「ネギトロ」の版間の差分
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一方、トロを使用しないこれらの商品について「ネギトロとは名ばかり」、「植物性油脂を入れているのに、その表示がない」などの批判があった{{Sfn|八藤|2000|pp=74-80}}{{Sfn|月刊消費者|1993|pp=52-53}}。人気の中で粗悪品が出回るトラブルもあった{{sfn|総合食品研究所|1990|p=98ー99}}。赤城水産はマグロ抽出油を添加するなど、低コストで風味を向上させる製法を開発。[[ドコサヘキサエン酸]]と[[エイコサペンタエン酸]]を多く含む製品となり健康志向にマッチしたことで、消費拡大を加速させた{{Sfn|生活情報センター編集部|2008|pp=52-53}}。 |
一方、トロを使用しないこれらの商品について「ネギトロとは名ばかり」、「植物性油脂を入れているのに、その表示がない」などの批判があった{{Sfn|八藤|2000|pp=74-80}}{{Sfn|月刊消費者|1993|pp=52-53}}。人気の中で粗悪品が出回るトラブルもあった{{sfn|総合食品研究所|1990|p=98ー99}}。赤城水産はマグロ抽出油を添加するなど、低コストで風味を向上させる製法を開発。[[ドコサヘキサエン酸]]と[[エイコサペンタエン酸]]を多く含む製品となり健康志向にマッチしたことで、消費拡大を加速させた{{Sfn|生活情報センター編集部|2008|pp=52-53}}。 |
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2022年7月6日 (水) 02:22時点における版
ネギトロは、日本で生まれたマグロを生で食する調理法で、マグロのトロまたは中骨に付く「中落ち」や腹などの「すき身[注釈 1]」をたたき[注釈 2]、ネギなどと合わせたものである[4][5]。軍艦巻き[6][4]、細巻き寿司[7][8](ネギトロ巻き)[9][10]など寿司のほか、丼物(ネギトロ丼)の材料に使われる[11]。ネギを含まないマグロすき身のたたきのみの素材をネギトロと呼ぶこともある。
寿司店の商品としてのネギトロ巻きは、1960年代半ばに東京で生まれたとされる(#起源)。語源は諸説ある(#語源)。
歴史
前史
日本において、マグロを寿司ネタに用いるようになったのは、江戸時代後期の文政年間(1818年-1830年)、江戸の華屋与兵衛が握り寿司を開発し、シャリに、それに見合う大きさに切った魚介を載せた[注釈 3]。関東で醸造が行われるようになった醤油を付けて食し、マグロは一定時間それに漬けたもの(「ヅケ」)を供した[13][14][15]。脂分が多く、日持ちしない「トロ」は廃棄されていたが、昭和時代に入ると、輸送・保冷技術の発達により、トロを食すことが一般化した[16]。
起源
ネギトロ巻きの誕生は、1964年(昭和39年)、浅草に本店がある金太楼鮨とされる。残った寿司種を手巻き寿司にして賄いで食していたが、鉄火巻きに使用する中落ち・すき身にネギを加えると、マグロの脂っぽさが打ち消されたので、それを常連客に提供したところ好評で、メニューに採用された[17][注釈 4]。また、銀座『鮨さゝ木』の佐々木啓全(ひろまさ)考案との説もある[4]。
しばらくは東京を中心としたごく少数の寿司店で、主に客が注文すれば出すという「裏メニュー」の状態だったとみられるが、マグロとネギ、ノリの相性の良さから、女性客を中心に人気を集めていった[19]。
1970年代にはノリの広告で手巻き寿司の組み合わせの1つとして「ネギトロ」という言葉が確認される[20]。1980年代には握りずしに使えない切れ端のトロや、金太楼鮨同様のすき身を使用するなどして、ネギをつかったネギトロ、三つ葉とと合わせた「みつとろ」、山芋と合わせた「やまとろ」などが全国の寿司店の新しい寿司ネタとして提供された[21]。
昭和60年代(1985年-1989年)頃に、巻き寿司として定着[22]。人気寿司種などに関する寿司店へのアンケートでは、ネギトロ巻きは巻き寿司で1981年に全国7位、東京で3位の人気にとどまったが、1992年には全国・北海道東北・関東・東京・関西で人気1位に上昇した[19]。
ネギトロが人気を集める中、伊香保温泉の旅館にマグロの刺身を供給していた群馬県渋川市の赤城水産は、これまで廃棄していた部位を利用しようと、1987年(昭和62年)に、中落ち・すき身のミンチに油脂を加えた商品を開発。「ねぎとろ」と命名した。トロの叩きに似た食感で大量生産が可能となり、1988年には東京・築地市場で販売を開始して一大ブームを起こす。他社も相次いで参入した[23][24]。こうしてネギが含まれないマグロの赤身に油脂などを混ぜたものも一般にネギトロと呼ばれ広まった[25]
