させうる長期的観点からの対策が求められている。自動車総連が非正規雇用者について所属組合に実施したアンケート調査(カッコ内は回答比率、複数回答)では、「技能・技術の伝承で課題がある」(52.6%)、「製品・サービスの質が低下する」(28.3%)といった点へ影響が出ているとの指摘がある<ref>「非正規、自動車技能伝承に課題 製品・サービスの質にも影響」共同通信、2008年9月4日付配信</ref>。

また、労働者派遣等の[[非正規雇用]]による生活の不安定化は、独身者の増加を招き[[少子高齢化]]をさらに進行させている。雇用の不安定化は根本的かつ長期的に日本の国際競争力の低下を招き、日本の国内市場を縮小させている大きな要因であるとの指摘がある。

===利益相反===
派遣社員が勤勉に働くほど、派遣先企業は従来正社員が行っていた業務が派遣社員でも遂行可能なら、正社員の雇用を抑制可能と判断する現象がおきている{{要出典|date=2010年6月}}。正規雇用の見込みがなければ、派遣社員の勤勉さと派遣先企業とは根本的に利益相反であるとの指摘がある{{誰|date=2010年6月}}。 派遣社員を必要とするのは大企業とその子会社・関連会社をはじめ、一定規模以上の会社がほとんどだが、上場企業とその子会社にあたる会社が実際に派遣社員を正社員として採用することは事実上ほとんどない{{要出典|date=2010年4月}}。

{{要出典範囲|派遣社員側からすると、派遣先企業は他社であるため、派遣先企業で正規雇用される見込みや、契約更新時に賃金単価の上昇がない場合、契約停止されない最低限の労働しか必要なくなる。また派遣先企業固有の業務知識は、他社の人間であり最長3年契約が主流の派遣社員にとって本来関係ないため、派遣先企業固有の業務知識習得の士気は低調であり、業務の質にも影響がでてくる。|date=2010年6月}}<!-- 2010.3.5に「最長3年しか在籍しない他社の業務に興味を持つ人間は稀のため追記。(個人的に見たことも聞いた事もありません)」とのコメント付で投稿された部分。ほぼ独自研究確定と思われるがしばらく要出典にしてみます。-->

近年派遣社員に対し「正社員としての採用も考えると甘言で誘い、安く使おう」というケースが横行している。ほとんどの派遣社員が「派遣先企業から正社員としての採用も考慮してあげるから、賃金単価の上昇はないけれども契約内容以上にもっと頑張ってほしい」と、虚言と圧力を受けたの報告がなされている{{誰|date=2010年6月}}。

若者の誠実さ・純真さに付け込んでいるだけの非常に悪質なケースが多いとの報告も多数もたらされている。中には大手労働者派遣会社が求職者を正規雇用の面談と称し、実際は非正規雇用の面談に連れ出した極めて悪質な例も報告されている{{要出典|date=2010年4月}}。

=== 健康保険組合 ===
労働者派遣を行う事業者の[[業界団体]]である「社団法人日本人材派遣協会」は、[[2002年]]に人材派遣健康保険組合(通称「はけん健保」)を設立した。従来、派遣労働者は、派遣元である[[労働者派遣事業|労働者派遣事業者]]との契約が月単位となっていることを利用し、継続雇用されていないことを理由に[[健康保険制度]]や[[厚生年金保険]]制度に加入しないことが多かった(これら制度に加入するためには、3ヶ月以上の継続雇用が必要であるが、3ヶ月以上継続雇用されれば必ず加入させなければならない)。

この取扱いは、派遣労働者にとっては保険料を負担しないことによる手取り収入の増加、派遣元である派遣事業者にとっては保険料負担軽減および社会保険関係事務の軽減、派遣先企業にとっては派遣単価の圧縮、というメリットが存在したため、雇用関係が実質3ヶ月を超えても、健康保険制度へ加入させない脱法状態が長く続いていた。特に労働者派遣事業を専業にしている者には、意図的に社会保険制度未加入を行うものも存在した<ref>[http://www.academyhills.com/gijiroku/21/21_3.html 公演録「[[パソナ]]の企業戦略と経営理念」南部靖之(株式会社パソナ代表取締役社長)[[1999年]]1月29日]</ref>。

しかし、2002年に[[会計検査院]]が厚生省に行った検査の中で違法であると指摘<ref>[http://report.jbaudit.go.jp/org/h11/1999-h11-0142-0.htm 会計検査院 平成11年決算検査報告]</ref>。さかのぼって健康保険を適用し、多額の保険料が追徴される事態となった。この状況をみて、業界団体が主導して、やむをえず[[健康保険組合]]を設立するにいたったものである。[[政府管掌健康保険|政管健保]]に加入する方法もあったが、比較的若い派遣労働者のみで保険の母集団を構成したほうが、健康保険料率を低く設定できるため健康保険組合制度が採られたとされているが、[[後期高齢者医療制度]]の影響により現在では高い保険料率となっている(この制度は加入者数に応じた頭割り計算で拠出金を決めるため、若く所得が低い者が多い組合では非常に大きな負担となる傾向がある)。<ref>[http://www.haken-kenpo.com/topics/h19/koureiiryou2.pdf 平成20年4月から高齢者医療制度が変わり、健保組合の保険料が急増します]</ref>

また、健保組合(組合健保)であるため、[[国民健康保険]](国保)に比べ休業補償等の補償が手厚いというメリットもある。

労働者派遣事業者の中には、[[商社]]や[[銀行]]系列を中心に、「はけん健保」成立前にすでに健康保険に加入しているものも多数あった。

なお、派遣事業者が商社や銀行、大手メーカなどのグループ企業の1つである場合、親会社の健康保険組合に加入する形式を採ることもある。

== 労働者派遣肯定側からの反論 ==
労働者派遣業界への批判に対し、主として派遣先と派遣元の経営側からは以下のような反論が行われている。

=== マージンを多く取りすぎている ===
労働者派遣会社は派遣先企業からの支払いのうち50%前後の額を派遣会社が徴収し、純益としているといった話が広く浸透しており、しばしば「派遣=奴隷制度」「搾取社会の象徴」、また労働者派遣業者は「ピンハネで不当に儲けている」といった批判の対象となっている。

労働者派遣会社側は否定しているが、大半がその企業の決算報告書から導きだせる割合ではなく、真偽の確認が困難で信憑性に乏しい。真実と仮定しても、統計的見地から導き出された数値ではないケースがほとんどである。

[[アデコ]]や[[フジスタッフ]]などの独立系の労働者派遣会社の場合、利益は社会保険(労使折半)や有給休暇の負担、福利厚生、事務所の地代家賃や人件費などの経費を加味してのことなので例えば一等地にある大型の労働者派遣会社のマージンが30%だとしても、額面どおりの利益にはならない。 これは一般企業(たとえば印刷業や流通業)の年商を社員数で割った数字が、そのまま社員各々の年収となるよう分配することが出来ないことと同じ道理である。大まかにであるが有休には派遣社員の給料の5%程度が当てられ、社会保険には7~10%程度が当てられている。また、上記のような義務的経費に加え、経理担当者や営業担当者やスタッフへの指示担当者の人件費、広告費、大型ビルの地代家賃・光熱費また、など派遣事業にかかる経費などをも総合して加味すると、営利企業として利益を上げるには30%程度のマージンを取らざるを得ない。<ref>[http://www.jassa.jp/employee/explanation.html 派遣料金の仕組みについてご説明します 派遣スタッフの皆さま|社団法人 日本人材派遣協会]</ref>

