「ノコギリクワガタ」の版間の差分

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| 亜科 = クワガタムシ亜科 [[:w:Lucaninae|Lucaninae]]{{Efn2|日本産のクワガタムシ科昆虫はすべてクワガタムシ亜科 Lucaninae に属するとされる{{Sfn|上野俊一|黒澤良彦|佐藤正孝|1985|p=329}}。}}{{Sfn|上野俊一|黒澤良彦|佐藤正孝|1985|p=329}}
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| 学名=''Prosopocoilus inclinatus''<br />({{AUY|Motschulsky|1857}})
| 学名=''Prosopocoilus inclinatus''<br />({{AUY|Motschulsky|1857}})
}}
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'''ノコギリクワガタ'''(漢字表記は「鋸鍬形」<ref>おくやまひさし『大人の里山さんぽ図鑑』[[交通新聞社]]、2017年3月、81頁。</ref>もしくは「鋸鍬形虫」<ref>{{Cite Kotobank|ノコギリクワガタ|日本大百科全書(ニッポニカ)}}</ref>{{Sfn|今森光彦|荒井真紀|2010|p=40}}、[[学名]]: ''Prosopocoilus inclinatus'')は、[[コウチュウ目]][[クワガタムシ科]][[ノコギリクワガタ属]]に[[分類学|分類]]される[[昆虫]]の1[[種 (分類学)|種]]である{{Sfn|藤田宏|2010|p=214}}。
[[ファイル:ヤナギの樹上のノコギリクワガタつがい.jpg|サムネイル|ヤナギの細枝を齧り樹液を得ようとするノコギリクワガタ。主に♀が齧り♂もおこぼれに預かるのはヒメオオクワガタなどと同じようだ。]]
'''ノコギリクワガタ'''(鋸鍬形、''Prosopocoilus inclinatus'')は、[[コウチュウ目]][[クワガタムシ科]][[ノコギリクワガタ属]]の1[[種 (分類学)|種]]で、6[[亜種]]に分類されている。日本国内に広く生息している代表的な[[クワガタムシ]]である。オスの大顎の内側に[[鋸]]のように歯が数多く並んでいることから名付けられた。また、[[種小名]]の''inclinatus''は「傾斜の」という意味であり、大顎の形に由来している。個体数も比較的多く、人々によく親しまれている種である。


[[日本]]国内に広く生息する[[クワガタムシ]]で、日本国外では[[朝鮮半島]]{{Sfn|藤田宏|2010|p=214}}、[[中華人民共和国|中国]]の[[遼寧省]]に分布する{{Sfn|土屋利行|2015|p=8}}。[[和名]]の由来は、[[雄|オス]][[成虫]]の[[大顎]]の内側に[[鋸]]のように歯が数多く並んでいることである<ref name="昆虫の森"/>。また学名の[[種小名]] ''inclinatus'' は「曲がった」という意味であり、大型オス成虫の大顎の形に由来するものと思われる{{Sfn|藤田宏|2010|p=214}}。低地から亜高山まで生息し、日本のクワガタムシの中でも広い分布域を持つ種であり<ref name="月刊むし200310">{{Cite journal|和書|journal=月刊むし|author=槇原寛|title=KIROKU+HŌKOKU > 日本でもっとも低い場所で採集されたクワガタムシ|page=47|date=2007-10-01|issue=440|publisher=むし社}}</ref>、身近に生息するクワガタムシでもある{{Sfn|今坂二郎|2015|p=54}}。
==形態==
体長は[[雄|オス]]が24.2 - 77.5mm、飼育下76.8mm(2015年)、[[雌|メス]]が19.5 - 41mm。


複数の[[亜種]]に分類されるが([[#亜種|詳細は後述]])、本項目では主に日本本土([[北海道]]・[[本州]]・[[四国]]・[[九州]])を中心に分布する'''[[亜種#基亜種|名義タイプ亜種]]'''{{Efn2|名義タイプ亜種と同義で'''原名亜種'''{{Sfn|土屋利行|2017|p=23}}という単語を用いる場合もある。}} ''Prosopocoilus inclinatus inclinatus'' ([[ヴィクトル・モチュルスキー|Motschulsky]], 1857) {{Sfn|藤田宏|2010|p=214}}{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}を中心に解説する。
オスは体格による個体変異が顕著で、体長が約55mm以上の大型個体では大きく屈曲した長い大顎を持つが(先歯型)、中型個体では大顎がゆるやかな湾曲となり(両歯型)、小型個体では大顎が直線的になり(原歯型)、内歯は均一なノコギリ状となる。体色は[[赤褐色]]から黒褐色である。しばしば「[[水牛]]」に例えられるオスの大顎は、メスをめぐる同種のオス同士の闘いに勝つために[[進化]]したのではないかと考えられている。メスは体色は赤褐色(まれに黒色)で、脚も全体的に赤い。大顎は[[ミヤマクワガタ]]のメスのものに比べて細く鋭い。

[[File:ノコギリクワガタ小歯型(撮影地:東京都).JPG|thumb|原歯型のオス]]
== 分布 ==
名義タイプ亜種の場合、日本国内では[[北海道]]・[[本州]]・[[四国]]・[[九州]]、[[奥尻島]]、[[飛島 (山形県)|飛島]]、[[粟島 (新潟県)|粟島]]、[[佐渡島|佐渡]]、[[初島]]、[[伊豆諸島]]([[伊豆大島]]・[[利島]])、[[隠岐諸島]]、[[瀬戸内海]]各島、[[対馬]]、[[壱岐島|壱岐]]、[[五島列島]]、[[甑島列島]]、[[種子島]]に分布する{{Sfn|土屋利行|2015|p=8}}。なお北海道に分布するノコギリクワガタは、ノコギリクワガタ属の分布北限種とされる{{Sfn|土屋利行|2013|pp=6-7}}。

日本国外では[[朝鮮半島]]と[[済州島]]・[[鬱陵島]]{{Sfn|藤田宏|2010|p=214}}{{Sfn|土屋利行|2015|p=8}}、[[中華人民共和国|中国]]の[[遼寧省]]{{Efn2|2015年の文献より{{Sfn|土屋利行|2015|p=8}}。同書の著者である土屋利行は2013年時点で、中国からの確実な記録を聞いたことがないと述べていた{{Sfn|土屋利行|2013|p=26}}。}}に分布する{{Sfn|土屋利行|2015|p=8}}。

== 形態 ==
日本に分布するクワガタムシの中では大型の種である{{Sfn|今森光彦|荒井真紀|2010|p=40}}。名義タイプ亜種の場合、[[成虫]]の体長(大顎の先端から尾端までの長さ){{Efn2|[[むし社]]から発行された『世界のクワガタムシ大図鑑』では、大顎の先端部から上翅の先端部までの長さを「体長」と定義している{{Sfn|藤田宏|2010|p=9}}。同社発行の季刊誌『BE・KUWA』が主催している「クワガタ飼育ギネスコンテスト」のルールでも、大顎の先端から上翅の先端までの長さを競っている(大顎は開きすぎず、上翅と前胸の隙間も開けすぎない){{Sfn|第15回ギネス|2015|p=32}}。}}は[[雄|オス]]で25.8 - 77.0&nbsp;[[ミリメートル|mm]]{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}{{Sfn|土屋利行|2017|p=23}}、[[雌|メス]]で25.0 - 41.5&nbsp;mm{{Sfn|土屋利行|2017|p=23}}。野外における最大個体は、[[長崎県]][[壱岐市]]で2011年7月に採取された77.0&nbsp;mmのオス成虫である{{Sfn|土屋利行|2015|p=26}}。[[むし社]]の調査によれば、飼育下ではオス成虫は最大体長76.8&nbsp;mm{{Efn2|2015年の「クワガタ飼育レコード」で記録された個体で、種親は伊豆大島産{{Sfn|第15回ギネス|2015|p=32}}。2012年7月採卵、2014年6月に羽化した{{Sfn|第15回ギネス|2015|p=32}}。}}<ref>{{Cite journal|和書|journal=BE・KUWA|title=日本産中〜大型種クワガタムシの飼育レコード個体(2022年度版)|page=114|editor=土屋利行|date=2022-10-17|issue=85|url=http://mushi-sha.life.coocan.jp/2022-BE-KUWA-record.pdf|publisher=むし社}} - No.85(2022年秋号)。『月刊むし』2022年12月増刊号。</ref>、最小体長22.6&nbsp;mmの個体がそれぞれ記録されている{{Sfn|BE・KUWA|2024|p=102}}{{Sfn|BE・KUWA|2024|p=113}}。またメスは飼育下で最大43.9&nbsp;mmが記録されている{{Sfn|BE・KUWA|2024|p=115}}。

体色は[[赤褐色]]から黒褐色で、光沢は鈍い{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。ただし、メスはオスに比べて前胸背板や上翅の光沢が強いとされる<ref name="毎日新聞20121003"/>。以下のように、オスは幼虫期から前蛹期にかけては低温で育った個体の方が大型化しやすい傾向にあると評している{{Sfn|ハル|2015|pp=59-60}}。

=== オス ===
オスは頭部が発達しており、複眼の前方と後方が強く側方へ突き出し、複眼には細い縁取り(長さは複眼のほぼ半分に達する)がある{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。頭部の前縁中央(頭楯手前、大顎の付け根付近)には上向きの平たい突起がある{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。頭楯は細長い舌状で、その先端は丸く前方斜め下方へ突出するが{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}、[[対馬]]・[[朝鮮半島]]の個体はこの突起がやや細長く尖る{{Sfn|藤田宏|2010|p=214}}。前脚の脛節は細長い{{Sfn|吉田賢治|2016|p=94}}。中脚・後脚の脛節にはそれぞれ1本の棘があるが、後脛節の棘を欠く場合もある{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。

==== 大顎の個体差 ====
オスの大顎は連続的な[[多型]]の変化が見られる{{Sfn|土屋利行|2015|p=6}}。クワガタムシの場合、大型個体・中型個体・小型個体の大顎をそれぞれ'''大歯型'''・'''中歯型'''・'''小歯型'''{{Sfn|吉田賢治|2015|p=126}}{{Sfn|吉田賢治|2016|p=34}}、もしくは'''長歯型'''・'''両歯型'''・'''原歯型'''と呼称するが{{Sfn|岡島秀治|山口進|黒澤良彦|1988|pp=98-99}}、本種は大きさの変化に伴う大顎の変化が顕著で、大歯型と小歯型を比較するとさながら別種のように見える{{Sfn|吉田賢治|2016|p=34}}。また大型個体を湾曲した大顎の形状から「[[スイギュウ|水牛]]」と呼ぶ地方も多い<ref name="昆虫の森">[[丸山宗利]]『昆虫の森』〈サクラムック〉第41巻、[[笠倉出版社]]、2020年10月、98頁「昆虫FILE 54 ノコギリクワガタ」</ref>。小歯型は「イトノコ」という通称でも呼ばれる<ref name="天野和利"/>。

オスの大顎は大型個体の場合、[[ウシ|牛]]の角のように中心で左右上方に張り出すように湾曲し、中心よりやや前方に大きな内歯を持つほか、内歯基部側に1本、前方に2 - 5個の小内歯がある{{Sfn|吉田賢治|2015|p=80}}。中型個体では大型個体と比べて大顎の湾曲が弱くなり、基部から先端にかけて鋸歯状に小さい内歯が並び、中央もしくは基部の近くにやや長い内歯が出現する場合が多い{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。小型個体は中型個体よりさらに大顎の湾曲が弱くなり、長さも短く直線的になる一方、基部から先端にかけて短い小内歯が鋸歯状に並ぶ{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。原名亜種の場合、オスは体長50&nbsp;mm程度で大歯型になるが{{Efn2|土屋 (2015) によれば、原名亜種で最小の大歯型個体は山梨県産のオス成虫(体長50.8&nbsp;mm)である{{Sfn|土屋利行|2015|p=17}}。}}{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|1998|p=23}}、北海道から本州では通常54&nbsp;mm程度以上の個体が大歯型になる{{Sfn|土屋利行|2015|p=6}}。このような歯型の変化は体長および前蛹期の温度に密接に関係しており、各型の中間サイズの場合、前蛹期に温度が低かった方が歯型が良くなる(大歯型寄りになる)傾向がある([[#前蛹|後述]]){{Sfn|土屋利行|2015|p=6}}。ハル (2015) によれば、自然界では年中温暖な河川敷より、冷涼な山間部や高標高な里山に大型個体(大歯型)が多い{{Sfn|ハル|2015|p=561}}。

下に向かって湾曲する大歯型のオスの大顎の形状は、海外に生息する同属のクワガタムシと比べても異様と評されるが、小島啓史はこのような形状の大顎を有する形態に[[進化]]した理由について、樹液をめぐって競合する[[カブトムシ]]の巨大な円筒形の体を挟み上げて投げ飛ばせるような形に進化したという仮説を提唱している{{Sfn|小島啓史|1996|p=49}}。
{| class="wikitable" style="font-size:90%"
|+ノコギリクワガタの大顎の変異{{Sfn|土屋利行|2015|p=6}}
!{{nowrap|型の名称}}
!特徴
!体長
|-
!大歯型
|中央よりやや基部寄りで強く内側に湾曲し、中央から先端側には直線部がある。<br/>第2内歯(中央付近の内歯)と第3内歯(第2内歯より先端側)との間には、1 - 3本の小内歯がある。
|北海道・本州では体長54&nbsp;mm程度から見られる。
|-
!中歯型I型
|大歯型に比べて大顎の湾曲は弱く、第1内歯(最も基部側の内歯)はより下方へ移動する。<br/>第1内歯と第2内歯との間には鋸歯がないか、あっても痕跡的である。
|北海道・本州では体長50 - 55&nbsp;mm程度で見られ、四国・九州では50&nbsp;mm後半でも出現する。
|-
!中歯型II型
|中歯型I型に比べてさらに湾曲が弱くなる。<br/>第1内歯はさらに根本へ移動し、と第2内歯との間に鋸歯が現れる。
|体長45 - 52&nbsp;mm程度の個体で多く見られるが、九州では50&nbsp;mm台中盤でも見られる。
|-
!小歯型I型
|大顎は直線的で、先端付近で内側に湾曲する。第1内歯以外の内歯はすべて鋸歯となる。
|体長45&nbsp;mm以下で見られるが、九州では50&nbsp;mm程度でも出現する。
|-
!小歯型II型
|大顎は直線的で平たく短い。鋸歯は小さく、一部では消失する。
|
|}
<gallery>
<gallery>
File:Kuwagata jp.jpg|型のオス
ファイル:Beetle.jpeg|大歯型のオス
ファイル:Noko_male(mini).jpg|型のオス(右上)とメス(左下)
ファイル:Kuwagata jp.jpg|中歯型のオス
ファイル:ノコギリクワガタ小歯型(撮影地:東京都).JPG|小歯型のオス
ファイル:Noko_female.jpg|メス
ファイル:Noko_male(mini).jpg|小歯型のオス(右上)とメス(左下)
</gallery>
</gallery>