一方、トロを使用しないこれらの商品について「ネギトロとは名ばかり」、「植物性油脂を入れているのに、その表示がない」などの批判があった[26][27]。人気の中で粗悪品が出回るトラブルもあった[23]。赤城水産はマグロ抽出油を添加するなど、低コストで風味を向上させる製法を開発。ドコサヘキサエン酸とエイコサペンタエン酸を多く含む製品となり健康志向にマッチしたことで、消費拡大を加速させた[28]。
名称の由来
以下のような説がある。
ネギとトロを使ったからとするもの
文字通り、「ネギ」とマグロの「トロ[注釈 5]」の組み合わせだから[30]。1980年代にはトロと香味野菜を組み合わせた新作寿司が登場しており[21]、トロ、ネギ、ノリの組み合わせは相性の良さから広く人気を集めた[19]。
トロはマグロの部位ではなく食感などに由来するとするもの
金太楼鮨(#起源)社長は、当時とろろ麦飯を供する浅草の飲食店「麦とろ」が人気だった事からその名前にあやかりネギトロとしたと語っている[17]。トロに似せて作られ1988年以降に普及した工場生産のマグロすき身も、赤城水産の「ねぎとろ」をはじめとして名称にトロを入れている[23][24]。
ネギも野菜ではないとするもの
建築用語で、建物の基礎を形成するために、地面を掘ることを「根切る」と呼んだことから転じて、身をこそげ取ることを「ねぎる」「ねぎ取る」と言ったからだという説[9][4][4][5]。辞書編纂者の飯間浩明は、「ねぎ取る」の使用例が確認できないことから、実例がない動詞を語源にするのは無理があると主張する[31]。1990年代までは本来のネギトロはトロとネギの組み合わせと見なされており[30][19]、「ねぎ取る」説は主に2000年代以降に登場する[9][4]。
製法
マグロの中骨に残る「中落ち」や、皮に残った身をすき取ったものを、ネギなどと叩いてミンチ状にする[32][4]。
スーパーマーケットなどで販売されているネギトロには、水産加工工場で大量生産されたものもある。キハダマグロやカジキマグロ・メバチマグロ、あるいはビンナガマグロなどの赤身に、植物油脂やショートニング、ラードや、酸化防止剤、調味料などを添加することがある[33][34][注釈 6][注釈 7]。専用の油脂製品もある[注釈 8]。
ネギトロを使用した料理
ネギトロ巻き
ネギトロを具材とし、細巻き寿司や軍艦巻きとして供される。赤身もトロも用いられる。細かく刻まれた長葱や浅葱を加えることもある[8][4][6][7][8][10][36]。
トロタク巻き
たくわんとネギトロを芯とする。北海道の寿司屋が考案したとされる[37][38][39]。
ネギトロ丼
寿司飯もしくは白米[40]を丼によそい、その上にネギトロを盛る[11]。「中落ち丼」とも呼ぶ[41]。
国外での受容
国外での受容例として、カリフォルニアロールの一種である、スパイシー・ツナ・ロールが挙げられる。チリソースとマヨネーズで味付けした、ネギを含まないマグロの叩きを酢飯に巻く。海苔は外側ではなく、中に巻き入れる(裏巻き)[42][43]。外側に一味唐辛子が降り掛けられる[44][45][46][4]。
1980年代、アメリカ合衆国カリフォルニア州・ロサンゼルスにて、「マネキレストラン(Maneki restaurant)」のジーン・ナカヤマ(Jean Nakayama)によって生み出され[47]、アメリカ国内で普及した[48][49]。
脚注
注釈
- ^ 「皮岸(かわぎし)[1]」やや「カッパギシ」と呼ばれることがあり、中落ちとは明確に区分されている[2]。
- ^ たたき【叩・敲】(動詞「たたく(叩)」の連用形の名詞化)1.(略)2.料理で、魚・鳥肉を包丁で細かく叩くこと。またその料理[3]。
- ^ 与兵衛以前に握り寿司が生まれていたとの説もある[12]。
- ^ 同店の3代目社長である間根山貞雄は、鉄火巻きの上にあやまって刻んだネギをばらまいてしまったのが、ネギトロの始まりだったと証言している[18]。
- ^ 東京・日本橋の吉野鮨主人、吉野正二郎の証言によると、トロを店で供したのは、マグロが不漁だった1919年-1920年(大正8-9年)頃といい、脂が多いので「アブ」と呼んでいたが、客から「口に入れるとトロッっとするから、トロでどうか」との言から、名称が決まったという[29]。
- ^ ネギトロに混ぜ物をすることに対し、消費者団体や週刊誌から、すさまじい水増しであり、深刻な健康被害につながると批判される[27][34][33]。
- ^ フリーライターでマグロ料理店を営む斎藤健次は、築地市場にて、脂がのっていなかったり、色が悪いために売れ残ったマグロを安く買い取り、植物性油脂を混ぜ、ネギトロに加工する業者がいると聞く。その業者は、無添加ネギトロは臭みがあり、不味いと断ずる[35]。
- ^ “日本油脂 とろみゆ”. 2022年5月20日閲覧。
出典
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- ^ 斎藤 2005, pp. 145–146.