実際の労働者派遣業は薄利多売であることは労働者派遣企業の財務諸表からも分る。例えば、労働者派遣大手であるテンプスタッフの2007年度の売上高が1618億円なのに対して、営業利益が70億なことからも推察できる。売り上げ額の1600億円に対して70億円程度を純益としている場合は、派遣企業がマージンから経費を除いた純粋な利益は4.5%程度である。
また、2006年度の決算での業界上位五社の営業利益<ref>[http://www.hakenn.jp/manage/page15.html 派遣会社経営/上場5社の損益計算書主要指標比較]</ref>はテンプスタッフの4.5%が最大であり、労働者派遣最大手のパソナの営業利益は3%にしか過ぎない。

=== 正社員が派遣で代替され、正社員としての雇用機会を奪っている ===
日本の正社員は身分保障が非常に強く、その分企業の労働力需要を抑制し、労働者の雇用機会を損ねているという指摘がある。実際新卒以外の人が正社員として企業に就職するには手段が限られており、派遣労働者が企業の労働需要を満たしている。

=== 派遣社員は低収入で、いわゆる格差やワーキングプアの原因になっている ===
本来、労働者派遣会社は同時通訳や財務処理、ソフトウェア開発など一般企業の正社員には困難な、特筆すべき技能を有している者を「一時的に外部から拝借する」手段であるため、かつては派遣社員というのは一般的に正社員よりも高給取りで、様々な会社を転々とするスペシャリストだとみなすことが一般的であった。しかし、一般企業が人件費を圧縮する手段として労働者派遣会社を利用する傾向が1999年(法改正後)から顕著化し、2008年現在においては技能未習得者のみならず、就労未経験者をも受け入れ、即戦力としてでなく「定型的な単純作業を行わせるための人材」を確保する手段として、派遣会社を利用する企業が急増している。

=== 労働者派遣企業は本来労働者が全額を得るべき労働対価を収益源としている ===
企業が正社員を雇用するということは莫大な経費が発生し、かつその社員を原則、定年まで雇用し続けることを前提とした賃金設定を行う必要がある([[ボーナス]]は除く)。さらに、たとえば1万人の派遣社員を正社員として雇用した場合、1万人分の労働管理や経理事務が発生することを意味する。必然的に管理職や経理担当者の増員を迫られ、これらの人件費も発生する。また正社員は景気循環や季節変動に応じた雇用の調節が困難である。
こうしたことから、企業が正社員を雇い入れるということはイニシャルコスト・ランニングコスト両面で大きな負担を強いられる。労働者派遣会社が純利益とできるマージンを仮に5%得たとしても、企業はこの負担を[[相殺]]し、さらに企業にとって利益となる。労働者派遣企業は派遣先企業の労務費に弾力性を与え、企業体質を強化するサービスの対価として利益を得ている。

=== 派遣先企業の誤った認識がトラブルの原因である場合も多い ===
派遣先の企業担当者が、派遣労働者に誤った認識を持って接し、トラブルにつながる例も多い。労働者派遣を利用して日の浅い企業でよく見られるケースだが、派遣先担当者が派遣労働者に対して、社員に準じて仕事を自ら進んでするべきとの態度で接し、ノルマ・成績まで社員に準じて要求する場合がある。派遣社員側が保険加入でない場合は、短期のアルバイトとしか考えていないケースがほとんどのため、大企業の正社員に準ずる労働水準という、極めて過剰な要求を受け、トラブルになり早期に派遣社員側が退職し、双方に不利益な結末となる例が多い。

なかには派遣社員に[[高度情報処理技術者試験]]に合格するよう要求する極めて過剰な要求例も報告されている{{要出典|date=2010年8月}}。高度情報処理技術者試験に合格できる人間は情報処理技術者の中でも限られており、対応の困難な要求であるし、高度情報処理技術者試験に合格できる実力を持つ人間が派遣社員としてそのまま勤務し続けることはほとんどない。

また正社員側が、派遣元にクレームを入れるぞと派遣社員を恒常的に恫喝し続け、正社員に準ずる労働水準を強要し関係が極度に悪化し派遣社員側が辞職したく故意にミスを犯したり、故意に派遣先に損失を引き起こし、派遣社員が辞めるときに派遣先の問題点を全て派遣先の人事・総務に報告し、トラブルになるケースが報告されている{{要出典|date=2010年8月}}。

派遣社員側からは企業の総務・人事担当者に、恒常的に恫喝し続けるというような行為を取締まるよう求める声がある。
中には正社員が私的都合のために、派遣社員に社内規則に違反したことを指示したり、会社の損失さえ無視する極めて悪質な例や、正社員が責任を回避するために、派遣社員に明確な指示を与えず業務を遂行させ、問題が発生したら自分は派遣社員に対して指示を出していないと主張する例がかなりの数報告されている{{要出典|date=2010年8月}}。派遣社員側から総務・人事へ正社員の悪質な行為を通報する制度の整備や、それによって派遣社員側の不利益が発生しないよう環境の整備が必要との声が、派遣先企業・派遣社員双方からある{{誰|date=2010年8月}}。

また派遣社員側は外部の人間のため、派遣先の指示なしでは動けない場合も多い。また派遣会社も場合によっては指示なしで行動せず、言動には慎重を期すよう教育していることもあり、社員に準じて率先して自ら動く人材を求める場合は、準社員や契約社員の方が労働者派遣よりも適している場合が有り、派遣先企業の認識不足で労働者派遣がミスマッチとなっている例も多く報告されている{{要出典|date=2010年8月}}。また労働者派遣では派遣社員に完成責任は無いため、完成責任を有する請負の方が適した場合もある。

=== 派遣制度は一部の労働者にはメリットのある制度である ===
大手労働者派遣会社の場合は3~6ヶ月毎の更新契約が多いため、このことが精神的な圧迫になる者もいるが、逆にイニシアチブを一生就業先に預ける必要がないことに魅力を感じる者も少数存在する。

正社員では社内規定に基づいた平均化された給与と同一化され、能力に応じた支払いを受けることが難しい企業もなかにはあるが、高度な技術を身につけた人材は高額な給与と時間的な自由度が高い派遣先だけを選ぶことにより、年収を向上させていくことができる。企業の人材育成意欲が低下している中<ref>[http://www.jinzainews.net/article/body/b1476b45ee757ed7287c9197a7890ed4 教育訓練に取り組んだ企業の割合が低下、労働者一人当たりの教育訓練費も減少]</ref>、企業に頼ることなく自らのキャリアアッププランを明確に持つことで、長期的にみれば会社に頼るのに比べ安定した収入を得ることができる。特に、派遣社員には原則、退職金やボーナスなどの待遇はない代わりに、業種や派遣社員の技能によっては月々の手取額が、中小企業のキャリアの浅い正社員よりも高くなることがある。このことで得た一時的な現金を元手に、留学や習い事に自発的に投資してさらなる能力を身に付けるという自己啓発計画をメリットに感じる者もいないとはいえない。一方大企業の正社員より給料が高いことはほとんどない。{{要出典|date=2010年8月}}