==== 形態の地域性 ====
==分布==
ノコギリクワガタはメスの飛翔距離が長いことから([[#生態|後述]])ことから、分布地域に断続がほとんどなく、個体変異を含めた形態差は少ない{{Sfn|小島啓史|1996|p=213}}。しかし全体的に、四国・九州や周辺離島の個体は大顎の湾曲が弱く細身な個体が多い一方、北方産地の個体は体が大きく大顎の小さい個体が多いことから、ハル (2015) は形態の地域性とそれぞれの産地の気温との関係を指摘している([[#前蛹|後述]]){{Sfn|ハル|2015|p=61}}。
日本([[北海道]]から[[屋久島]]まで)、韓国([[朝鮮半島]]、[[済州島]]、[[鬱陵島]])


北海道や本州では体長70&nbsp;mm超の個体は稀である{{Sfn|土屋利行|2010|p=8}}。[[関東地方]]と[[近畿地方]]のサイズは大差ない{{Sfn|土屋利行|2015|p=17}}。[[東北地方]]産の個体は他産地より小型化する傾向にあり{{Efn2|これはミヤマクワガタにも該当する{{Sfn|土屋利行|2015|p=10}}。}}、大顎の発達も悪く、体長70&nbsp;mm以上の個体は極めて珍しいと思われる{{Sfn|土屋利行|2015|p=10}}。また[[中部地方]]でも65&nbsp;mm超の個体は少なく、69&nbsp;mm以上の個体はあまり見られない{{Sfn|土屋利行|2015|p=17}}。[[淡路島]]でも65&nbsp;mm超の大型個体は余り見られないという{{Sfn|土屋利行|2015|p=20}}。
==生態==
平地から山地までの[[広葉樹]]の森林、都市郊外の小規模の林にまで生息していて、生息数はやや多い。[[成虫]]は、活動期が6月上旬から10月である。広葉樹や照葉樹の樹液などを[[餌]]としていて、[[クヌギ]]・[[コナラ]]・[[ミズナラ]]・[[ヤナギ]]・[[ハンノキ]]・[[ニレ]]等に集まる。基本的に[[夜行性]]であるが、昼間でも木陰などで見ることができ、樹木の根際や樹皮下よりも、樹上の高い所で休んでいることが多い。闘争本能は強いものの、大顎の力や、樹にしがみつく脚力は他の大型のクワガタムシ([[オオクワガタ]]、[[ヒラタクワガタ]]、[[ミヤマクワガタ]])に比べて弱く、その為それらのクワガタムシや、[[カブトムシ]]相手には負ける事が多いが、活発であることと、低山地や平地など人間が手を入れた環境にも住み着くことから、個体数や生息面では他のクワガタムシよりも優位な地位を占めることが多い。平地や低山地では生息数が多い一方、[[アカアシクワガタ]]や[[ヒメオオクワガタ]]が主に生息する[[ブナ]]や[[ミズナラ]]林でなどの高標高地域でも時折、樹液や灯火に集まる個体が観察されるが平地の山林と比較すると個体数は少ない。


[[伊豆大島]]産の個体は体型が太くなる傾向にあり、また大顎も太短く、中型・小型個体では先端の湾曲が強くなる傾向にある{{Sfn|土屋利行|2015|p=12}}。伊豆大島では本州より大型個体の出現率が高く、本州では稀な体長70&nbsp;mm超の個体も比較的多く、最大で74&nbsp;mm超の個体が得られているという{{Sfn|土屋利行|2015|p=12}}。またメスに関しても、体長40&nbsp;mmに達する成虫が比較的多く見られる{{Sfn|阿達直樹|1994|p=18}}。一方で[[利島]]産の個体群は伊豆大島産とほぼ同じような体型ながらやや細身であり、70&nbsp;mm超の個体は見られず、65&nbsp;mm超のサイズも稀であるという{{Efn2|土屋 (2015) によれば、利島産の最大個体は67.0&nbsp;mmである{{Sfn|土屋利行|2015|p=12}}。}}{{Sfn|土屋利行|2015|p=12}}。
生息数も多く、樹を蹴ると、[[跗節]]の[[感覚毛]]で震動を感じ[[擬死]]して落下してくることから、この習性を利用して古くから少年達に採集されてきた。

北海道産の場合、70&nbsp;mm級の個体の出現率は本州と大差ない{{Sfn|土屋利行|2015|p=9}}。四国・九州産の個体群は北海道・本州産と比較して大顎の湾曲がやや弱く、長い傾向にある{{Sfn|土屋利行|2017|p=23}}。四国産や瀬戸内海島嶼部に分布する個体群の場合、本州産よりやや大顎や体型が細長い傾向が見られる{{Sfn|土屋利行|2015|pp=23-24}}。九州産の個体群はそれらよりさらに細身で大顎も長くなる傾向にあり、70&nbsp;mm以上の個体の出現率は北海道・本州より遥かに高いといい{{Sfn|土屋利行|2015|p=28}}、[[宮崎県]]では本土産の野生個体としては最大となる76&nbsp;mmの大型個体が確認されている{{Sfn|土屋利行|2015|p=29}}。特に壱岐の個体群はそのような特徴が顕著で、体も大型化する傾向にあるため、65&nbsp;mm以上の個体が普通に見られ、本土に比べれば70&nbsp;mm以上の個体も遥かに多い一方、他の産地では大歯型になるようなサイズ(体長57.0&nbsp;mm)でも中歯型にとどまる場合もある{{Sfn|土屋利行|2015|p=26}}。[[五島列島]]や[[平戸島]]、[[長崎県]][[西海市]]の[[大島 (長崎県西海市)|肥前大島]]・[[寺島 (長崎県西海市)|寺島]]では形態的には九州本土とほとんど変わらず、大顎は細身の傾向があるものの、地域変異と呼べるほど著しい変異はない{{Sfn|土屋利行|2015|p=27}}。

[[対馬]]では体長60&nbsp;mm超の大型個体はあまり得られず、九州本土の個体群より、同じく大型個体が少ないとされる[[朝鮮半島]]の個体群に近い系統にあると考えられている{{Sfn|土屋利行|2015|p=26}}。

=== メス ===
[[ファイル:Noko_female.jpg|サムネイル|メス]]
メスの体は背面から見ると[[ラグビーボール]]のような体型で{{Sfn|土屋利行|2015|p=6}}、厚くて丸みがある{{Sfn|吉田賢治|2015|p=80}}。メスの大顎はオスに比べて遥かに小さいが、産卵のために朽木に穴を開けやすい構造になっている{{Sfn|栗林慧|筒井学|日髙敏隆|2007|p=23}}。大顎は細く、先端部が強く尖るほか、1本の小さな内歯がある{{Sfn|土屋利行|2015|p=6}}。メスの頭楯は台形で、その先端はややくぼみ、複眼の縁取りは複眼の前半部を覆い、後端が側方に張り出している{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。前胸背板は前角が丸く、上翅には大きな点刻が密にある{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。

前脚の脛節は先端が幅広く、その外縁に先の丸い三角形の外歯が並んでいる{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。このようなメスの前脚の形状は土かきのためと考えられている{{Sfn|吉田賢治|2015|p=80}}。またオスと同じく、中・後脚の脛節には各1本の棘がある{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。

=== 雌雄モザイク ===
ノコギリクワガタは[[雌雄モザイク]]の個体が複数確認されている{{Sfn|土屋利行|2015|p=20}}。雌雄モザイクは数百万頭に1頭の割合で出現すると言われており{{Sfn|土屋利行|2015|p=20}}、クワガタムシの雌雄モザイク個体の場合、体の左右で雌雄に分かれる個体や、雌雄の特徴が混在する個体は知られているが、体の前後が雌雄別々に分かれたノコギリクワガタのモザイク個体は珍しいという<ref name="毎日新聞20121003"/>。

2012年に[[茨城県]][[牛久市]]で採取された雌雄モザイク個体は、頭部にオス、胸部と腹部にメスの特徴を有していた<ref name="毎日新聞20121003">{{Cite news|和書 |title=ノコギリクワガタ:頭はオス・体はメス「大変珍しい」 千葉で展示へ |newspaper=[[毎日新聞]] |date=2012-10-03 |author=早川健人 |url=http://mainichi.jp/select/news/20121003mog00m040011000c.html |publisher=[[毎日新聞東京本社]] |language=ja |archive-url=https://web.archive.org/web/20121006004840/http://mainichi.jp/select/news/20121003mog00m040011000c.html |archive-date=2012年10月6日}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|journal=月刊むし|author=平山夏樹|author2=清水敏夫|title=KIROKU+HŌKOKU > ノコギリクワガタの雌雄モザイク個体を採集|page=5|date=2012-12-01|issue=502|publisher=むし社}}</ref>。同個体の体長はオス側が52.4&nbsp;mmであった{{Sfn|土屋利行|2015|p=20}}。また体の前後で分かれている上、頭部も左半分がオス、右半分がメスにそれぞれ分かれているという個体も確認されている{{Efn2|2006年8月に静岡県[[富士宮市]]で採取された個体(オス側の体長は52.2&nbsp;mm){{Sfn|土屋利行|2015|p=20}}。}}{{Sfn|土屋利行|2015|p=20}}。オスとメスがほぼ完全に二分する個体は稀で、そのような個体は交尾器形態も完全に二分していることが多い{{Sfn|土屋利行|2015|p=20}}。雌雄モザイクもしくは奇形で左右の大顎の長さが異なる場合、背面から見て左側の大顎の方が右側より発達が良い(雌雄モザイクの場合は左側がオス、右側がメスになる)場合が多い{{Sfn|土屋利行|2015|p=20}}。

== 生態 ==
原名亜種の場合、成虫は5月下旬から10月上旬に出現し、[[梅雨]]の最中から7月下旬までが発生のピークとなる([[#生態の地域性|後述]]){{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。ただし、産地によっては9月上旬でも普通に見られる{{Sfn|土屋利行|2010|p=8}}。成虫は昼夜ともに活動し、[[広葉樹]]の樹液を食する{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。口はブラシ状になっており、[[酵母]]によって甘酸っぱく[[発酵]]した樹液を舐め取るように食する{{Sfn|栗林慧|筒井学|日髙敏隆|2007|p=19}}。

基本的には夜行性だが、昼間も樹液につく姿がよく見られる{{Sfn|土屋利行|2015|p=8}}。

=== 生息標高 ===
主に平地から低山地にかけての[[雑木林]]や、[[河川敷]]の[[ヤナギ]][[河畔林]]に生息する{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。日本本土に分布する原名亜種の場合、生息する[[標高]]域は0 - 1,400&nbsp;mにわたる{{Sfn|土屋利行|2010|p=8}}{{Sfn|土屋利行|2015|p=8}}。珍しい記録として、2003年10月24日に[[北海道旅客鉄道|JR]][[海峡線]]の[[竜飛定点|竜飛海底駅]]下り線ホーム(標高海面下135&nbsp;m)で採取されたメス成虫の例があり、おそらくクワガタムシとしては日本で最低標高地点で採取された記録と思われる{{Efn2|この個体は採取された時点では既に死亡していたが、後翅をやや出した状態であったことから、[[青森県|青森]]側の駅で列車の明かりに飛来し、列車に乗って竜飛海底駅まで運ばれたものと見られている<ref name="月刊むし200310"/>。}}<ref name="月刊むし200310"/>。

関東地方ではノコギリクワガタの方がミヤマクワガタより個体数が多い一方、近畿地方では住宅地に近い山や雑木林でもミヤマクワガタが優勢な場合が多く{{Sfn|本郷儀人|2012|p=61}}、実際に本郷によれば、[[京都市]]内の雑木林ではミヤマクワガタが最も身近なクワガタムシだった{{Sfn|本郷儀人|2012|p=62}}。しかし2012年時点ではミヤマクワガタが減少している一方、それまで個体数の少なかったノコギリクワガタが増加しているという{{Sfn|本郷儀人|2012|p=62}}。

=== 生息環境 ===
樹液を利用する樹種は、平地では[[クヌギ]]・[[アベマキ]]・[[コナラ]]、[[カワヤナギ]]、[[カエデ]]、[[ハンノキ]]、[[ニレ]]など、高地では[[ヤナギ]]類{{Efn2|河畔林や山地に生える[[アカメヤナギ]]・カワヤナギ・[[オノエヤナギ]]など{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}{{Sfn|岡島秀治|山口進|黒澤良彦|1988|p=99}}。}}や[[ミズナラ]]{{Sfn|土屋利行|2015|p=8}}、山地では[[ヤシャブシ]]、ヒメヤシャブシ、タチヤナギ、[[ドロノキ|ドロヤナギ]]、ヤマハンノキ、[[イタヤカエデ]]などが知られている{{Sfn|小島啓史|1996|p=51}}。河畔林や山地では[[オニグルミ]]、暖地ではオオバヤシャブシ ''[[:en:Alnus sieboldiana|Alnus sieboldiana]]''、[[アカメガシワ]]、[[ミカン科|ミカン類]]の樹液にも集まる{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。また、夜間は灯火にもよく飛来する{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。