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- ^ “The History of Sushi in America” (英語). MICHELIN Guide. 2020年8月25日閲覧。
- ^ Butler, Stephanie. “Nigiri to California Rolls: Sushi in America” (英語). HISTORY. 2020年8月25日閲覧。
参考文献
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- 海老沢志朗『かつお・まぐろと日本人』成山堂書店、1996年11月28日。ISBN 4-425-82611-6。
- 金山靖『寿司の教科書』宝島社、2013年9月。ISBN 978-4-8002-1499-7。
- 亀田尚己、青柳由紀江、J.M.クリスチャンセン『和食の英語表現事典』丸善出版、2016年。ISBN 978-4-621-30066-4。
- 菊地武顕『あのメニューが生まれた店』株式会社平凡社、2013年11月13日。ISBN 978-4-582-63486-0。
- 元気寿司株式会社監修『すしネタがいっぱい! 回転ずしまるわかり事典 お店のしくみから人気のヒミツまで』PHP研究所、2008年。ISBN 978-4-569-68906-7。
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- 河野博、茂木正人編『食材魚介大百科 別巻1マグロのすべて』平凡社、2007年2月16日。ISBN 978-4-582-54576-0。
- 河野博監修『マグロの大研究』PHP研究所、2015年5月8日。ISBN 9784569784656。
- 斎藤健次『俺たちのマグロ』小学館、2005年7月1日。ISBN 4-09-379714-5。
- 沢木みずほ「庶民価格のねぎトロには油がどっさり入っていますよ」『週刊金曜日』第897号、金曜日、2012年2月10日、39頁。
- 週刊現代編集部 編『知らぬは客ばかりなり 外食産業 実はこんなふうに作ってます』 55巻、46号、講談社、2013年12月。
- 主婦の友社 編『料理食材大事典』主婦の友社、1996年。ISBN 4-07-214741-9。
- 新庄綾子『すし語辞典』誠文堂新光社、2019年。ISBN 978-4-416-51917-2。
- 生活情報センター編集部編『創業の逸品-日本の食文化を彩る厳選88品-』生活情報センター、2004年。ISBN 978-4-86126-141-1。
- 田辺悟『鮪』法政大学出版局〈ものと人間の文化史158〉、2012年4月20日。ISBN 978-4-588-21581-0。
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- 小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典第2版』 8巻、小学館、2001年8月20日。ISBN 4-09-521008-7。
- 無署名「ねぎとろのトロは本物のトロ?」『月刊消費者』第426号、日本消費者協会、1993年12月、52-53頁。
- 服部幸應、服部津貴子監修『和食のすべてがわかる本4 和食からWASHOKUへ』ミネルヴァ書房、2014年3月15日。ISBN 9784623069767。
- 巻寿司のはなし編集委員会編『あじかん創業50周年記念誌 日本の伝統食 巻寿司のはなし』あじかん、2012年9月1日。
- 間根山貞雄『江戸前ずしに生きる-浅草、繁盛店の江戸前ずし覚書』旭屋出版、2003年2月11日。ISBN 4-7511-0361-X。
- 吉野曻雄「すし」『世界大百科事典改訂版』 15巻、平凡社、2005年、22-24頁。