しかし製造業で働く派遣労働者の中で、何某かのメリットによって積極的に派遣労働者を選んだのは約3割だったという調査結果もある。
<ref>[http://mainichi.jp/select/wadai/news/20081102k0000m040083000c.html 派遣労働者:製造業の7割が「消極的理由で」NPO調査」毎日新聞[[2008年]]11月2日]</ref>

== 脚注 ==
{{reflist}}{{脚注ヘルプ}}

== 関連項目 ==
* [[添乗員#派遣添乗員]]
* [[雇用]]
* [[派遣]]
* [[労働基準法]]
* [[国際労働機関]]
* [[労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律|労働者派遣法]]
* [[職業安定法]]
* [[労働者派遣事業]]
* [[業務請負]]
* [[アウトソーシング]]
* [[ルンペンプロレタリアート]]
*ネガティブな側面
** [[偽装請負]]
** [[ピンハネ]]
** [[手配師]](古くは個人経営の労働者派遣業態全般を指したが、今日では派遣業として未登録など違法なものを指す傾向にある)
** [[ワンコールワーカー]]
** [[派遣切り]]

== 外部リンク ==
* [http://www.jassa.jp/ 社団法人 日本人材派遣協会 (業界団体)]
* [http://www.nhk.or.jp/special/onair/071112.html NHKスペシャル|ニッポンの縮図 1000人にきく ハケンの本音]

{{DEFAULTSORT:しんさいはけん}}
[[Category:労働の形態]]

[[bg:Трудова борса]]
[[de:Arbeitnehmerüberlassung]]
[[en:Temporary work]]
[[fr:Intérim (travail)]]
[[it:Lavoro interinale]]
[[he:קבלן כוח אדם]]
[[nl:Uitzendbureau]]
[[zh:人力派遣]]

2010年12月3日 (金) 14:58時点における版

労働者派遣(ろうどうしゃはけん)とは、雇用形態のひとつ。事業主(派遣元という)が、自分が雇用する労働者を自分のために労働させるのではなく、他の事業主(派遣先という)に派遣して、派遣先の指揮命令を受けて派遣先のために労働させる事をいう。

この雇用形態の労働者のことを一般に派遣社員(はけんしゃいん)といい、雇用関係は派遣元と派遣社員の間に存在するが、指揮命令関係は派遣先と派遣社員の間に存在するのが特徴である。労働者保護の観点から、派遣できる業種、派遣期間の上限、派遣を業として行うための許認可制度など様々な規定が労働者派遣法により定められている。俗に人材派遣、もしくは単に派遣と呼ばれる事が多い。

以下では特に断り書きがない限り、日本での事例について述べる。

定義

労働者派遣法2条は、以下の通り定義する。

  1. 労働者派遣
    自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まない。
  2. 派遣労働者
    事業主が雇用する労働者であって、労働者派遣の対象となるもの。

概要

雇用形態について、通常は雇用するために契約を結ぶ場合、雇用者と労働者二面的契約関係となるが、労働者派遣法によって認められた形態では「派遣元(派遣会社=実際の雇用者)と労働者(派遣労働者)」、「派遣先と労働者」、「派遣元と派遣先」という三面的契約関係となる。

また、賃金の流れは、派遣元は労働者を雇用し賃金を支払い、労働者は派遣先の指揮監督を受け労務を提供し、派遣先は派遣元に派遣費用を支払う仕組みとなっている。

※労働者派遣法が出来る以前は、このような雇用形態を「間接雇用」として職業安定法により禁止していた。(労働者の労働契約に関して業として仲介をして利益を得る事の禁止。)

派遣可能な業種や職種は、拡大している。当初はコンピュータ(IT=情報技術)関係職種(システムエンジニアプログラマーオペレータ等)のように、専門性が強く、かつ一時的に人材が必要となる13の業種に限られていたが、次第に対象範囲が拡大し、1999年の改正により禁止業種以外は派遣が可能になる。

業界ごとの動向を見ると、販売関係や一般業務の分野では、大手銀行製造業電気通信事業者などの主要企業が人材派遣会社を設立し、親会社へ人材派遣を行い業務をこなすケースがみられるようになった。製造業などでは業務請負として、一定の業務ごと派遣会社から人材を派遣してもらう場合も多い。コンピューター関連職種では、最新技術への適応が求められることや長時間労働(いわゆるデスマーチ)に耐えられかつ派遣単価が安い若年者を求める顧客(派遣先)が多い。反面、年長者になるにつれて最新技術に追いつけなくなったり、年長者であるが故に派遣単価が高くなるなど顧客から敬遠される傾向にあり、他業種への転向を余儀なくされるケースが少なくない。

社会構造としての問題、格差の元凶としての問題

派遣社員の状況については、退職した後の就業機会など希望して派遣社員としての働き方を選択する人間が多いとの調査結果もありはするが[1]他に選択肢がないためやむにやまれず派遣社員となったケースも存在する[2]正社員の雇用が少ない中で、派遣社員の雇用が増えていることなどから、格差社会の元凶との指摘もさかんにされるようになっている。

だが、派遣業界側は「派遣社員が非正規雇用の8%しか占めていないことや、派遣と請負の混同などで現状を誤解した誤った認識である」などと主張した[3]

2008年2月8日の衆議院予算委員会で日本共産党の志位和夫が行った質問で、労働者派遣事業の現状の問題を取り上げた。質疑の詳細は志位和夫#日雇い労働と派遣に関する質問を参照。

なお、日雇い派遣については、派遣元企業あるいは派遣先企業での違法行為が相次いで発覚したため、2009年を目途に日雇い派遣事業を原則禁止する方向で厚生労働省が検討している。詳細は、日雇い#日雇い雇用の問題点を参照。

なお、秋葉原通り魔事件江東マンション神隠し殺人事件の加害者はそれぞれ派遣社員であった[4][5]。また、派遣の仕事がなくなってコンビニ、タクシー強盗、スーパーでの窃盗に手を出す者も増加しており[6][7]、「ハイリスク・ローリターンで、経済的に追いつめられた者による場当たり的犯行が目立つ」ようになった[8]。このため、派遣社員が置かれている経済的基盤が貧弱なことによる犯罪発生が懸念視されている。

また「日本の財界の者やそれと関係のある政治家たちが、企業経営者側の都合ばかりを優先し、経営者にとって都合のよい派遣労働者の割合が非常に増えてしまうように法律を変えてしまった。日本の雇用のしくみ、つまり日本人の社会の構造をこのようにしてしまったことに根本的な問題がある」「もはや"個々人の選択の問題"などといったことにとどまるものではなく、未来の展望を持つことを望んでいるのにどうにも持てない人々を大量に作りだしてしまう、社会構造としての問題だ」「こういう社会構造を放置しておくこと、苦しむ人々を放置しておくことは、社会や政府として問題がある」といった主旨のことは(特に2008年ごろ以降は)マスコミ(TV、新聞など[9])などでも時々言及されるようになっている。だが、問題は根深く、日本政府の対応(改善策)は遅々としてあまり進んでいない(2010年現在)。そうこうしているうちに、2010年6月には、やはり派遣労働者の立場から抜け出せなくなり苦境に陥った男性がマツダで無差別殺人を起こすという事件が起きてしまった(マツダ本社工場での連続殺傷事件)。