原生林にも見られるが、本来は人間の農業・林業活動のため伐採が繰り返されて生じた里山の二次林・薪炭林に多く、大人の腕から脚程度の太さのクヌギ・コナラを好む{{Sfn|小島啓史|1996|p=50}}。また山地ではあまり太くない若い木が多く、樹幹に[[コウモリガ]]の食痕が多数付着しているような林に多い{{Sfn|小島啓史|1996|p=51}}。

岡島秀治により、ヤナギの細枝に多数のノコギリクワガタが集まって樹皮に傷をつけ、樹液を舐めている姿が何度か観察されている{{Sfn|岡島秀治|山口進|黒澤良彦|1988|p=99}}。土屋利行 (2015) によれば、活動時間のピークは日没直後から21時ごろと、明け方近くの2回ある{{Sfn|土屋利行|2015|p=8}}。道路沿いの灯火に飛来した個体は[[轢死|車に轢かれて死ぬ]]ことも珍しくないが、その事故死した個体の体液を別の個体が吸いにやって来る場合がある{{Sfn|阿達直樹|1994|p=18}}。

成虫は天敵の鳥から身を守るため、樹に震動が加わると[[跗節]]の[[感覚毛]]で震動を感じ、[[擬死]]して落下してくる習性がある<ref>{{Cite news|和書 |title=季節の見どころ 〜この時期の、スタッフおすすめの自然〜 すいぎゅう 〜魅惑のノコギリクワガタ〜 |newspaper=小峰だより |date=2017-07-01 |url=https://www.tokyo-park.or.jp/nature/komine/pdf/kominedayori/komine_109.pdf |access-date=2024-03-13 |format=PDF |publisher=[[東京都立自然ふれあい公園|小峰ビジターセンター]] |language=ja |archive-url=https://web.archive.org/web/20240313145051/https://www.tokyo-park.or.jp/nature/komine/pdf/kominedayori/komine_109.pdf |archive-date=2024年3月13日 |issue=109}}</ref>。この習性を利用し、クワガタムシがいそうな木を足で蹴ったり、大きい槌で叩いたりして木に震動を与え、落下してきたクワガタムシを採集するという方法がある{{Sfn|小島啓史|1996|p=53}}。このような習性は人間だけでなく、クワガタムシを捕食する[[カラス]]にも利用されているが、カラスは木を揺らして落ちてきたクワガタムシを捕食する際、落ちてきたクワガタムシを見失うことがないように下草が生えていない場所を選ぶ<ref name="阿達直樹2007">阿達直樹『昆虫の雑学辞典 見たこともないミラクルワールド』[[日本実業出版社]]、2007年5月10日初版発行、24-25頁</ref>。しかしクワガタムシは震動を与えれば必ずしも落ちてくるとは限らず、強風の日などは木を揺らしても落ちてこない場合もある<ref name="阿達直樹2007"/>。ノコギリクワガタの場合、朝に高く伸びたクヌギやコナラを木槌で軽く叩くと木から落ちてくる場合が多い{{Sfn|岡島秀治|山口進|黒澤良彦|1988|p=184}}。

また成虫は夜間、人間の出す明かりに気づくとオスの場合は威嚇のポーズを取る一方、メスの場合は明かりから逃げ出そうとする場合がある{{Sfn|小島啓史|1996|p=53}}。メスの飛翔距離は数[[キロメートル]] (km) から十数キロメートルと長く、それが分布地域ごとの形態差の少なさの要因となっている([[#形態の地域性|前述]]){{Sfn|小島啓史|1996|p=213}}。

=== 種間競争 ===
ノコギリクワガタは同じ[[ニッチ]]を占める競合他種と比べて、オス成虫の戦闘能力が遥かに高い{{Sfn|小島啓史|1996|p=213}}。ノコギリクワガタは活動可能な気温帯ならば昼夜を問わず活動し、また樹液を巡る争いでは排他的に同種または他種を追い払うため、同じように幼虫が地下の埋没木や切り株で育つことの多い[[ヒラタクワガタ]]と生息環境が重複する場合でも、ノコギリクワガタが優勢種となる場合が多い{{Sfn|小島啓史|2003|pp=17-18}}。

ノコギリクワガタは[[カブトムシ]]や[[ミヤマクワガタ]]と同じく、木の表面から樹液が出ている部位を餌場にするため、この3種は互いに[[ニッチ]]を奪い合う格好となる{{Sfn|本郷儀人|2012|p=63}}。一方でヒラタクワガタ、[[コクワガタ]]、[[スジクワガタ]]などは樹木の表面ではなく、樹皮の裏側や樹洞などに潜り込んでその中で樹液を吸汁することが多いため、その点ではノコギリクワガタなどとは棲み分けている格好になる{{Sfn|本郷儀人|2012|p=63}}。

=== 闘争 ===
ノコギリクワガタのオス成虫は、大顎および頭部に接触刺激を受けると相手を大顎で挟もうとする{{Sfn|本郷儀人|2012|pp=78-81}}。オスたちは食物である樹液や、樹液にやってきたメスをめぐって激しい闘争を繰り広げ、時には大顎が折れる場合もある{{Sfn|栗林慧|筒井学|日髙敏隆|2007|p=21}}。同種のオス同士が闘争した場合、大抵は強力な大顎を持つオスが勝利するが、体が小さくて弱いオスでも、大型のオスより早い時間に樹液に来訪してメスを見つけたり、大型のオス同士が争っている隙にメスを見つけたりすることができるため、小型のオスが必ずしも繁殖に不利になるというわけではない{{Sfn|栗林慧|筒井学|日髙敏隆|2007|p=21}}。

ノコギリクワガタは闘争面では、対カブトムシという面ではほとんど不利である{{Sfn|本郷儀人|2012|p=58}}。野生下では、ノコギリクワガタやミヤマクワガタがカブトムシと遭遇した場合はクワガタムシが逃げて闘争にまで至らない場合が多く、仮に闘争に至ったとしてもほとんどの場合はカブトムシの勝利で終わる{{Sfn|本郷儀人|2012|p=58}}。これは多くの場合、カブトムシの方がクワガタムシより体格で優れている{{Efn2|大顎まで含めたクワガタの大きさと、メスのカブトムシの大きさがほぼ同等である{{Sfn|本郷儀人|2012|p=58}}。}}ことに加え、クワガタムシは興奮すると体を起こし、大顎を振りかざして威嚇の体勢を取るが、カブトムシは相手の体の下に頭角を差し込んで掬い投げる戦法を取るため、その角が相手のクワガタムシの大顎より長い場合は、威嚇の姿勢を取るクワガタムシの体の下にカブトムシが角を差し込みやすくなり、カブトムシが勝利する場合が多いためである{{Sfn|海野和男|2006|p=85}}。このため、野外ではクワガタムシはカブトムシとの闘争を回避する場合が多い{{Sfn|海野和男|2006|p=85}}。

一方、ノコギリクワガタはミヤマクワガタ相手の場合は仮に相手の方が体格が良くても有利に戦うことができる{{Sfn|本郷儀人|2012|p=84}}。本郷儀人が2年間をかけて採取したノコギリクワガタ70個体とミヤマクワガタ32個体を用い、餌台付きの止まり木を入れた飼育ケース内で人為的に闘争させる実験を行ったところ、ノコギリクワガタ同士の闘争は93回、ミヤマクワガタ同士の闘争は69回、異なる両種間での闘争は119回発生したが{{Efn2|対戦者が同じ取り組みは除外している{{Sfn|本郷儀人|2012|p=67}}。}}{{Sfn|本郷儀人|2012|p=67}}、79勝40敗でノコギリクワガタが優勢という結果が出た{{Sfn|本郷儀人|2012|p=72}}。このうち、体格の大きい方が勝利した事例は70回(ミヤマクワガタ39勝、ノコギリクワガタ31勝)、小さい方が勝利した事例は49回(ミヤマクワガタ1勝、ノコギリクワガタ48勝)で、2個体の体格差が大きいほど体格の大きい個体の方がより有利になる一方、仮にミヤマクワガタの方が体格が大きくても、ノコギリクワガタが勝利する可能性も十分にあるという結果が出た{{Sfn|本郷儀人|2012|p=83}}。大顎を含む全長という観点ではミヤマクワガタは43 - 79&nbsp;mm、ノコギリクワガタは33 - 74&nbsp;mmと、わずかにミヤマクワガタの方が有利であり{{Sfn|本郷儀人|2012|p=64}}、実際に本郷が取った統計(ノコギリクワガタ105頭、ミヤマクワガタ103頭)によれば{{Efn2|研究のために採取した前述の個体たちと、それ以前に採取した標本個体を計測対象とした{{Sfn|本郷儀人|2012|p=73}}。}}、大顎を除いた体の長さではノコギリクワガタ(平均38.06&nbsp;mm)よりミヤマクワガタ(同40.46&nbsp;mm)の方が優勢ではある{{Sfn|本郷儀人|2012|p=74}}。しかし大顎の長さという点では湾曲する大顎を持つノコギリクワガタ(平均26.51&nbsp;mm)の方がミヤマクワガタ(同22.56&nbsp;mm)より優勢で、大顎の広げ幅ではノコギリクワガタが28.48&nbsp;mm、ミヤマクワガタは28.20&nbsp;mmとほぼ互角であり、2種間で体格がほぼ同等の場合はより大顎の長いノコギリクワガタが優勢になると考えられる{{Sfn|本郷儀人|2012|pp=74-75}}。

またミヤマクワガタは同種間・異種間どちらの闘争でもほとんど「上手投げ」(相手を背中側から大顎で挟み込んで投げ飛ばす戦法)で勝利している一方、ノコギリクワガタは同種間闘争では「上手投げ」による勝利が半数を占めるものの、対ミヤマクワガタの場合は全体の3分の2の割合で、相手を腹側から大顎で挟み込んで投げ飛ばす「下手投げ」の戦法、すなわちカブトムシの角の使い方に近い戦法で勝利を決めていた{{Sfn|本郷儀人|2012|pp=75-77}}。このような戦法の違いは、ノコギリクワガタとミヤマクワガタそれぞれの大顎の使い方の違いに由来するもので、本郷が顎を広げている状態のクワガタの大顎と頭部を割り箸で刺激してみる実験を行ったところ、ノコギリクワガタは体の上下どちら側から刺激を受けた場合でもすぐに大顎で挟み込もうと反応してきたが、ミヤマクワガタは体の上側から刺激を受けた場合、大顎を広げたまま上体を反らして威嚇の態勢を取るばかりで挟み込もうとはしてこなかった{{Sfn|本郷儀人|2012|p=78}}。つまりノコギリクワガタは上下どちらからの刺激にも対応できる一方、ミヤマクワガタは上からの刺激には対応できないため、「下手投げ」の戦法を取ることができないのである{{Sfn|本郷儀人|2012|p=79}}。ミヤマクワガタはノコギリクワガタに遭遇すると大きな体格を活かし、相手を上から押さえ込むような形で挟もうとするが、ノコギリクワガタは上からも下からも相手を挟み込むことができるため、仮にミヤマクワガタの方が大柄でも相手を腹側から挟み込んで「下手投げ」を狙うことができる{{Sfn|本郷儀人|2012|p=79}}。

またクワガタムシやカブトムシとの闘争だけでなく、[[カナブン]]など他の昆虫を縄張りから追い払う際に大顎を用いて投げ飛ばす場合もある{{Sfn|小田英智|久保秀一|2009|p=10}}。

=== 生態の地域性 ===
[[File:ミズナラにとまるノコギリクワガタ.JPG|thumb|撮影地:北海道]]
[[File:ミズナラにとまるノコギリクワガタ.JPG|thumb|撮影地:北海道]]
[[File:コナラにとまるノコギリクワガタ.JPG|thumb|撮影地:[[埼玉県]][[秩父地方|秩父]]]]
[[File:コナラにとまるノコギリクワガタ.JPG|thumb|撮影地:埼玉県秩父]]メスは、広葉樹の立枯れの地中部、倒木の埋没部やその周辺に[[産卵]]し、[[卵]]から[[孵化]]までは約1か月である。[[幼虫]]は、水分を多く含んで劣化の進んだ[[朽木]]を食べて育ち、2回の[[脱皮]]を経て終齢である3齢幼虫となる。幼虫期間は約1〜3年である。[[蛹]]になるために、春から夏にかけて蛹室(ようしつ)を作り始めて、約1か月かけて蛹となり、蛹から[[羽化]]までは約1か月である。初夏までに羽化した成虫は、その夏に活動を開始するが、晩夏から秋に羽化した成虫は、そのまま越冬し、翌年に蛹室を出て活動を開始する。活動を開始して野外へ出た成虫が越冬することはなく、通常は繁殖活動を終えた成虫はその年に死滅する。[[オオクワガタ属]]等と異なり、本種のオスは朽木に脱出口を掘ることができないため、蛹室は幼虫のうちにあらかじめ朽木の外に出て土中に作られる場合が多い。また、低山地から亜高山帯では[[ミヤマクワガタ]]と混生する地域もある。
以下、日本本土に分布する原名亜種に関しての解説である。島嶼部に分布する各亜種については[[#亜種|後述の「亜種」節]]を参照されたい。