派遣事業の種別

特定労働者派遣事業
派遣元に常時雇用される労働者(自社の社員)を他社に派遣する形態。届出制。
一般労働者派遣の業者に比べると、派遣先として対応する企業・職種の幅は狭いが、特定の事業所に対し技術者(主にコンピュータ・IT・エレクトロニクス機械設計関連)などを派遣するような業者が多い。
スキルアップのための講習会が充実しているところが多い。
一般労働者派遣事業
派遣元に常時雇用されない労働者を他社に派遣する形態。許可制。
臨時・日雇い派遣もこれに該当する。
一般的に「派遣会社」といえば、この形態の事業者が広く知られている。
スキルアップのための講習会を用意していないところもある。

法的制限

期間は原則1年。延長は最長3年まで可能だが、労働者の代表(過半数により組織される労働組合、または過半数により選任された代表者)の意見を聴取する義務がある。 なお、派遣労働者・派遣事業者の交代の有無にかかわらず、期間は同一業務について通算される[10]。 期間を越えて同一の業務を継続する場合、派遣労働者を直接雇用しなければならない。

但し、情報処理システムの開発や保守(IT関連)など政令で定める26の業務([2])については専門的な業務であるか、特別の雇用形態が必要とされることにより、期間の制限は設けられていない。

紹介予定派遣
労働者派遣の内、派遣先企業での直接雇用を前提とする形態。
一定期間派遣社員として勤務し、期間内に派遣先企業と派遣社員が合意すれば、派遣先企業で直接雇用される。ただし必ずしも正社員になれるとは限らない。前提になっているのはあくまで「直接雇用」なので、契約社員アルバイトも含まれる。派遣事業者は労働者派遣事業と職業紹介事業の双方の許可(届出)が必要。派遣期間は6ヶ月以内。
業種の制限
建設業務警備業務港湾業務医療業務に人材を派遣することはできない(ただし医療業務のみは、2006年3月1日より、紹介予定派遣出産育児介護休業の代替要員、僻地および社会福祉施設への派遣のみ可能になる)。
再派遣の禁止
派遣社員を派遣先からさらに派遣させることはできない。(二重派遣)
特定派遣先のみの派遣も禁止されている。(専ら派遣)
事前面接の禁止
派遣を受けようとする事業主は事前面接や履歴書の提出など派遣社員を「特定することを目的とする行為」をしてはならない。ただし、前述の紹介予定派遣を除く。

賃金について

派遣社員の賃金(交通費、福利厚生費等を含む)は、派遣先が支払う費用の約6 - 7割となる[11]。中にはグッドウィル2008年7月末に廃業)のデータ装備費のように、派遣企業が様々な名目で派遣社員から賃金を徴収しているケースがあり、問題視された[12]。グッドウィルのデータ装備費については、日雇い派遣労働者であった福岡の30歳代の男性がたった一人で、弁護士も立てずに返還を求めて提訴し、福岡地裁は2008年12月4日、グッドウィル側に全額返還を命ずる判決を下している[13]

歴史

日本で初めて、現在の形での人材派遣業を採用したのは航空機業界である[14]

  • 1986年7月1日:労働者派遣法施行
  • 1999年12月1日:労働者派遣法改正(派遣業種の拡大)[15]
  • 2004年3月1日:労働者派遣法改正(物の製造業務の派遣解禁、紹介予定派遣の法制化など)
    • 2004年の派遣法改正(物の製造業務の派遣解禁等)は内閣に設置された民間人による『規制改革会議』(議長 宮内義彦オリックス会長、奥谷禮子委員他)が提出した2002年「第2次答申」に基づいている[16][17]。このときに適正なセーフティーネットや雇用者に対する派遣先企業の責任が全く盛り込まれなかったため、今日の安易な『派遣切り』に結びついたといわれる。なお、オリックスの宮内会長は同種の規制改革会議の議長を1996年から2007年の小泉内閣終了まで11年間に渡って務めている。
  • 2006年3月1日:労働者派遣法改正(派遣受入期間の延長、派遣労働者の衛生や労働保険等への配慮)

労働者派遣法制定に至るまで

労働者派遣法施行以前は、上記のように、江戸時代以降に行われていた労働者派遣の劣悪な労働環境が深刻な問題となっていたため、職業安定法により間接雇用が禁止されていた。それにも関わらず「業務処理請負業」として、人材派遣会社が違法と知りながら労働者の派遣を行っていた。

労働者派遣法の制定にあたっては、施行前年の1985年女性差別撤廃条約を批准し雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律を改正したことにより、秘書受付嬢などのいわゆるピンクカラーを募集できなくなったため、派遣という形で引き続き対応させるために労働者派遣法を制定した、と言う説がある[18]

企業側のメリット・デメリット

メリット
  • 人件費の変動費化
    派遣社員への給与を、固定費としてではなく変動費として計上することが可能。また、企業が派遣元へ支払う金銭は消費税法上「課税仕入れ」となる。その結果国などに納める消費税等を安く済ませることができる。ただし後述のデメリットのように、トータルで人件費が抑制できるとは限らない。
  • 労働力を必要な時(業務繁忙期、年末調整など)にのみ、必要な分だけ、確保する事が容易。(労働力のジャスト・イン・タイム)
  • 自社の正社員採用にともない発生するリスク(不適切な人材の採用等)が減らせる。
デメリット
  • 派遣元企業のマージンが大きい場合には、派遣労働契約が長期化すると長い目で見て高コストになる。
  • 派遣社員は短期で入れ替わっていくため、特に製造業において技術の継承を阻む要因となる。