北海道ではミヤマクワガタよりやや遅れて発生し、灯火への飛来は6月下旬から7月上旬がピークとなる{{Sfn|土屋利行|2015|p=9}}。北海道にはクヌギがほとんどないため、ヤナギ、ミズナラ、ハルニレなどの樹液に多い{{Sfn|土屋利行2|2015|p=44}}。北海道の[[道東]]や[[道北]]では個体数が少ないものと思われる{{Sfn|土屋利行|2015|p=9}}。
[[2012年]][[6月]]に[[茨城県]][[牛久市]]で採取された[[雌雄モザイク]]の個体は、頭部が雄で胸部と腹部が雌という貴重な例である<ref>[https://web.archive.org/web/20121006004840/http://mainichi.jp/select/news/20121003mog00m040011000c.html ノコギリクワガタ:頭はオス・体はメス「大変珍しい」 千葉で展示へ] [[毎日新聞]] [[2012年]][[10月3日]]配信</ref>。


東北地方では6月下旬から発生し、7月中旬にピークを迎える{{Sfn|土屋利行2|2015|p=44}}。東北地方ではミズナラや河川敷のヤナギの樹液に多く、関東地方以西では雑木林のクヌギやコナラ(関西ではアベマキにも)、河川敷のヤナギの樹液に多い{{Sfn|土屋利行2|2015|p=44}}。関東以西では6月から発生し、7月の上旬から中旬にかけて発生のピークを迎えるが、8月に入るとカブトムシが本格的に発生し、樹液で見られるノコギリクワガタの姿は減る{{Sfn|土屋利行2|2015|p=44}}。関東地方では林が残っていれば都市部にも生息しているが{{Sfn|土屋利行|2015|p=9}}、[[東京都区部|東京都市部]]では個体数が減少傾向にあることが指摘されている([[#人間との関わり|後述]]){{Sfn|小島啓史|2003|pp=17-18}}。槇原寛・星元規は、[[茨城県]][[つくば市]]の[[森林研究・整備機構|森林総合研究所]]([[筑波研究学園都市]])では、本種は6月下旬から7月上旬にかけては大型のオスばかりが見られるが、7月中旬から8月にかけてはメスや小型のオスが見られると述べている{{Sfn|槇原寛|星元規|2010|p=25}}。このように大型個体が野外で早期に出現する理由としては、大型のオス成虫は羽化直後に蛹室を出るためであるという仮説や、メスや小型オスは羽化したその年に活動を開始する個体もいる一方、大型のオスは羽化時期が遅いことから羽化した年は活動しないまま越冬し、その翌年から活動を開始するためであるという仮説を提唱している{{Sfn|槇原寛|星元規|2010|p=25}}。中部地方ではどの地域でも普通種で、[[佐渡島]]でも個体数は少なくない{{Sfn|土屋利行|2015|p=17}}。淡路島や[[隠岐諸島]]でも普通種である{{Sfn|土屋利行|2015|pp=20-21}}。
<gallery>
ファイル:Noko_egg.jpg|卵
ファイル:Noko_larva.jpg|幼虫
ファイル:Noko_chrysalis.jpg|蛹
ファイル:Beetle.jpeg|成虫
</gallery>


九州ではクヌギ・[[クリ]]・タブ・ヤナギなどに多く、稀に[[イチョウ]]にもいるという{{Sfn|土屋利行2|2015|p=44}}。壱岐では個体数が非常に多いが、対馬では個体数は少ない{{Sfn|土屋利行2|2015|p=46}}。対馬・壱岐では7月中旬から8月上旬にかけて発生のピークを迎え、クヌギ・コナラ・タブの樹液や灯火に集まる{{Sfn|土屋利行2|2015|p=46}}。[[甑島列島]]では7月の中旬から下旬にかけて発生のピークを迎えるが{{Sfn|土屋利行2|2015|p=46}}、[[下甑島]]ではコクワガタやヒラタクワガタが優勢種であり、[[上甑島]]も含めてノコギリクワガタの個体数は少ないとされる{{Sfn|土屋利行|2015|p=26}}。
==分類==
ノコギリクワガタは、6[[亜種]]に[[分類学|分類]]されている。
;ノコギリクワガタ・[[亜種|原名亜種]] ''Prosopocoilus inclinatus inclinatus'' (Motschulsky, 1857)
:北海道・本州・九州・四国・伊豆諸島(大島・利島)・佐渡島・対馬・壱岐・種子島・朝鮮半島・済州島・鬱陵島。オス24. 2mm - 77.0mm、飼育下76.8mm(2015年)、メス25 - 41.5mm。
:伊豆大島では大型化する。四国・九州型では大顎は細長く、体は細い。屋久島型では大顎の湾曲が強く、赤味が強い。
;[[クロシマノコギリクワガタ]]
:''P. i. kuroshimaensis'' Shimizu et Murayama, 2004
:[[黒島 (鹿児島県)|黒島]]([[三島村]])。オス31 - 69.5mm、飼育下74.0mm(2011年)、メス25 - 41mm。
:原名亜種に比べて大顎は短く湾曲が強い。体は光沢が強く、脚が細長い。完全な黒化型も出現する。
;[[ミシマイオウノコギリクワガタ]]
:''P. i. mishimaiouensis'' Shimizu et Murayama, 1998
:[[硫黄島 (鹿児島県)|硫黄島]](三島村)。オス27.5 - 68.8mm、飼育下73.8mm(2003年)、メス24.5 - 35mm。
:原名亜種に比べて大顎は太く、やや湾曲が弱い。体は光沢がやや強く、付節が細長い。
;[[クチノエラブノコギリクワガタ]]
:''P. i. kuchinoerabuensis'' Shimizu et Murayama, 1998
:[[口永良部島]]。オス28.5 - 71.0mm、飼育下74.0mm(2015年)、メス19.5 - 38.5mm。
:原名亜種に比べて大顎は細く湾曲が弱い。体は細く、光沢がやや強い。
;[[ミヤケノコギリクワガタ]](ノコギリクワガタ伊豆諸島南部亜種)
:''P. i. miyakejimaensis'' Adachi, 2009
:[[新島]]・[[式根島]]・[[神津島]]・[[三宅島]]・[[御蔵島]]。オス24.0 - 65.0mm、メス22.0 - 36.0mm。
:原名亜種に比べて雄は大腮が内側に湾曲し、太く短い。小型個体のオスの大腮の小内歯は不明瞭で疎ら。頭の発達が悪い。島によって差があるが一般に跗節が長く発達する。黒化したものが多く、体が太い。前胸の縁が丸みを帯びる。雌も黒化したものが多い。オオバヤシャブシの樹液に集まる。灯火にも良く集まる。
;[[ヤクシマノコギリクワガタ]]
:''P .i. yakushimaensis'' Adachi, 2014
:[[屋久島]]。オス25.0 - 69.3mm、メス22.7 - 35.0mm。
:原名亜種に比べて光沢が強く、赤味の強い個体が多い。体型は幅広く楕円形。オスの大腮は湾曲が強く、先端の小内歯の発達が悪い。より小型で大歯形になる。中脚、後脚の脛節の突起が痕跡的などの違いがある。


伊豆諸島にはクヌギはほとんど生えていないため{{Efn2|山崎は、伊豆大島のクヌギは移入種であると述べている{{Sfn|山崎昭彦|2014|p=52}}。}}、オオバヤシャブシ、[[カラスザンショウ]]{{Efn2|カラスザンショウの場合、樹の高い枝先についている場合が多い{{Sfn|土屋利行2|2015|p=46}}。}}、[[タブノキ|タブ]]、[[アカメガシワ]]などの樹液に集まる{{Sfn|土屋利行2|2015|p=44}}。山崎昭彦によれば、オオバヤシャブシの若木が密生している場所に多いが、三宅島と同じく噴火のタイミングと個体数の変動が関係している可能性があるという{{Efn2|ヤマザキは三宅島に分布するイズミヤマクワガタ(ミヤマクワガタの亜種)について、砂防ダムが新設されて2年から3年程度が経過した場所では砂防ダム建設の際に行われた森林伐採で良質な発生木が多数できるためか、特大個体も含めて多数の大型個体を採集することができたが、それから10年以上が経過すると良い発生木が減少するためか、大型個体が発生しづらくなるという{{Sfn|山崎昭彦2|2014|p=73}}。}}{{Sfn|山崎昭彦|2014|p=52}}。伊豆大島では6月から11月にかけて発生するが{{Sfn|土屋利行2|2015|p=44}}、発生のピークは他地域より遅く{{Sfn|土屋利行|2015|p=12}}、8月中旬から下旬にかけてである{{Sfn|土屋利行2|2015|p=44}}。伊豆大島では個体数が非常に多く{{Sfn|土屋利行2|2015|p=44}}、[[ヤシャブシ]]の成木の樹液によく見られ、7月から10月中旬まで昼間に普通に見つけられるほか、[[東京都道208号大島循環線|都道]]沿いの水銀灯などの灯火にも多く飛来する{{Sfn|阿達直樹|1994|p=18}}。伊豆大島では本種以外に[[ミヤマクワガタ]] ''Lucanus maculifemoratus'' ・[[コクワガタ]] ''Dorcus rectus'' ・[[ヒラタクワガタ]] ''D. titanus'' も生息しているが、本種が優勢種となっているようである{{Sfn|阿達直樹|1994|p=18}}。利島ではオオバヤシャブシやカラスザンショウの樹液によく集まるが、バナナ[[トラップ (昆虫採集)|トラップ]]にはあまり集まらない{{Sfn|土屋利行|2015|p=12}}。
==飼育==
本種は、日本産クワガタムシ中、最もポピュラーかつ代表的な大型種であり、[[カブトムシ]]・[[スズムシ]]などと同様に古くから子供達の愛玩動物として飼育されてきた。活動開始後の成虫の寿命は短く、「ひと夏のおもちゃ」として扱われ、カブトムシと「相撲」を取らせたりして遊ばれた。21世紀に入ると、[[オオクワガタ]]ブームに端を発するクワガタ飼育用品普及や技術の発展によって、[[累代飼育]]も可能になった。


=== 繁殖 ===
成虫は、飼育ケースに広葉樹の材を入れ、それをマットで埋めたものに入れておけば簡単に産卵する。ただし、オオクワガタ等と比べて劣化の進んだ腐植質を好むので、手で崩せる程度にまで劣化の進んだ材または押し固めたマットを産卵床として用意する必要がある点には注意が必要である。
[[ファイル:ヤナギの樹上のノコギリクワガタつがい.jpg|サムネイル|ヤナギの細枝を齧り樹液を得ようとするノコギリクワガタの雌雄]]
[[交尾]]は樹液が出ている樹幹や枝の上で行われ、オスはメスを守るため、交尾後もペアになっていることが多い{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。また、街灯に飛来した雌雄がその場で交尾する場合もある{{Sfn|阿達直樹|1994|p=18}}。
[[ファイル:Noko_egg.jpg|サムネイル|卵]]
メスは交尾後、地下に埋もれた朽木もしくはその周辺の土に[[卵|産卵]]する{{Sfn|栗林慧|筒井学|日髙敏隆|2007|p=23}}。野生下ではクヌギ・コナラ・ヤナギ類など[[広葉樹]]の[[木材腐朽菌#白色腐朽菌|白色腐朽]]した立ち枯れの根際に潜り、地下に埋もれている根の腐朽部表面に産卵することが確認されている{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。また天然の立ち枯れ木だけでなく、[[シイタケ]]の[[原木栽培]]に用いられるクヌギなどの「ホダ木」に産卵することも多い{{Sfn|今森光彦|荒井真紀|2010|p=41}}。メスは大顎で朽木に穴を開けてそこに産卵する{{Sfn|今森光彦|荒井真紀|2010|p=42}}場合もあるが、朽木そのものに産卵するのではなく、土中の朽木の表面に泥を固め、泥の中に産卵する場合もある{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=14}}。朽木に穴を開けて産卵する場合、メスは腹部の先端を穴に挿入し、産卵管を伸ばして卵を産み付け、後脚を使って木屑で穴を埋め、最後に大顎で埋めた穴の表面を均す<ref>小田英智(文・解説)、久保秀一(写真)『クワガタ《新版》』偕成社、1988年8月(新版9刷)、〈カラー自然シリーズ〉3、24頁。</ref>。一方で[[コクワガタ]]の場合は、地表に横たわっている湿った朽木の表面に大顎で穴を開けて産卵するが、このようにノコギリクワガタとコクワガタはそれぞれ異なる場所に産卵することで棲み分けを図っていると考えられる{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=14}}。ノコギリクワガタの1頭のメスによる産卵数は30 - 50個程度におよぶと考えられる{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=14}}。メスは1個産卵するために約2時間をかける<ref>小田英智(文・解説)、久保秀一(写真)『クワガタ《新版》』偕成社、1988年8月(新版9刷)、〈カラー自然シリーズ〉3、25頁。</ref>。


飼育下ではコナラの朽木と土を入れた水槽に雌雄の成虫を入れたところ、1か月後に土中から多数の卵と1齢幼虫が見い出せたが、朽木には産卵された痕跡はなかったという報告がある<ref>{{Cite journal|和書|journal=月刊むし|author=益子正澄|title=KIROKU+HŌKOKU > ノコギリクワガタの産卵について|page=34|date=1989-12-01|issue=226|publisher=むし社}}</ref>。このことから、立ち枯れの腐朽した根の周辺の土中にも産卵するものと考えられる{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。また、稀に[[スギ]]や[[ヒノキ]]といった針葉樹の朽木にも産卵する場合があるが{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}、幼虫がこれら針葉樹の朽木を食す場合は、[[天然樹脂|ヤニ]]などの成分が分解されている場合に限られる{{Sfn|土屋利行|2015|p=8}}。
幼虫の飼育は、餌となる木屑を空き瓶などに詰めて行われるが、オオクワガタなどで使用されている「[[菌糸ビン]]」では、必須栄養素の種類や消化吸収機能が異なっているため、大きな効果はないとされている。ただし、近年の菌糸ビンの中には本種幼虫の餌として使用可能なものも出てきた。3週間から1か月ほど経った菌糸ビンは、腐食・劣化が進展しているため本種幼虫にとっても適したものとなる。大型個体を羽化させるには、[[ブナ科]]の朽木を粉砕したマットに小麦粉などを添加した「発酵マット」が餌として使用される。大きさにこだわらないのなら無添加の広葉樹のマットで十分である。幼虫の成長・成熟には[[積算温度]]が深く関係するとされ、温度管理をするかなるべく涼しい環境(野外やガレージ等)に飼育ビンを置き積算温度の達成を遅らせ、幼虫の脱皮・変態までの日数を稼ぐ方が、大型個体を育てるのに有利だとされる。