派遣社員側のメリット・デメリット

メリット
  • 個人で仕事を見つけにくい秘書などの業務では、就職口を探す有効な手段となる[2]
    • 大手企業の場合、秘書などの業務で派遣社員を活用していることが多い。
    • 派遣会社に登録することで、自分で探すのに比べ広範囲から仕事を探してもらうことができる。
    • 派遣会社の登録の際にスキルチェック等が行われ、自分にマッチした職に就くことができる
  • 就業条件を設定して働けるため、家事などと両立がしやすい[2]
  • 派遣先企業の雇用リスクを抑えられるため、企業の雇用需要を喚起し労働者に多くの雇用機会を与える。
  • 派遣先企業とのトラブルにおいても派遣会社の仲介や援助が得られる。
  • 自己のスキルアップに応じて単価が上がるため、年功序列の労働形態に比べ自己啓発のモチベーションにつながる
  • 派遣先企業で長期にわたって働くわけではないため、人間関係等の問題に煩わされることが少ない。
  • 派遣先の労働時間に応じて賃金をもらうため、サービス残業の強制がされにくい
  • 多くの派遣先にかかわることで、一社のみで働くのにくらべ多様な知識や経験が得られる
  • 引っ越し等のライフイベントに応じて柔軟に派遣先を変更することができる
デメリット
  • 将来への見通しが不安定
    • 若いうちは良いが、年を取る(目安は35歳という指摘がある)と仕事が無くなっていく[2]
    • 有期契約および時給契約であるため、企業の暇忙により随時雇用と契約終了が実施される。
    • 派遣契約が最長3年という期間制限があるため、期間満了後に直接雇用されない場合は職場を変えざるを得ないことが多い。
    • 不況になると、派遣切りに遭うリスクがある。派遣先による契約の中途解除といった人件費カットの対象にされ、派遣先の正社員より仕事を失いやすい。
  • 労働内容が正社員と差がない場合がある。
  • 派遣先企業の都合で配属先や勤務時間等が頻繁に変えられる例や、急に解雇される例などのトラブルが多発している(派遣労働力の担当は人事・労務ではなく資材調達[要出典])。
  • 派遣先企業が支払う派遣費用に対して、派遣労働者に直接渡る賃金は少ないため、派遣先企業と派遣労働者との間で、提供する労働とその対価について、両者で認識のギャップが生じる。特に特定労働者派遣事業においては派遣会社での年功序列による単価で給与が支払われることが多く[要出典]、派遣先企業での派遣単価や作業の難易度が上がれば上がるほど、派遣社員に対する賃金が割に合わなくなる。また日当や宿泊費などの手当については派遣先企業からは派遣先のルールに従って派遣会社に手当が支払われるが、派遣社員本人には派遣会社のルールに基づいて手当が支払われるため、日当や宿泊費が減額されたり、丸ごと中抜きされるケースも少なくない[要出典]
  • 就職活動の際に、派遣労働の経験がキャリアと認められないことが多い[2]
  • 派遣会社によっては、派遣社員のスキルアップを目的とした講習会が設定されているところだけではなく、派遣社員のスキルを十分把握できていないことがあり、スキルのミスマッチが潜在している状態で最初から現場に投入されるケースがある[要出典]
  • 住宅ローンを借り入れる際など、金融機関による信用を受けにくい。ただし、定期で安定的な収入がある場合はこの限りではない。
  • 正社員と同等の能力があったとしても、社会的信用は劣る場合が多い。(派遣元の規模や本人の年収、勤続年数によって決まるため)
  • 労働組合は正社員の待遇改善だけで精一杯の状況なので、連合によれば、「『派遣切り』を打開する有効な策はない。まずは、正社員を守る闘いをしていく」という方針で、労組によってさえも派遣社員の権利が守られる状況にない[19]

問題例

問題例は数多く発生しているが、有名なものだけを紹介する。

  • フルキャスト」は法律で禁止されている警備業務の派遣を行っていたとして2007年1月~3月にかけて家宅捜索と行政処分を受けている。また、禁止されている港湾業務における荷役の労働者派遣を行ったことにより、事業停止命令を受けた。[3]
  • ヨドバシカメラ上野店」での派遣社員に対する暴行事件で、ヨドバシと派遣会社が提訴された事から発覚したケースがある。 [4][5]
  • パソコンメーカーの「デル」が、法律で禁止されている事前面接を行い、罰金刑を受けたケースがある。これは氷山の一角に過ぎず実際には広く行われている。
  • グッドウィル」は「データ装備費」と称して1回の労働につき200円を給料から天引きする形で派遣者から徴収していた。グッドウィルは「データ装備費」は派遣先での破損や事故の際の保険料や、備品調達のために使う金としていたが、実際にはこれら徴収された金を利益の一部として計上していた。(フルキャストなど他の派遣会社も「業務管理費」として同様の行為をおこなっていたが、現在では批判のため廃止しているところが多い。)また禁止されている二重派遣により、これもまた禁止されている港湾業務における荷役の労働者派遣が行われていた。
  • アイライン」はキヤノン宇都宮工場で偽装請負を行なっており、偽装請負に対し労働局が指導を行なった。また本件は衆議院予算委員会公聴会で取り上げられている。[20]
  • 名古屋市の人材派遣会社『マルゼンロジスティックス』は、長浜キヤノン(キヤノンの子会社。滋賀県長浜市)へ労働者を派遣してきているが、同社との請負契約終了に当たり、実際には解雇しているのに、『自己都合退職』のように装うため、退職届を提出させていたことが発覚。『自己都合退職』扱いにされると、失業給付金をすぐには受け取れないなど問題が多く、労働者を支援する労働組合から、非難の声が上がっている[21]

労働者派遣事業者

◆あ

◆い

◆う

◆え

◆き

◆く

◆け

◆こ

◆さ

◆し

◆す

◆せ

◆そ

◆た

◆つ

◆て

◆と

◆に

◆ね

◆は

◆ひ

◆ふ

◆へ

◆ほ

◆ま

◆み

◆む

◆め

◆や

◆よ

◆ら

◆り

◆ろ

◆わ

中国

中国では、国外へ労働者を派遣し業務を請け負う企業が増加している。取引規模は約20兆円(2008年3月)[22]。しかし、労働者に「国外で稼げる」と言って保証金を取り立てて放置をするケースや、素人を派遣して派遣先企業ともめるなどのトラブルが発生している[22]。こういった事態を受けて、中華人民共和国商務部は、ブラックリストの制作、違法行為の取り締まりを行うとしている[22]。 また、中国が安価な労働力の供給源となることで、日本の派遣労働者に雇用条件の悪化という形でしわ寄せがいくとの見方もある。実際に、アメリカではプログラマーなどの専門職ホワイトカラーですら人件費の安い中国人に仕事を奪われワーキングプアに陥るケースが続出した[23]

関連作品

脚注

  1. ^ [1]名古屋市:契約・派遣社員に対する意識調査」
  2. ^ a b c d e 瀬戸久美子「“ハケン”を続けて、幸せになれますか?派遣社員の女性の実態に迫る」『日経ビジネスオンライン』日経BP社、2008年7月15日付配信
  3. ^ 「派遣は格差社会の元凶ではない」(日本人材派遣協会
  4. ^ 「【秋葉原通り魔事件】犯行使用のナイフとは別の刃物も所持 過去30年で被害最悪か」産経新聞2008.6.8
  5. ^ http://sankei.jp.msn.com/topics/affairs/11031/afr11031-t.htm
  6. ^ http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090128/crm0901280130001-n2.htm
  7. ^ http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090117/crm0901171228004-n1.htm
  8. ^ http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090128/crm0901280130001-n2.htm
  9. ^ NHKや新聞各社など
  10. ^ 「業務を処理する最小単位の組織において営まれる業務は、すべて単一の業務とみなされる。一般的には係、班のレベルと考えればいい」(日本労働弁護団常任幹事で弁護士の中野麻美氏)(「【特集】派遣の現場 頼りすぎたメーカーの現実」『日経ものづくり』11月号、日経BP、2008年。pp.44-61)
  11. ^ 田中龍作「【ハケンという蟻地獄】「派遣」の正しい理解の仕方(下)JANJAN、2008年6月29日付、2008年7月19日閲覧。
  12. ^ 「廃業するグッドウィル社員の平均年収を分析」『MONEYzine』2008年7月10日付配信
  13. ^ 2008年1月5日発売・集英社・週間プレイボーイ44巻2号55ページ
  14. ^ 夢の追える社会をつくるために 植松電機 植松努さんの挑戦 ―赤平―」『カムイミンタナ』2007年09月号
  15. ^ 日経連が1995年にコア事業以外の一般職を派遣に切り替える案を発表しており、それを受けての改正という説がある『東洋経済』2007年6月23日号
  16. ^ 総合規制改革会議「第2次答申」
  17. ^ http://www8.cao.go.jp/kisei/siryo/sassi2/05.pdf 派遣労働者が多様な働き方を選択できるようになりました
  18. ^ ダニエル・H・フット『裁判と社会―司法の「常識」再考』溜箭将之訳 NTT出版 2006年10月 ISBN:9784757140950
  19. ^ 2009年2月20日 読売新聞
  20. ^ 日経ビジネス2007年4月2日号「『抜け殻』正社員:派遣・請負依存経営のツケ」、2006年7月31日朝日新聞「「偽装請負」労働が製造業で横行」、2007年2月21日朝日新聞「偽装請負への思い、国会で訴えへ キヤノン工場の男性」、2007年2月22日朝日新聞「キヤノン請負労働者「生身の人間。正社員と同じ賃金を」
  21. ^ 人材派遣業:解雇なのに「退職届」…名古屋の会社 毎日新聞 2009年5月2日
  22. ^ a b c “悪徳人材派遣会社を一掃・ブラック業者リストを作成―中国”. レコードチャイナ. (2008年6月15日). http://www.recordchina.co.jp/group/g20410.html 2009年1月29日閲覧。 
  23. ^ NHKスペシャル』「ワーキングプアII 努力すれば抜け出せますか」(2006年12月10日放映)