野外では成虫は越冬することなく{{Sfn|岡島秀治|山口進|黒澤良彦|1988|p=99}}、活動を終えた成虫は通常、10月ごろまでに死亡する{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。死因は夏の盛りを過ぎたころから樹液が枯れ始めることによる飢餓とされ、飼育下では長生きする場合もある<ref>小田英智(文・解説)、久保秀一(写真)『クワガタ《新版》』偕成社、1988年8月(新版9刷)、〈カラー自然シリーズ〉3、21頁。</ref>。
==備考==
なお、[[ジャレコ]]のゲーム「[[バトル昆虫伝]]」にも出ている。


==脚注==
=== 幼虫 ===
[[ファイル:Noko_larva.jpg|サムネイル|3齢幼虫]]
<references />
[[卵]]は<!--朽木に直接産卵される場合、メスが産卵前に掘り出した穴の中に産み付けられ、そこに掘り出した木屑が埋められている<ref>小田英智(文・解説)、久保秀一(写真)『クワガタ《新版》』偕成社、1988年8月(新版9刷)、〈カラー自然シリーズ〉3、25頁。</ref>。-->秋に[[孵化]]して1齢[[幼虫]](初齢幼虫)になる{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。産卵から孵化までの日数は、夏季は約20日間、秋季は45 - 100日程度である{{Sfn|今森光彦|荒井真紀|2010|p=43}}。産卵直後の卵は約2&nbsp;mmの楕円形だが、産卵から約10日後には3&nbsp;mm程度に膨張して丸みを帯び、産卵から約3週間で孵化する{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=16}}。孵化直前(産卵から約2週間後)になると、卵の殻の中で幼虫の体が透けて見えるようになり、特に大顎の先端部分が2個の黒い点のように目立つようになる{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=16}}。孵化直後の幼虫は体長約5&nbsp;mm{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=16}}もしくは約8&nbsp;mmで<ref>小田英智(文・解説)、久保秀一(写真)『クワガタ《新版》』偕成社、1988年8月(新版9刷)、〈カラー自然シリーズ〉3、26頁。</ref>、孵化直後はまだ頭部が白くて軟らかく<ref>小田英智(文・解説)、久保秀一(写真)『クワガタ《新版》』偕成社、1988年8月(新版9刷)、〈カラー自然シリーズ〉3、26頁。</ref>、頭部が硬化して茶褐色に色づくまでの約1日間は孵化した場所から動かない{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=17}}。クワガタムシ科の昆虫の幼虫は[[ジムシ|硬いオレンジ色の頭部と、軟らかくて長いC字状の白い胴体を有する体型]]で{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=18}}、ジムシ([[コガネムシ科]]の幼虫)に酷似しているが<ref>小田英智(文・解説)、久保秀一(写真)『クワガタ《新版》』偕成社、1988年8月(新版9刷)、〈カラー自然シリーズ〉3、5頁。</ref>、コガネムシ科の幼虫とは異なり、腹部の末端に2つの丸いいぼ状の膨らみがある<ref>小田英智(文・解説)、久保秀一(写真)『クワガタ《新版》』偕成社、1988年8月(新版9刷)、〈カラー自然シリーズ〉3、4頁。</ref>。幼虫の体全体の約7割を腹部が占めている{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=18}}。幼虫期間は[[成虫原基]]の発達のために重要な期間であり、この時期に長時間をかけて成虫原基細胞の数を増やせるか否かが、成虫時の大顎の発達度合いを左右することになる{{Sfn|ハル|2015|p=59}}。

野外での幼虫期間は1年から2年で<ref name="日本産幼虫図鑑"/>、通常は約2年である{{Sfn|土屋利行|2015|p=8}}。幼虫は孵化から[[蛹#蛹化|蛹化]]までの間に2回脱皮し、1回目の脱皮で1齢幼虫から2齢幼虫に、2回目の脱皮で2齢幼虫から3齢幼虫になる{{Sfn|栗林慧|筒井学|日髙敏隆|2007|p=10}}。この間、幼虫は土中を移動して立ち枯れや切り株の根など、地中に埋もれた朽木に食い入り、朽木を食べて成長する{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。大きく成長した幼虫は体長約8&nbsp;cmになる<ref>小田英智(文・解説)、久保秀一(写真)『クワガタ《新版》』偕成社、1988年8月(新版9刷)、〈カラー自然シリーズ〉3、6頁。</ref>。幼虫はCの字状の体型を活かして狭い空間を回転しながら移動し、鋭い大顎で朽木をかじり、トンネルを掘り進むようにして朽木を食べる{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=18}}。幼虫の大顎の基部には臼状の歯があり、幼虫は鋭い大顎で噛み砕いた朽木の一部をこの歯で磨り潰して食べる<ref>小田英智(文・解説)、久保秀一(写真)『クワガタ《新版》』偕成社、1988年8月(新版9刷)、〈カラー自然シリーズ〉3、6頁。</ref>。食痕(トンネル)の太さは約2&nbsp;cm<ref>小田英智(文・解説)、久保秀一(写真)『クワガタ《新版》』偕成社、1988年8月(新版9刷)、〈カラー自然シリーズ〉3、6頁。</ref>ないし約3&nbsp;[[センチメートル|cm]]程度になり{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=19}}、幼虫は朽木を食べた際に発生した食べかすや糞を、回転運動しながら自身より後方のトンネルへ押し固めるように詰めていく{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=18}}。消化しにくい朽木を栄養源として吸収するため、幼虫の体内には長い腸が入っているが、その腸内には無数の[[細菌|バクテリア]]や他鞭毛虫といった微生物たちが生息しており、彼らが朽木の分解を手助けしている{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=18}}。これらの微生物は幼虫が脱糞すると同時に体外に排出されるが、幼虫は朽木を食べる際に糞も混ぜ合わせて食べることで、排出された微生物を再び体内に取り込んでいる{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=18}}。

クワガタムシ科の昆虫の幼虫が食べる朽木の部位は種ごとに、含有水分量の少ない順に「立ち枯れ上部」「倒木」「立ち枯れや切り株の根部・倒木の地面埋没部分」に大別され、種によっては腐植土や泥上のフレークなどを食べる種もいる。また、朽木の腐朽型は朽木に寄生した菌の種類によって白色腐朽材(白腐れ)、褐色腐朽材(赤腐れ)、軟腐朽材(黒腐れ)に大別される<ref>『日本産幼虫図鑑』2005年10月11日初版第1刷発行、学習研究社、229頁「クワガタムシ科の幼虫の食性」</ref>。ノコギリクワガタの幼虫は、自然界では白色腐朽材の立ち枯れの根部や、倒木の地中埋没部を食べている<ref name="日本産幼虫図鑑">『日本産幼虫図鑑』2005年10月11日初版第1刷発行、学習研究社、232頁</ref>。またバクテリアによって黒く朽ちた黒腐れ材を食べるとする文献もある{{Sfn|ハル|2015|p=56}}。特に広葉樹の切り株根部に多く、そのような部位からは10 - 20頭の幼虫がまとまって発見される<ref name="日本産幼虫図鑑"/>。地面に埋もれた朽木の下部など、よく腐朽して湿気を含んだ軟らかい部分に多いとされる{{Sfn|岡島秀治|山口進|黒澤良彦|1988|p=99}}。根の中央付近よりも樹皮のすぐ下を好んで食べる傾向にある{{Sfn|土屋利行|2015|p=8}}。このようにノコギリクワガタの幼虫が地下部を好んで食べるのは、他のクワガタムシ類の幼虫と競合することを避けるためと考えられている{{Efn2|ミヤマクワガタはノコギリクワガタと同じように白色腐朽材の根部を好み<ref>『日本産幼虫図鑑』2005年10月11日初版第1刷発行、学習研究社、231頁「クワガタムシ科の幼虫の食性」</ref>、またヒラタクワガタも同様に白色腐朽材の立ち枯れの根部および倒木の地中埋没部を好むが、ヒラタクワガタと同属であるコクワガタは乾燥に強いとされる<ref>『日本産幼虫図鑑』2005年10月11日初版第1刷発行、学習研究社、233頁「クワガタムシ科の幼虫の食性」</ref>。またオオクワガタなど立ち枯れに好んで産卵するクワガタムシの多くは一般的に乾燥した環境を好むとされる<ref name="日本産幼虫図鑑"/>。}}{{Sfn|栗林慧|筒井学|日髙敏隆|2007|p=25}}。同じ立ち枯れの地表部からオオクワガタの幼虫、地中部からノコギリクワガタの幼虫がそれぞれ発見される場合もある{{Sfn|小島啓史|1996|p=53}}。またノコギリクワガタの幼虫たちは1つの朽木に集団で入っていることが多く、1本の立ち枯れの根を食い尽くした中から多数の幼虫が出てくる場合もある{{Sfn|土屋利行|2015|p=8}}。また今坂二郎 (2015) によれば、1齢幼虫や2齢幼虫は軟らかい材部を食べていることが多いが、3齢幼虫は他の幼虫と寄り添うように食痕の中に埋もれながら生活する個体が見られるという{{Sfn|今坂二郎|2015|p=53}}。

夏に孵化した幼虫は、1齢幼虫から3齢幼虫の初期段階で1度目の越冬を行い、翌年に蛹化するものが多い<ref name="日本産幼虫図鑑"/>。一方でオスの大型個体などは3齢幼虫で2度目の越冬を行い、その後蛹化する<ref name="日本産幼虫図鑑"/>。幼虫は光が届かない朽木や土中に深く潜って生活しているため、気温の変化で季節の変化を知り変態する{{Sfn|ハル|2015|p=59}}。

幼虫は穿孔木の塩分・湿度の増加に強く、[[黒潮]]などの海流に乗って海を渡り、海岸に流れ着くことは不可能ではないという{{Sfn|小島啓史|1996|p=238}}{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|2004|p=15}}。小島啓史は、ノコギリクワガタやミヤマクワガタなど湿度の高い状態の朽木を好むクワガタムシは多少の塩分でもほとんど影響を受けないため、これらの種は幼虫が穿孔している朽木ごと海に流されても生存したまま海を渡ることができるが、乾燥した朽木を好み、過剰な湿度に弱い[[オオクワガタ]]の幼虫は朽木ごと海に流されると死亡してしまい、海を渡ることはできないだろうと考察している{{Sfn|小島啓史|1996|p=238}}。

=== 前蛹 ===
3齢幼虫は初夏になると{{Efn2|蛹化時期は5月から8月にかけてである{{Sfn|今森光彦|荒井真紀|2010|p=43}}。}}{{Sfn|岡島秀治|山口進|黒澤良彦|1988|p=99}}、楕円形の[[蛹#蛹の生態|蛹室]]を作る{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。蛹室を作る場所は朽木の中の軟らかい部位や{{Sfn|岡島秀治|山口進|黒澤良彦|1988|p=99}}、または朽木近くの土中で{{Sfn|栗林慧|筒井学|日髙敏隆|2007|p=11}}、小島 (1996) は3齢幼虫が地中の腐朽部を食い尽くした場合、地中に蛹室を作る場合もあると述べている{{Sfn|小島啓史|1996|p=49}}{{Sfn|槇原寛|星元規|2010|p=25}}。また筒井学は、湾曲した巨大な大顎を持つノコギリクワガタにとっては、朽木よりも土の方が軟らかく脱出しやすいため、ノコギリクワガタは土中で蛹室を作ると述べている{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=25}}。蛹室は羽化時に後翅や大顎などを伸ばしても壁にぶつからないよう、蛹の大きさに比して大きめに作られる{{Sfn|栗林慧|筒井学|日髙敏隆|2007|p=15}}。土中で蛹化する場合、地下1&nbsp;m程度まで潜る場合も少なくない<ref name="日本産幼虫図鑑"/>。

蛹室が完成すると幼虫の体は次第に縮んでいってシワが目立つようになり、蛹室完成から約10日後には「前蛹」という形態に変化する{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=25}}。前蛹は、曲がっていた体を伸ばして仰向けになっており、体内では幼虫時代の筋肉・消化器官が分解され、蛹になるための再構築が行われていると考えられる{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=25}}。前蛹期は大顎・頭部・胸部といった成虫の上半身の部位が急成長する期間で{{Sfn|ハル|2015|p=60}}、特に大顎の発達の鍵を握る成虫原基が急成長する期間である{{Sfn|ハル|2015|p=59}}。ハル (2015) は、幼虫期に高栄養・低温度の環境で育った幼虫は大歯型に、低栄養・高温度の環境で育った幼虫は小歯型になりやすい傾向にあると述べ{{Sfn|ハル|2015|p=57}}、また前蛹期に低温環境にいた個体は大顎の成虫原基の成長期間が延長され、細胞増殖が盛んに起きることにより、大顎の湾曲が強く、上翅サイズも大きな成虫になる一方、逆に前蛹期に高温に晒された個体は大顎湾曲が弱くなり、上翅も小さくなると評している{{Sfn|ハル|2015|p=59}}。また蛹化時の大顎の伸長具合は蛹室の傾斜にも比例しており、頭部側が高い蛹室を作った個体は、ポンピングにより腹部から頭部に送られた体液が重力により、大顎の基部から先端部へ流れやすくなるためか、上半身が大きく膨らみ、大顎の先端部分が伸びて湾曲も強くなるという{{Sfn|ハル|2015|p=60}}。

=== 蛹 ===
[[ファイル:Noko_chrysalis.jpg|サムネイル|蛹]]
蛹室の完成から約10日後{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}ないし約2週間後{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=25}}、前蛹は脱皮(蛹化)して[[蛹]]になる{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=25}}。蛹室を作り始めてから蛹化するまでの時期は約3週間である{{Sfn|今坂二郎|2015|p=54}}。前蛹は蠕動運動とともに脱皮を開始し、頭部から背中にかけて前蛹の皮膚に亀裂が走り{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=25}}、中から白い蛹の頭胸部が姿を見せる{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=24}}。大顎は前蛹の皮膚から抜け出すと、その直後から少しずつ膨張していき、大顎が抜け出ると脚・翅の部分も現れる{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=24}}。やがて蛹は体をくねらせながら幼虫の殻を脱ぎ捨てていき{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=24}}、開始から約15分後には脱皮を完了する{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=25}}。その後、蛹は腹部を活発に動かして体液を押し上げ{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=24}}(「ポンピング運動」{{Sfn|ハル|2015|p=60}})、約1時間後には腹部が縮み、逆に頭胸部が大きく発達した形に整う{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=24}}。翅や腹部は上半身とは異なり、蛹化後もしばらく成長するが、蛹化時に高温下に置かれた個体は蛹化時のポンピング運動が活発になることで頭部や大顎が大きく発達した成虫になりやすい一方、蛹化時も低温下に置かれていた個体はポンピング運動が鈍くなり、下半身の大きい成虫になりやすいとされる{{Sfn|ハル|2015|p=60}}。

蛹は幼虫期に蓄えた栄養分を用いて体内で成虫の体を再構築する時期であり{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=27}}、腹部を回転させながら体勢を変化させるような動きしかできない{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=26}}。腹部の先端には小さな鉤爪上の器官があり、これを蛹室の壁に引っ掛けて体を回転させることで動く{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=27}}。蛹化した直後の蛹は白いが、その翌日になると透明感のある飴色に変化する{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=24}}。更に約1週間後には黄土色に変化し、成虫の複眼が黒く色づき始める{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=26}}。蛹化から約20日後には体内の成虫の頭胸部と足が赤みを帯びるようになり、羽化直前になるとさらに赤褐色に変化し、皮膚にはシワが入るようになる{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=26}}。そして羽化前日には蛹の尾端から、蛹の皮膚と成虫の体との隙間を埋めていた水分が排出され、蛹の皮膚はシワだらけで成虫の体に貼り付いたような状態になる{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=29}}。蛹の時点では、成虫の頭部は折れ曲がった状態で{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=29}}、また翅の部分は小さく収まっており、羽化する際に大きく伸びる{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=29}}。

=== 羽化 ===
蛹は蛹化から<!--10 - -->20日程度で[[羽化]]して成虫になる{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。羽化を開始する際、蛹は頭部を少し持ち上げて脚を動かし、腹部を回転させて体の向きを仰向けからうつ伏せに変える{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=28}}。そして腹部を伸縮させることで蛹の皮膚を後ろにずらし、背面の頭胸部の中心の皮膚に亀裂が入ると成虫の体が露出する{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=28}}。次いで成虫は足を踏ん張って体を持ち上げ、翅と頭部をそれぞれを蛹の殻から引き出し、最終的に腹部の先まで脱皮する{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=28}}。そして脚を動かすことで腹側の殻を脱ぎ、大顎・触角も脚を使って蛹の殻を取り除いていく{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=28}}。またそれと同時に{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=28}}、腹部に入っている体液を縮んでいた上翅の隅々まで行き届かせることで上翅を伸ばし、腹部を上翅で覆う{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=29}}。腹部の殻をすべて脱ぎ終わると、同様に後翅を伸ばす{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=28}}。

羽化開始から約2時間後には折れ曲がっていた頭部が少しずつ伸びていき、それから約3時間後(羽化開始から5時間後)には上翅が少しずつ色づくと同時に、伸ばしていた後翅も上翅の下へ折りたたまれる{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=29}}。羽化から約1日後には赤褐色に色づくが{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=29}}、羽化直後は体はまだ軟らかく{{Sfn|栗林慧|筒井学|日髙敏隆|2007|p=15}}、体が硬化するまでには約1か月を要する{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=29}}。体が完全に硬化しても{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=29}}、新成虫はその夏は外に出ることはなく、そのまま蛹室内で越冬し、翌年(孵化から3年目)の初夏に脱出して活動を開始する(2年1越型)ことが多い{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。しかし室内で常温飼育すると冬の温度が高いためか、孵化した翌年に蛹化する1年1越型になる場合が多く、野外でも1年1越型の個体がいる可能性がある{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。また、小型個体は1年1化型とする文献もある{{Sfn|吉田賢治|2015|p=80}}。なお蛹化・羽化の時期に急激な温度変化をすると蛹化不全・羽化不全の原因になる{{Sfn|今坂二郎|2015|p=54}}。

茨城県つくば市では、飼育下ではメスや小型のオスになる幼虫は生育が早く、早いものは孵化してから最初の越冬前に3齢幼虫となり、翌年の春から夏にかけて羽化し、夏までに羽化した個体はその年の秋には活動を開始する{{Sfn|槇原寛|星元規|2010|p=25}}。一方で大型のオスは成長が遅く、孵化から2年目の夏から秋にかけて羽化する{{Sfn|槇原寛|星元規|2010|p=25}}。

新成虫は越冬時、地下の奥深くで過ごしており、地下50&nbsp;cm以上の深い場所にいる場合もある{{Sfn|小田英智|筒井学|2009|p=29}}。槇原寛や星元規により、大型のオス成虫が[[ケヤキ]]の切り株やクヌギの立ち枯れの根元で団子状になって集団越冬していた事例が観察されているが<ref>『[[読売新聞]]』2004年3月5日東京朝刊茨城東版32頁「切り株からクワガタ13匹、成虫だけでなく幼虫も つくばの工事現場=茨城」([[読売新聞東京本社]]・つくば支局)</ref>{{Sfn|槇原寛|星元規|2010|p=24}}、これは大型のオスの場合、蛹室内では大顎が邪魔になるため、羽化直後に蛹室を出て越冬場所(切り株の根の間など)に移動するのではないかという説が唱えられている{{Sfn|槇原寛|星元規|2010|p=25}}。また集団になるのは、地中に蛹室を作れる場所や蛹室から出た成虫が落ち着ける場所が限定されるため、結果的に集団になるのだろうと考えられている{{Sfn|槇原寛|星元規|2010|p=25}}。

== 分類 ==
本種の[[タイプ (分類学)|タイプ産地]]は[[静岡県]][[下田市]]で、[[ロシア]]の昆虫学者[[ヴィクトル・モチュルスキー]]が1857年に ''[[ミヤマクワガタ属|Lucanus]]'' 属の一種として記録した{{Sfn|土屋利行|2015|p=5}}。その後、1862年にはモチュルスキーによって創設された ''Psalidoremus'' 属に再分類され、本種だけでなく日本産の4種([[ハチジョウノコギリクワガタ]]・[[アマミノコギリクワガタ]]・[[ヤエヤマノコギリクワガタ]])と[[台湾]]の[[タカサゴノコギリクワガタ]]も同属に分類されていたが、その後の研究により、日本の研究者たちの間では ''Prosopocoilus'' 属に分類されることが多くなった{{Sfn|土屋利行|2015|p=5}}。これら5種に共通する特徴として、大型のオス成虫の大顎が強く湾曲する点や、メス成虫は体高が高くて丸みを帯び、各脚脛節が先端に向かうほど幅広くなるという点が認められる{{Sfn|土屋利行|2013|p=26}}。

=== 亜種 ===
ノコギリクワガタは名義タイプ亜種の他、以下の複数[[亜種]]に[[分類学|分類]]されている{{Sfn|土屋利行|2017|pp=23-25}}。名義タイプ亜種を含むと亜種数は6もしくは7(御蔵島の個体群を伊豆諸島南部亜種とは別亜種とした場合)である。