関連項目

雇用
関連する業務形態
社会問題

外部リンク

人材派遣(じんざいはけん、: worker dispatching system労働者派遣(ろうどうしゃはけん)とも)とは、派遣元となる派遣業者に登録している者を、派遣先となる事業所へ派遣して、かつ派遣先の指揮命令のもとで労働サービスを提供する雇用形態のこと[1]である。日本では労働者派遣法法令の根拠としている。

なお、まちづくりなどの分野で、専門家を派遣する場合を「人材派遣」と称している。これは市民が主体となってまちづくりや地域計画、地区計画の提案や構想、マンション建替え検討等を行う場合に、地方自治体があらかじめ斡旋している専門家を当該地区に派遣し、合意形成や法制度、空間運用等、適正な計画づくりを支援するための人材派遣制度、アドバイザー制度で使用している。たとえば、東京都防災建築まちづくりセンターなどのまちづくり専門家等登録派遣制度があり、相談に応じて適切な専門家を紹介・派遣する制度としてまちづくりセンター人材バンクを設置している。

概要

労働者派遣の法的な位置づけ

労働者派遣業を行う業者は、1975年頃から急速に増えた。これに対応し、1985年6月に、派遣労働者の保護を目的とした「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(以後労働者派遣法)が成立し、翌1986年7月に施行された[2]

労働者派遣法第2条では、労働者派遣を以下ように定義している[3]

自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする

業務請負契約との相違

労働者派遣法によって労働者派遣契約は従来の業務請負契約と明確に区別されることになった[3]という。

業務請負では、請負労働者は自身が雇用関係を結ぶ企業(=請負業者)と注文主の企業との間で締結した請負契約にもとづいて労働を提供する。そのため、労働者の指揮命令権は注文主の企業ではなく、あくまでも請負業者にあると定義されている[3]

一方、労働者派遣では、派遣業者と派遣先の企業が派遣契約を結び、派遣業者と派遣労働者が雇用関係を結び、派遣先の企業と派遣労働者が使用関係を結ぶ、言うなれば三角形の関係にある[3]。そのため、労働者の指揮命令権は派遣先の企業に認められている[3]

労働者派遣の分類

定常型派遣

派遣先の有無に関わらず、常に派遣業者と雇用契約が結ばれている状態の派遣。

登録型派遣

派遣先が存在する時のみに、派遣業者と雇用契約の関係が生じる状態の派遣。派遣労働者の4分の3以上がこの登録型派遣に当てはまる。

日雇い派遣

登録型派遣のうち、雇用契約の関係が生じる期間が30日以内のものを特に「日雇い派遣」と呼ぶ[4]

法令と異なる名称

法令上は「労働者派遣」が正式の名称であるにもかかわらず、わざわざ「人材派遣」という名称を使用する業者や人がいる[5]。これは以下のような理由によるともされている[1]

  • 派遣先への直接雇用の意味合いを持たれるため
  • 「労働者」という言葉が、「ブルーカラー」をイメージさせることがあり、それを避けるため
  • 適性な「人材」を派遣して、労働サービスを提供する事業形態であるという印象を持たせるため

人材派遣という言葉の意味が明確ではないことの行政上の実例として、商業登記先例が挙げられる。2006年までは、会社の目的登記の表現には具体性が要求されており、会社目的の登記先例を掲載した目的事例集[6]によれば、「人材派遣業」という用語は具体性を欠くものとして登記不可とされていた。このため、登記実務上は、「労働者派遣事業」など労働者派遣法に則した表現を用いている。

2006年以降、人材派遣業でも登記は可能となっているが、法人が一般労働者派遣事業の許可申請や特定労働者派遣事業の届出を都道府県労働局に対して行う場合、定款の目的には、「労働者派遣事業」を行うことが記載されていることが求められており、「人材派遣業」では認められない運用である[7]。 よって、労働者派遣事業を行おうとする事業者は、事業目的を、「人材派遣業」ではなく、「労働者派遣事業」と定める必要があるのが原則ではある[8]

人材派遣業務をおこなっている企業

問題点

事前面接の横行

労働者派遣事業は本来、派遣先企業の要望を受け、登録された者から最適な者を選び出し、派遣先企業の詳細を正確に登録者に伝達するサービスである。そのため、労働者派遣法第26条で「派遣労働者を特定することを目的とする行為」は制限されているにもかかわらず、「見学」「面談」「業務確認」などの様々な呼称を用い、派遣業者が派遣先に派遣労働者を紹介する行為が横行している。業務を紹介する立場である派遣業者の社員が、その業務についてよく分からないと称して事前に面談を行なうケースが多い。これは法令順守以前の業務不履行であるため、政府は法令順守を強化するよう派遣企業に求めている。

日本経団連は、政府に対する雇用・労働分野の規制改革の要望に、事前面接の全面解禁を盛り込んでいる。全面解禁になると、派遣労働者の立場が今以上に弱くなるのは決定的と見られており、派遣労働者からは、パワーハラスメントの更なる横行が懸念されている。

また一部の面談では、面談時に正社員採用も考えると、実質虚偽の内容が含まれた面談も報告されている。特に上場企業で派遣社員を正社員として採用した例は極めて稀である(工場勤務等は除外)。

契約更新の問題点

大手労働者派遣会社に多く見られる3ヶ月更新の労働条件は、使用者と労働者双方にとって更新を拒否する自由があることを意味するが、実態は労働者側からの更新拒否を、法律の原因なく甘受しない企業も少なくない。「1年以上の長期間の就労を期待しつつも、契約は3ヶ月更新を要求する」など、労働者にとって不利な提示がなされている。

日本の国際競争力低下の懸念

日本は原材料を輸入して加工し、製品を輸出して成り立っている典型的な加工貿易国家である。日本は世界でも最高水準の品質の製品を多数生産し国際競争力を保持しているが、社外の人間であり、短期就労がほとんどの派遣社員に製品への忠誠心や品質意識を要求するのはほとんど不可能である[要出典]