なお[[ハチジョウノコギリクワガタ]] ''P. hachijoensis'' Nomura, status nov. は1960年、野村鎮によってノコギリクワガタの八丈島亜種 ''ssp. hachijoensis'' として記載されたが、市川敏之がその特異な特徴・生態に着目して研究を進めた結果、1985年にノコギリクワガタの亜種ではなく独立種とされた<ref>{{Cite journal|和書|journal=月刊むし|author=藤田宏|author2=市川敏之|title=南西諸島および伊豆諸島におけるクワガタムシ科の再検討|date=1985-04-01|issue=170|pages=4-13|publisher=むし社}}</ref>。また[[南西諸島]]の[[吐噶喇列島|トカラ列島]]から[[久米島]]にかけて分布する個体群は[[アマミノコギリクワガタ]] ''P. dissimilis'' (Boileau, 1898) に{{Sfn|土屋利行|2015|pp=35-39}}、[[八重山列島|八重山諸島]]([[石垣島]]・[[西表島]])に分布する個体群は[[ヤエヤマノコギリクワガタ]] ''P. pseudodissimilis'' [[黒澤良彦|Y. Kurosawa]], 1976 に{{Sfn|土屋利行|2015|p=40}}、台湾に分布する個体群は[[タカサゴノコギリクワガタ]] ''P. motschulskyii'' (Waterhouse, 1869) {{Sfn|土屋利行|2015|p=41}}にそれぞれ分類されており、いずれも日本本土に分布するノコギリクワガタとは別種として扱われている。
;大隅諸島黒島亜種{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}} ''P. i. kuroshimaensis'' Shimizu et Murayama, 2004 {{Sfn|藤田宏|2010|p=215}}{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}
:'''クロシマノコギリクワガタ'''{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|2004|p=15}}{{Sfn|土屋利行|2015|p=33}}{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}とも呼ばれる。タイプ産地および分布地は[[鹿児島県]][[大隅諸島]][[黒島 (鹿児島県)|黒島]]([[三島村]]){{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。体長はオスで29.5 - 69.7&nbsp;mm、メスで25.0 - 41&nbsp;mm{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}。野生下における最大個体は、2009年7月に採取された体長69.7&nbsp;mmのオス成虫である{{Sfn|土屋利行|2015|p=33}}。飼育下ではオスの最大個体は体長74.0&nbsp;mm{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}。
:原名亜種に比べて大顎は短く湾曲が強い{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|2004|p=12}}{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}。体全体に光沢があり、特に上翅は原名亜種に比べて光沢が強い{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|2004|p=12}}。脚は細長く{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}、中・後脚の脛節に生えている棘は小さい{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|2004|p=12}}。通常は赤褐色型だが、完全な黒化型も出現する{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}。
:6月から9月に発生し、7月中旬から下旬にかけてピークを迎える{{Sfn|土屋利行2|2015|p=46}}。山間部のタブやスダジイの樹液に集まるほか、夜間は灯火にも飛来する{{Sfn|土屋利行|2015|p=33}}。個体数は非常に多いが、三島村では条例で昆虫採集が禁止されている{{Sfn|土屋利行2|2015|pp=46-47}}。
;大隅諸島硫黄島亜種{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}} ''P. i. mishimaiouensis'' Shimizu et Murayama, 1998 {{Sfn|藤田宏|2010|p=215}}{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}
:'''ミシマイオウノコギリクワガタ'''{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|1998|p=22}}{{Sfn|藤田宏|2010|p=215}}{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}とも呼ばれる。
:タイプ産地および分布地は鹿児島県大隅諸島[[硫黄島 (鹿児島県)|硫黄島]](三島村){{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。体長はオスで27.5 - 68.8&nbsp;mm{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}ないし69.3&nbsp;mm{{Sfn|土屋利行|2015|p=33}}、メスで24.5 - 35&nbsp;mm{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}。野生下における最大個体は、1999年7月に採取された体長69.3&nbsp;mmのオス成虫である{{Sfn|土屋利行|2015|p=32}}。飼育下ではオスの最大個体は体長73.8&nbsp;mm{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}。
:原名亜種に比べて大顎は太く、やや湾曲が弱い{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|1998|p=23}}{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}。原名亜種では体長50&nbsp;mm程度で大歯型になるが、本亜種はその程度では大歯型にならず、体長60&nbsp;mm前後を境に大顎の湾曲が強くなる{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|1998|p=23}}。体色は赤褐色から黒褐色だが、黒褐色の個体は稀である{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|1998|p=23}}。体の表面は光沢がやや強いが、黒島亜種ほどではない{{Sfn|藤田宏|2010|p=215}}。脚の跗節が細長い{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}。
:幼虫は広葉樹の朽木根部や地中に埋もれた倒木に見られ、特に[[ツバキ|ヤブツバキ]]で観察できる{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|1998|p=24}}。成虫は7月から11月にかけて発生するが{{Sfn|土屋利行|2015|p=32}}、個体数がやや少ないことに加え、島内には樹液を出す木も少ないためか、自然状態で本種を観察することは困難とされている{{Sfn|土屋利行2|2015|p=46}}。アカメガシワの樹液や灯火、果物トラップに集まった姿が観察されている{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|1998|p=24}}。
;口永良部島亜種{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}} ''P. i. kuchinoerabuensis'' Shimizu et Murayama, 1998 {{Sfn|藤田宏|2010|p=215}}{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}
:'''クチノエラブノコギリクワガタ'''{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|1998|p=24}}{{Sfn|藤田宏|2010|p=215}}{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}とも呼ばれる。
:タイプ産地は鹿児島県大隅諸島[[口永良部島]]{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。体長はオスで25.8 - 71.0&nbsp;mm、メスで19.2 - 38.9&nbsp;mm{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}。野生下における最大個体は、2007年7月に採取された体長71.0&nbsp;mmのオス成虫である{{Sfn|土屋利行|2015|p=34}}。飼育下ではオスの最大個体は体長74.0&nbsp;mm{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}。
:原名亜種に比べて頭部がやや小さく、大顎もやや細長くて湾曲が弱い{{Sfn|藤田宏|2010|p=215}}。硫黄島亜種と同じく、原名亜種なら大歯型になる体長50&nbsp;mm程度でも大歯型にはならない{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|1998|p=24}}。体はやや細長く、光沢がやや強い{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。跗節は細く、中脚脛節の棘は痕跡的である{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}。
:幼虫は広葉樹の朽木の地面に接した部分から得られる{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|1998|p=24}}。成虫は6月から9月にかけて発生、7月中旬に発生のピークを迎える{{Sfn|土屋利行|2015|p=34}}。雌雄とも[[タブノキ]]の樹液や灯火・果物トラップに集まっている{{Sfn|清水敏夫|村山輝記|1998|p=24}}。個体数は多いがほとんどが小歯型で、大歯型はほとんど見かけない{{Sfn|土屋利行2|2015|p=46}}。
;伊豆諸島南部亜種{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=145}} ''P. i. miyakejimaensis'' Adachi, 2009 {{Sfn|藤田宏|2010|p=215}}{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=145}}{{Sfn|土屋利行|2015|p=13}}{{Sfn|土屋利行|2017|p=24}}
:原記載では和名は提唱されなかったが{{Sfn|土屋利行|2010|p=9}}、仮称として'''イズノコギリクワガタ'''{{Sfn|藤田宏|2010|p=215}}、もしくは'''ミヤケノコギリクワガタ'''{{Sfn|土屋利行|2010|p=9}}{{Sfn|土屋利行|2015|p=13}}{{Sfn|土屋利行|2017|p=24}}とも呼ばれる。
:伊豆諸島の[[新島]]・[[式根島]]・[[神津島]]・[[三宅島]]・[[御蔵島]]に分布する{{Sfn|藤田宏|2010|p=215}}{{Sfn|土屋利行|2017|p=24}}。タイプ産地は三宅島で{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=145}}{{Sfn|阿達直樹|2009|p=34}}、亜種名は三宅島に由来する{{Sfn|阿達直樹|2009|p=34}}。
:体長はオスで25.6 - 69.4&nbsp;mm、メスで24.0 - 38.0&nbsp;mm{{Sfn|土屋利行|2017|p=24}}。確認されている最大個体は神津島で採取された体長69.4&nbsp;mmのオス成虫である{{Sfn|土屋利行|2015|p=14}}。神津島では大型化する傾向にあるが{{Sfn|土屋利行|2015|p=14}}、三宅島では体長60&nbsp;mm超の個体は稀である{{Sfn|土屋利行|2015|p=15}}。山崎によれば、三宅島では2013年時点で50&nbsp;mm超の個体は少なく、採集される個体はほとんどが小歯型であるという{{Sfn|山崎昭彦2|2014|p=73}}。
:原名亜種に比べてオスの大顎は太短く、より内側に湾曲する{{Sfn|阿達直樹|2009|p=34}}。また小型個体のオスは大顎の内歯が少なく、不明瞭とされる{{Sfn|阿達直樹|2009|p=34}}{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=145}}。前胸側縁は丸みを帯び、体色は黒化したものが多く、全身に赤味のある個体は稀である{{Sfn|阿達直樹|2009|p=34}}。
:しかし原名亜種との差異は軽微とされ{{Sfn|藤田宏|2010|p=215}}、研究者によっては本亜種を原名亜種と同亜種として扱う場合がある一方、御蔵島産の個体群を本亜種とはさらに別の'''御蔵島亜種'''{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=145}}('''ミクラノコギリクワガタ''') ''P .i. mikuraensis'' Matsuoka et Takatoji, 2010 として区別する場合がある{{Sfn|土屋利行|2015|p=15}}{{Sfn|土屋利行|2017|p=24}}。同亜種を報告した松岡進樹・高都持佑輔は、伊豆諸島南部亜種については原名亜種の[[シノニム]]として扱うべきだろうと述べ、大島・利島の個体群と合わせて「伊豆諸島北中部型」という型であるという説を提唱している{{Sfn|松岡進樹|高都持佑輔|2010|p=20}}。御蔵島産のものは原名亜種に比べ、以下の特徴がある{{Sfn|松岡進樹|高都持佑輔|2010|p=20}}。
::オス - 体長は29.6 - 61.8&nbsp;mm{{Sfn|土屋利行|2017|p=24}}。体色は暗赤褐色から黒色で、体全体の光沢がより強い。大顎はやや細短く、大型個体では大顎の湾曲がなだらかな点、小型個体では内歯が発達せず鋸状にならない。脚は細長い。上翅の先端が丸みを帯びる。交尾器の基節が伸長しやや大きい。
::メス - 体長は25.2 - 36.4&nbsp;mm{{Sfn|土屋利行|2017|p=24}}。体色は黒褐色から黒色で、光沢が強い。前胸背板から上翅の点刻は深く、非常に粗い。脚は細長く、中脚・後脚の脛節にある突起はやや弱い。半腹板が幅広い{{Sfn|松岡進樹|高都持佑輔|2010|p=20}}。
:6月から9月に発生し、7月中旬に発生のピークを迎える{{Sfn|土屋利行|2015|p=13}}{{Sfn|土屋利行|2015|p=15}}。オオバヤシャブシ、カラスザンショウ、タブ、アカメガシワなどの樹液に集まり、灯火にも飛来する{{Sfn|土屋利行|2015|p=13}}。新島・神津島ではそれぞれ非常に個体数が多いが{{Sfn|土屋利行2|2015|pp=13-14}}、三宅島・御蔵島では少ない{{Sfn|土屋利行|2015|p=15}}。山崎によれば三宅島では噴火後の2006年には個体数が多かったが、年数が経過するにつれて少なくなっているという{{Sfn|山崎昭彦2|2014|p=73}}。また式根島でも新島ほど個体数は多くないと考えられる{{Sfn|土屋利行|2015|p=14}}{{Sfn|土屋利行2|2015|p=45}}。なお御蔵島では条例により、昆虫採集が禁止されており{{Sfn|土屋利行|2015|p=15}}、神津島でも島内すべての動植物の持ち出しが禁止されている{{Sfn|田中裕二|2014|p=80}}。
;ヤクシマノコギリクワガタ ''P .i. yakushimaensis'' Adachi, 2014 <ref name="KOGANE15"/><ref name="月刊むし201505">{{Cite journal|和書|journal=月刊むし|author=甲虫界編集グループ<!--42-50頁-->|title=2014年の昆虫界をふりかえって > 甲虫界 Coleoptera|page=44|date=2015-05-01|issue=531|publisher=むし社}}</ref>{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}
:原記載は『KOGANE』第15号1-6頁<ref name="KOGANE15">『KOGANE』第15号、2014年3月31日発行、1-6頁、阿達直樹「A new subspecies of Prosopocoilus inclinatus (Motschulsky, 1857) (Coleoptera, Lucanidae) from Yakushima Island, Japan 屋久島産ノコギリクワガタの1新亜種」(コガネムシ研究会)</ref><ref name="月刊むし201505"/>。鹿児島県大隅諸島[[屋久島]]に分布する{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}。体長はオスで25.0 - 69.3&nbsp;mm、メスで22.7 - 35.0&nbsp;mm{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}。野生下における最大個体は、屋久島で2009年7月に採取された体長69.3&nbsp;mmのオス成虫である{{Sfn|土屋利行|2015|p=31}}。飼育下ではオスの最大個体は体長67.0&nbsp;mm{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}。
:ミシマイオウノコギリクワガタ、クチノエラブノコギリクワガタ、クロシマノコギリクワガタがそれぞれ名義タイプ亜種と別亜種とされて以降も、屋久島・種子島の個体群は引き続き名義タイプ亜種の九州南部離島型として分類されていたが、阿達直樹が形態や交尾器の形状などを観察した結果、屋久島の個体群については既知の亜種とは明確に区別できる特徴があるとして、新亜種として記載したものである<ref name="KOGANE15"/>。
:原名亜種に比べてオスの大顎の湾曲が強く{{Sfn|土屋利行|2017|p=25}}、大顎は短い<ref name="KOGANE15"/>。大歯型がより体長の小さな個体でも出現する傾向にあり<ref name="KOGANE15"/>、体長50&nbsp;mm程度で大歯型になる個体もいる{{Sfn|土屋利行|2010|p=8}}。大歯型のオスの場合、最大内歯がやや後方を向き、また先端から最大内歯の間に位置する小内歯は少ない<ref name="KOGANE15"/>。体はやや光沢が強いが、大隅諸島産の他3亜種よりは弱く、明るい赤色の個体が多い<ref name="KOGANE15"/>。雌雄とも体型は幅広く、楕円形である<ref name="KOGANE15"/>。オスの交尾器は名義タイプ亜種や伊豆諸島南部亜種と比べて細長い<ref name="KOGANE15"/>。中脚脛節外縁の棘は小さいがはっきりと認識できる一方、後脚の脛節外縁の棘はオスの場合は痕跡的である(メスの場合は小さいがはっきり認識できる)<ref name="KOGANE15"/>。
:6月から9月に発生し、7月中旬に発生のピークを迎え{{Sfn|土屋利行|2015|p=31}}、7月下旬以降は個体数が減少する{{Sfn|土屋利行2|2015|p=46}}。クヌギ・タブ・ミカンの樹液や街灯、バナナトラップなどによく集まる{{Sfn|土屋利行2|2015|p=46}}。

== 人間との関わり ==
前田信二はノコギリクワガタについて、日本産クワガタムシの中ではミヤマクワガタとともに子供たちの人気を二分する種であると述べている<ref>前田信二『東京いきもの図鑑』[[メイツユニバーサルコンテンツ|メイツ出版]]、2011年4月30日第1版・第1刷発行、99頁</ref>。

成虫は乾燥に強く、幼虫は埋没木を食べるため、小島啓史は本種について、[[東京都]]の[[港区 (東京都)|港区]]や[[千代田区]]といった都心部でも幼虫の生育環境や成虫の餌場になる小規模な緑地があれば生息できるクワガタムシであると評している{{Sfn|小島啓史|2003|p=17}}。また土屋利行 (2015) によれば、東京都内の[[新宿区]]や[[渋谷区]]でも採集できる場所があるという{{Sfn|土屋利行|2015|p=9}}。[[いつもここから#メンバー|山田一成]]は、外国産のクワガタムシ・[[カブトムシ亜科|カブトムシ]]類の輸入が解禁される以前は、ノコギリクワガタが書籍の表紙を飾るなど、特に人気の高いクワガタムシだったと述べている<ref>[[いつもここから#メンバー|山田一成]]『いつもここから 山田一成のカブトクワガタ生活』[[講談社]]、2005年8月8日初版発行、65頁「世界のカブト・クワガタ図鑑〜山田の好きなものだけ版〜」</ref>。[[むし社]]の発行する季刊誌『BE・KUWA』によれば、ノコギリクワガタは[[コクワガタ]]や[[ミヤマクワガタ]]とともに、日本における3大普通種と言える一般的なクワガタムシであるという<ref>{{Cite journal|和書|journal=BE・KUWA|author=|title=古強者 日本のミヤマクワガタ大特集|date=2013-04-16|issue=47|pages=4-5|publisher=むし社|ref=}} - No.47(2013年春号)。『月刊むし』2013年6月増刊号。</ref>。

関東地方の平野部では普通種だが、2010年代時点では雑木林の過度な下草刈り・落ち葉除去などによる林の乾燥化、美化運動による朽木の撤去、河川敷の大規模な草刈り・牧草地化により、生息環境の減少・悪化が著しいことが指摘されている{{Sfn|岡島秀治|荒谷邦雄|2012|p=144}}。小島は[[東京都区部|東京都市部]]で2003年までに、それまで少なかった[[ヒラタクワガタ]]が増加・大型化している一方、ノコギリクワガタが減少・小型化していることを指摘し、その原因として半透明ゴミ袋の普及によって個体数を増やした[[ハシブトガラス]]によるノコギリクワガタへの捕食圧と、局地的な温暖化(河川敷の伐採によって日光が遮られなくなることや、都市部の[[ヒートアイランド|ヒートアイランド現象]]など)によってノコギリクワガタ(大型オスは2年1化1越年を必要とすることが多い)が早熟になって大型化しづらくなった一方、ノコギリクワガタと競合する環境では個体数を増やしづらい一方、もともと湿潤温暖な環境を好むヒラタクワガタにとっては生息しやすい環境になりつつあるためではないかと評している{{Sfn|小島啓史|2003|pp=17-18}}。一方で天野和利([[時事通信社]]記者)は2023年、東京都心部の大きな公園はクヌギ・コナラ・シラカシなどクワガタムシやカブトムシの好む樹液を出す木が多いことや、彼らの幼虫の食物および住処となる朽木や腐葉土が積み上げられていることも多いことに加え、それらの公園では動植物の採集が禁止されている場合が多く、結果的にノコギリクワガタやカブトムシが繁栄しやすい環境になっていると評している<ref name="天野和利">{{Cite news|和書 |title=意外や意外、東京都心の公園はノコギリクワガタの宝庫 |newspaper=[[Yahoo!ニュース]] |date=2023-07-15 |author=天野和利 |url=https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/6970dc0a4878fda841f48fe22e13d059894aff3d |access-date=2024-03-03 |publisher=[[LINEヤフー]] |language=ja |archive-url=https://web.archive.org/web/20240303145315/https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/6970dc0a4878fda841f48fe22e13d059894aff3d |archive-date=2024年3月3日}}</ref>。東京都の2013年版レッドリストでは区部で準絶滅危惧 (NT) に指定されていたが<ref>{{Cite web |url=https://tokyo-rdb.metro.tokyo.lg.jp/kohyou.php?serial=1274 |title=ノコギリクワガタ |access-date=2024-03-24 |publisher=[[東京都]] |author=高桑正敏 |year=2007 |website=東京都レッドデータブック |language=ja |archive-url=https://web.archive.org/web/20240324065913/https://tokyo-rdb.metro.tokyo.lg.jp/kohyou.php?serial=1274 |archive-date=2024-03-24 |url-status=live}}</ref>、2020年版では対象外となっている<ref>{{Cite web |url=https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/red_data_book-redlist2020-files-00_zenbun_rl2020_5 |title=東京都の保護上重要な野生生物種(本土部)―東京都レッドリスト(本土部)2020年版― |access-date=2024-03-24 |publisher=東京都環境局 |date=2021-03-01 |format=PDF |page=27 |language=ja |archive-url=https://web.archive.org/web/20240324070251/https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/red_data_book-redlist2020-files-00_zenbun_rl2020_5 |archive-date=2024-03-24}}</ref>。