現在は純粋にコスト面から労働者派遣制度を利用する例がほとんどであるが、国際競争力保持を視点に入れた労働者派遣制度に転換していかないとコスト面よりも主に品質の面から、日本の国際競争力を徐々に低下させる危険性があり、コスト・品質を両立させうる長期的観点からの対策が求められている。自動車総連が非正規雇用者について所属組合に実施したアンケート調査(カッコ内は回答比率、複数回答)では、「技能・技術の伝承で課題がある」(52.6%)、「製品・サービスの質が低下する」(28.3%)といった点へ影響が出ているとの指摘がある[9]

また、労働者派遣等の非正規雇用による生活の不安定化は、独身者の増加を招き少子高齢化をさらに進行させている。雇用の不安定化は根本的かつ長期的に日本の国際競争力の低下を招き、日本の国内市場を縮小させている大きな要因であるとの指摘がある。

利益相反

派遣社員が勤勉に働くほど、派遣先企業は従来正社員が行っていた業務が派遣社員でも遂行可能なら、正社員の雇用を抑制可能と判断する現象がおきている[要出典]。正規雇用の見込みがなければ、派遣社員の勤勉さと派遣先企業とは根本的に利益相反であるとの指摘がある[誰?]。 派遣社員を必要とするのは大企業とその子会社・関連会社をはじめ、一定規模以上の会社がほとんどだが、上場企業とその子会社にあたる会社が実際に派遣社員を正社員として採用することは事実上ほとんどない[要出典]

派遣社員側からすると、派遣先企業は他社であるため、派遣先企業で正規雇用される見込みや、契約更新時に賃金単価の上昇がない場合、契約停止されない最低限の労働しか必要なくなる。また派遣先企業固有の業務知識は、他社の人間であり最長3年契約が主流の派遣社員にとって本来関係ないため、派遣先企業固有の業務知識習得の士気は低調であり、業務の質にも影響がでてくる。[要出典]

近年派遣社員に対し「正社員としての採用も考えると甘言で誘い、安く使おう」というケースが横行している。ほとんどの派遣社員が「派遣先企業から正社員としての採用も考慮してあげるから、賃金単価の上昇はないけれども契約内容以上にもっと頑張ってほしい」と、虚言と圧力を受けたの報告がなされている[誰?]

若者の誠実さ・純真さに付け込んでいるだけの非常に悪質なケースが多いとの報告も多数もたらされている。中には大手労働者派遣会社が求職者を正規雇用の面談と称し、実際は非正規雇用の面談に連れ出した極めて悪質な例も報告されている[要出典]

健康保険組合

労働者派遣を行う事業者の業界団体である「社団法人日本人材派遣協会」は、2002年に人材派遣健康保険組合(通称「はけん健保」)を設立した。従来、派遣労働者は、派遣元である労働者派遣事業者との契約が月単位となっていることを利用し、継続雇用されていないことを理由に健康保険制度厚生年金保険制度に加入しないことが多かった(これら制度に加入するためには、3ヶ月以上の継続雇用が必要であるが、3ヶ月以上継続雇用されれば必ず加入させなければならない)。

この取扱いは、派遣労働者にとっては保険料を負担しないことによる手取り収入の増加、派遣元である派遣事業者にとっては保険料負担軽減および社会保険関係事務の軽減、派遣先企業にとっては派遣単価の圧縮、というメリットが存在したため、雇用関係が実質3ヶ月を超えても、健康保険制度へ加入させない脱法状態が長く続いていた。特に労働者派遣事業を専業にしている者には、意図的に社会保険制度未加入を行うものも存在した[10]

しかし、2002年に会計検査院が厚生省に行った検査の中で違法であると指摘[11]。さかのぼって健康保険を適用し、多額の保険料が追徴される事態となった。この状況をみて、業界団体が主導して、やむをえず健康保険組合を設立するにいたったものである。政管健保に加入する方法もあったが、比較的若い派遣労働者のみで保険の母集団を構成したほうが、健康保険料率を低く設定できるため健康保険組合制度が採られたとされているが、後期高齢者医療制度の影響により現在では高い保険料率となっている(この制度は加入者数に応じた頭割り計算で拠出金を決めるため、若く所得が低い者が多い組合では非常に大きな負担となる傾向がある)。[12]

また、健保組合(組合健保)であるため、国民健康保険(国保)に比べ休業補償等の補償が手厚いというメリットもある。

労働者派遣事業者の中には、商社銀行系列を中心に、「はけん健保」成立前にすでに健康保険に加入しているものも多数あった。

なお、派遣事業者が商社や銀行、大手メーカなどのグループ企業の1つである場合、親会社の健康保険組合に加入する形式を採ることもある。

労働者派遣肯定側からの反論

労働者派遣業界への批判に対し、主として派遣先と派遣元の経営側からは以下のような反論が行われている。

マージンを多く取りすぎている

労働者派遣会社は派遣先企業からの支払いのうち50%前後の額を派遣会社が徴収し、純益としているといった話が広く浸透しており、しばしば「派遣=奴隷制度」「搾取社会の象徴」、また労働者派遣業者は「ピンハネで不当に儲けている」といった批判の対象となっている。

労働者派遣会社側は否定しているが、大半がその企業の決算報告書から導きだせる割合ではなく、真偽の確認が困難で信憑性に乏しい。真実と仮定しても、統計的見地から導き出された数値ではないケースがほとんどである。

アデコフジスタッフなどの独立系の労働者派遣会社の場合、利益は社会保険(労使折半)や有給休暇の負担、福利厚生、事務所の地代家賃や人件費などの経費を加味してのことなので例えば一等地にある大型の労働者派遣会社のマージンが30%だとしても、額面どおりの利益にはならない。 これは一般企業(たとえば印刷業や流通業)の年商を社員数で割った数字が、そのまま社員各々の年収となるよう分配することが出来ないことと同じ道理である。大まかにであるが有休には派遣社員の給料の5%程度が当てられ、社会保険には7~10%程度が当てられている。また、上記のような義務的経費に加え、経理担当者や営業担当者やスタッフへの指示担当者の人件費、広告費、大型ビルの地代家賃・光熱費また、など派遣事業にかかる経費などをも総合して加味すると、営利企業として利益を上げるには30%程度のマージンを取らざるを得ない。[13]

実際の労働者派遣業は薄利多売であることは労働者派遣企業の財務諸表からも分る。例えば、労働者派遣大手であるテンプスタッフの2007年度の売上高が1618億円なのに対して、営業利益が70億なことからも推察できる。売り上げ額の1600億円に対して70億円程度を純益としている場合は、派遣企業がマージンから経費を除いた純粋な利益は4.5%程度である。 また、2006年度の決算での業界上位五社の営業利益[14]はテンプスタッフの4.5%が最大であり、労働者派遣最大手のパソナの営業利益は3%にしか過ぎない。

正社員が派遣で代替され、正社員としての雇用機会を奪っている

日本の正社員は身分保障が非常に強く、その分企業の労働力需要を抑制し、労働者の雇用機会を損ねているという指摘がある。実際新卒以外の人が正社員として企業に就職するには手段が限られており、派遣労働者が企業の労働需要を満たしている。

派遣社員は低収入で、いわゆる格差やワーキングプアの原因になっている

本来、労働者派遣会社は同時通訳や財務処理、ソフトウェア開発など一般企業の正社員には困難な、特筆すべき技能を有している者を「一時的に外部から拝借する」手段であるため、かつては派遣社員というのは一般的に正社員よりも高給取りで、様々な会社を転々とするスペシャリストだとみなすことが一般的であった。しかし、一般企業が人件費を圧縮する手段として労働者派遣会社を利用する傾向が1999年(法改正後)から顕著化し、2008年現在においては技能未習得者のみならず、就労未経験者をも受け入れ、即戦力としてでなく「定型的な単純作業を行わせるための人材」を確保する手段として、派遣会社を利用する企業が急増している。

労働者派遣企業は本来労働者が全額を得るべき労働対価を収益源としている

企業が正社員を雇用するということは莫大な経費が発生し、かつその社員を原則、定年まで雇用し続けることを前提とした賃金設定を行う必要がある(ボーナスは除く)。さらに、たとえば1万人の派遣社員を正社員として雇用した場合、1万人分の労働管理や経理事務が発生することを意味する。必然的に管理職や経理担当者の増員を迫られ、これらの人件費も発生する。また正社員は景気循環や季節変動に応じた雇用の調節が困難である。 こうしたことから、企業が正社員を雇い入れるということはイニシャルコスト・ランニングコスト両面で大きな負担を強いられる。労働者派遣会社が純利益とできるマージンを仮に5%得たとしても、企業はこの負担を相殺し、さらに企業にとって利益となる。労働者派遣企業は派遣先企業の労務費に弾力性を与え、企業体質を強化するサービスの対価として利益を得ている。

派遣先企業の誤った認識がトラブルの原因である場合も多い

派遣先の企業担当者が、派遣労働者に誤った認識を持って接し、トラブルにつながる例も多い。労働者派遣を利用して日の浅い企業でよく見られるケースだが、派遣先担当者が派遣労働者に対して、社員に準じて仕事を自ら進んでするべきとの態度で接し、ノルマ・成績まで社員に準じて要求する場合がある。派遣社員側が保険加入でない場合は、短期のアルバイトとしか考えていないケースがほとんどのため、大企業の正社員に準ずる労働水準という、極めて過剰な要求を受け、トラブルになり早期に派遣社員側が退職し、双方に不利益な結末となる例が多い。

なかには派遣社員に高度情報処理技術者試験に合格するよう要求する極めて過剰な要求例も報告されている[要出典]。高度情報処理技術者試験に合格できる人間は情報処理技術者の中でも限られており、対応の困難な要求であるし、高度情報処理技術者試験に合格できる実力を持つ人間が派遣社員としてそのまま勤務し続けることはほとんどない。

また正社員側が、派遣元にクレームを入れるぞと派遣社員を恒常的に恫喝し続け、正社員に準ずる労働水準を強要し関係が極度に悪化し派遣社員側が辞職したく故意にミスを犯したり、故意に派遣先に損失を引き起こし、派遣社員が辞めるときに派遣先の問題点を全て派遣先の人事・総務に報告し、トラブルになるケースが報告されている[要出典]

派遣社員側からは企業の総務・人事担当者に、恒常的に恫喝し続けるというような行為を取締まるよう求める声がある。 中には正社員が私的都合のために、派遣社員に社内規則に違反したことを指示したり、会社の損失さえ無視する極めて悪質な例や、正社員が責任を回避するために、派遣社員に明確な指示を与えず業務を遂行させ、問題が発生したら自分は派遣社員に対して指示を出していないと主張する例がかなりの数報告されている[要出典]。派遣社員側から総務・人事へ正社員の悪質な行為を通報する制度の整備や、それによって派遣社員側の不利益が発生しないよう環境の整備が必要との声が、派遣先企業・派遣社員双方からある[誰?]

また派遣社員側は外部の人間のため、派遣先の指示なしでは動けない場合も多い。また派遣会社も場合によっては指示なしで行動せず、言動には慎重を期すよう教育していることもあり、社員に準じて率先して自ら動く人材を求める場合は、準社員や契約社員の方が労働者派遣よりも適している場合が有り、派遣先企業の認識不足で労働者派遣がミスマッチとなっている例も多く報告されている[要出典]。また労働者派遣では派遣社員に完成責任は無いため、完成責任を有する請負の方が適した場合もある。

派遣制度は一部の労働者にはメリットのある制度である

大手労働者派遣会社の場合は3~6ヶ月毎の更新契約が多いため、このことが精神的な圧迫になる者もいるが、逆にイニシアチブを一生就業先に預ける必要がないことに魅力を感じる者も少数存在する。

正社員では社内規定に基づいた平均化された給与と同一化され、能力に応じた支払いを受けることが難しい企業もなかにはあるが、高度な技術を身につけた人材は高額な給与と時間的な自由度が高い派遣先だけを選ぶことにより、年収を向上させていくことができる。企業の人材育成意欲が低下している中[15]、企業に頼ることなく自らのキャリアアッププランを明確に持つことで、長期的にみれば会社に頼るのに比べ安定した収入を得ることができる。特に、派遣社員には原則、退職金やボーナスなどの待遇はない代わりに、業種や派遣社員の技能によっては月々の手取額が、中小企業のキャリアの浅い正社員よりも高くなることがある。このことで得た一時的な現金を元手に、留学や習い事に自発的に投資してさらなる能力を身に付けるという自己啓発計画をメリットに感じる者もいないとはいえない。一方大企業の正社員より給料が高いことはほとんどない。[要出典]

しかし製造業で働く派遣労働者の中で、何某かのメリットによって積極的に派遣労働者を選んだのは約3割だったという調査結果もある。 [16]

脚注

  1. ^ a b 原田二郎『あなたの知らない人材派遣』p.13
  2. ^ 南山大学)渡辺直登、水井正明、野崎嗣政 1990「人材派遣会社従業員のストレス、組織コミットメント、キャリアプラン」経営行動科学 第5巻 第2号
  3. ^ a b c d e 「人材派遣会社従業員のストレス、組織コミットメント、キャリアプラン」p.76
  4. ^ 登録型派遣の規制を
  5. ^ 業界団体の社団法人も、その名に「人材派遣」の語を用いている。
  6. ^ 日本法令や、各法務局が編纂
  7. ^ 労働者派遣事業、労働者派遣業、一般労働者派遣事業、特定労働者派遣事業、いずれも可能。
  8. ^ 実際には労働局によっては「人材派遣業」「○○の派遣業務」でも「労働者派遣事業を行うことがわかる」と言うことで受理、許可をされている。
  9. ^ 「非正規、自動車技能伝承に課題 製品・サービスの質にも影響」共同通信、2008年9月4日付配信
  10. ^ 公演録「パソナの企業戦略と経営理念」南部靖之(株式会社パソナ代表取締役社長)1999年1月29日
  11. ^ 会計検査院 平成11年決算検査報告
  12. ^ 平成20年4月から高齢者医療制度が変わり、健保組合の保険料が急増します
  13. ^ 派遣料金の仕組みについてご説明します 派遣スタッフの皆さま|社団法人 日本人材派遣協会
  14. ^ 派遣会社経営/上場5社の損益計算書主要指標比較
  15. ^ 教育訓練に取り組んだ企業の割合が低下、労働者一人当たりの教育訓練費も減少
  16. ^ 派遣労働者:製造業の7割が「消極的理由で」NPO調査」毎日新聞2008年11月2日

関連項目

外部リンク

警告: 既定のソートキー「しんさいはけん」が、その前に書かれている既定のソートキー「ろうとうしやはけんしきよう」を上書きしています。