伊豆大島では「クワガタムシ」というと単に本種のことを指し、それ以外のクワガタ(ミヤマクワガタ・コクワガタ・ヒラタクワガタ)が生息することはあまり知られておらず、地元の子供たちも本種にはさほど関心を示さないという{{Sfn|阿達直樹|1994|p=18}}。

=== 人工繁殖 ===
人為的に産卵させることは容易で、握って塊になる程度に湿らせた発酵マットで産卵木を埋めた状態の飼育ケースに交尾済みのメス成虫、もしくは雌雄ペアの成虫を入れておけば多数の幼虫が得られる{{Sfn|今坂二郎|2015|p=51}}。幼虫飼育は[[菌糸ビン]]・発酵マットのどちらでも可能であるが、今坂二郎は野外における幼虫の生態を根拠に、1 - 2齢の幼虫は栄養価の高い菌糸ビンで飼育し、菌糸の食べ具合を見て老齢(蛹化直前)の幼虫をマット飼育に切り替えるのが自然に近いと評している{{Sfn|今坂二郎|2015|p=53}}。また飼育温度については、1齢幼虫から3齢幼虫の初期段階までは20[[セルシウス度|℃]]程度、3齢幼虫になったら18 - 20℃程度、蛹室を作り始めて以降は19 - 22℃前後が、大型個体を羽化させるための適温であるとしている{{Sfn|今坂二郎|2015|pp=53-54}}。ハル (2015) も大型の成虫を羽化させるためには、幼虫を高栄養・低温度の環境で育成することにより、体の成長速度を抑えて[[しきい値|閾値]]体重(変態が可能となる体重)を増やした上でそれへの到達を遅くし、前蛹期までは比較的低温で管理することが望ましいが、成虫の上半身のプロポーションを良くするためには、蛹化時に比較的高温(20 - 24℃程度)で管理することが望ましいと評している{{Sfn|ハル|2015|pp=57-60}}。

=== 登場作品 ===
* 『[[甲虫王者ムシキング]]』シリーズ
* 『[[バトル昆虫伝]]』

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist2}}

=== 出典 ===
{{Reflist}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
'''[[むし社]]発行の文献'''
*{{Cite journal | 和書 | url = http://www.hokuryukan-ns.co.jp/magazines/insect.html | journal = 昆虫と自然 | date = 2003-03 | title = 特集 クワガタムシ・クロツヤムシ |n publisher = ニュー・サイエンス社 }}
* {{Cite journal|和書|journal=[[月刊むし]]|author=阿達直樹|title=伊豆大島のクワガタムシ|date=1994-07-01|issue=280|pages=18-20|publisher=むし社|ref={{SfnRef|阿達直樹|1994}}}} - 1994年7月号。
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* {{Cite journal|和書|journal=月刊むし|author=阿達直樹|title=伊豆諸島産ノコギリクワガタの1新亜種の記載|date=2009-09-01|issue=463|pages=34-37|publisher=むし社|ref={{SfnRef|阿達直樹|2009}}}} - 2009年9月号。
* 『BE・KUWA』No.35(2010年春号)「日本のノコギリクワガタ大特集!! Part 1」(むし社) - 『月刊むし』2010年6月増刊号。
** {{Cite journal|和書|journal=BE・KUWA|author=土屋利行|title=日本産ノコギリクワガタ大図鑑|date=2010-04-20|issue=35|pages=6-31|publisher=むし社|ref={{SfnRef|土屋利行|2010}}}}
* {{Cite journal|和書|journal=月刊むし|author=松岡進樹|author2=高都持佑輔|title=伊豆諸島におけるノコギリクワガタの再検討|date=2010-08-01|issue=474|pages=15-22|publisher=むし社|ref={{SfnRef|松岡進樹|高都持佑輔|2010}}}} - 2010年8月号。
* {{Cite journal|和書|journal=月刊むし|author=槇原寛|author2=星元規|title=集団越冬していたノコギリクワガタ♂大型個体|date=2010-08-01|issue=474|pages=24-25|publisher=むし社|ref={{SfnRef|槇原寛|星元規|2010}}}} - 同上。
* {{Cite book|和書 |title=世界のクワガタムシ大図鑑 |publisher=むし社 |date=2010-12-20 |pages=174-220 |ref={{SfnRef|藤田宏|2010}} |author=藤田宏 |editor=(監修者)水沼哲郎・[[永井信二]]・鈴村勝彦 |series=月刊むし・昆虫大図鑑シリーズ |isbn=978-4943955061 |ncid=BB04284986 |chapter=解説本文 > ノコギリクワガタ属 Prosopocoilus |volume=6 |id={{国立国会図書館書誌ID|026998699}}・{{全国書誌番号|22674089}}}}
* {{Cite journal|和書|journal=BE・KUWA|author=土屋利行|title=世界のノコギリクワガタ大図鑑|date=2013-01-22|issue=46|pages=8-33|publisher=むし社|ref={{SfnRef|土屋利行|2013}}}} - No.46(2013年冬号)。『月刊むし』2013年3月増刊号。
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** {{Cite journal|和書|journal=BE・KUWA|author=土屋利行|title=日本のノコギリクワガタ大図鑑|date=2015-04-21|issue=55|pages=6-34|publisher=むし社|ref={{SfnRef|土屋利行|2015}}}}
** {{Cite journal|和書|journal=BE・KUWA|author=土屋利行|title=ノコギリクワガタを採ろう!|date=2015-04-21|issue=55|pages=44-48|publisher=むし社|ref={{SfnRef|土屋利行2|2015}}}}
** {{Cite journal|和書|journal=BE・KUWA|author=今坂二郎|title=日本産ノコギリクワガタの飼育法|date=2015-04-21|issue=55|pages=50-54|publisher=むし社|ref={{SfnRef|今坂二郎|2015}}}}
** {{Cite journal|和書|journal=BE・KUWA|author=ハル|title=ギネスブリーダー養成プロジェクト 第11回 番外編 格好良いノコギリクワガタを羽化させたい!|date=2015-04-21|issue=55|pages=56-61|publisher=むし社|ref={{SfnRef|ハル|2015}}}}
* {{Cite journal|和書|journal=BE・KUWA|title=発表!第15回クワガタ飼育ギネス/ビークワ主催 クワガタ飼育ギネスコンテストについて|page=|date=2015-10-20|issue=57|pages=4-35|publisher=むし社|ref={{SfnRef|第15回ギネス|2015}}}} - No.57(2015年秋号)。『月刊むし』2015年12月増刊号。
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* {{Cite journal|和書|journal=BE・KUWA|title=チビ&♀レコード個体(2024年度版)|page=|editor=土屋利行|date=2024-01-23|issue=90|pages=113-115|url=|publisher=むし社|ref={{SfnRef|BE・KUWA|2024}}}} - No.90(2024年冬号)。『月刊むし』2024年3月増刊号。
'''その他文献'''
* 編著者:[[上野俊一]]・黒澤良彦・佐藤正孝『原色日本甲虫図鑑(II)』[[保育社]]、1985年1月31日初版発行、329-330頁。「クワガタムシ科 Lucanidae」329-346頁は黒澤良彦が執筆を担当。
* {{Cite book|和書 |title=クワガタムシ |publisher=保育社 |date=1988-06-20 |ref={{SfnRef|岡島秀治|山口進|黒澤良彦|1988}} |author=岡島秀治・山口進(共著) |editor=黒澤良彦(監修) |isbn=978-4586310326 |ncid=BN0257447X |id={{国立国会図書館書誌ID|000001926529}}・{{全国書誌番号|88045128}}}}
* {{Cite book|和書 |title=クワガタムシ飼育のスーパーテクニック |publisher=むし社 |date=2000-04-01 |ref={{SfnRef|小島啓史|1996}} |author=小島啓史 |editor=藤田宏 |edition=第3版 |series=月刊むし・ブックス |isbn=978-4943955313 |ncid=BA56875616 |issue=1 |origdate=1996年11月30日 初版発行}}
* {{Cite journal|和書|journal=昆虫と自然|author=小島啓史|title=特集・クワガタムシ・クロツヤムシ 関東のヒラタクワガタが大型化する理由―地球温暖化によるクワガタムシの変化を読み解く3つの仮説―|volume=38|date=2003-03-30|issue=3|pages=13-19|publisher=[[北隆館#ニュー・サイエンス社|ニュー・サイエンス社]]|ref={{SfnRef|小島啓史|2003}}}} - 2003年3月増大号。
* {{Cite book|和書 |title=カブトムシの百科 |publisher=[[データハウス]] |date=2006-06-01 |ref={{SfnRef|海野和男|2006}} |author=[[海野和男]] |edition=第4版 |series=動物百科 |isbn=978-4887188754 |ncid=BA78196571 |origdate=1993年7月10日 初版第1刷発行 |id={{国立国会図書館書誌ID|000008211125}}・{{全国書誌番号|21144972}}}}
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* {{Cite book|和書 |title=カブトムシとクワガタの最新科学 |publisher=[[メディアファクトリー]] |date=2012-06-30 |ref={{SfnRef|本郷儀人|2012}} |author=本郷儀人 |edition=初版第1刷 |series=メディアファクトリー新書 |isbn=978-4840146197 |ncid=BB09836398 |issue=054 |id={{国立国会図書館書誌ID|023742828}}・{{全国書誌番号|22133770}}}}
* {{Cite book|和書 |title=日本産コガネムシ上科標準図鑑 |publisher=[[学研ホールディングス|学研教育出版]] |date=2012-06-26 |ref={{SfnRef|岡島秀治|荒谷邦雄|2012}} |author=(監修)岡島秀治・荒谷邦雄 |edition=初版第1刷発行 |isbn=978-4054038479 |ncid=BB09664747 |id={{国立国会図書館書誌ID|023683950}}・{{全国書誌番号|22113002}}}}
* {{Cite book|和書 |title=HIGH VOLTAGE 日本産クワガタムシ界の精鋭達が贈る待望の採集短編集 |publisher=昆虫文献六本脚 |date=2014-06-04 |pages=46-56 |ref={{SfnRef|山崎昭彦|2014}} |author=山崎昭彦 |editor=上林昭景 |ncid=BB18097783 |chapter=伊豆大島のクワガタムシ2013}}
* {{Cite book|和書 |title=HIGH VOLTAGE 日本産クワガタムシ界の精鋭達が贈る待望の採集短編集 |publisher=昆虫文献六本脚 |date=2014-06-04 |pages=57-78 |ref={{SfnRef|山崎昭彦2|2014}} |author=山崎昭彦 |editor=上林昭景 |ncid=BB18097783 |chapter=三宅島のクワガタムシ2013}}
* {{Cite book|和書 |title=HIGH VOLTAGE 日本産クワガタムシ界の精鋭達が贈る待望の採集短編集 |publisher=昆虫文献六本脚 |date=2014-06-04 |pages=80-85 |ref={{SfnRef|田中裕二|2014}} |author=田中裕二 |editor=上林昭景 |ncid=BB18097783 |chapter=神津島ギリギリセーフそしてアウト}}
* {{Cite book|和書 |title=フィールドガイド 日本のクワガタムシ・カブトムシ観察図鑑 日本に棲息する種類と見分け方、観察のポイントがわかる |publisher=[[誠文堂新光社]] |date=2015-06-15 |pages=80-83 |ref={{SfnRef|吉田賢治|2015}} |author=吉田賢治 |isbn=978-4416715406 |ncid=BB19123448 |chapter=ノコギリクワガタ Prosopocoilus inclinatus |id={{国立国会図書館書誌ID|026406113}}・{{全国書誌番号|22583912}}}}
* {{Cite book|和書 |title=クワガタムシ・カブトムシの知られざる世界 大人のための甲虫図鑑 |publisher=[[ベストセラーズ|KKベストセラーズ]] |date=2016-08-05 |ref={{SfnRef|吉田賢治|2016}} |page= |author=吉田賢治 |editor=オフィスJ.B(編集協力) |edition=初版第一刷 |isbn=978-4584137352 |ncid=BB2196296X |chapter= |id={{国立国会図書館書誌ID|027483413}}・{{全国書誌番号|22774677}}}}


== 関連項目 ==
{{commonscat|Prosopocoilus inclinatus}}{{Species|Prosopocoilus inclinatus}}
* [[アマミノコギリクワガタ]]
* [[タカサゴノコギリクワガタ]]


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[[Category:ノコギリクワガタ属]]
[[Category:ノコギリクワガタ属]]
[[Category:ペット]]
[[Category:ペット]]

2024年3月31日 (日) 14:59時点における版

ノコギリクワガタ
ノコギリクワガタの成虫(オス)
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: コウチュウ目 Coleoptera
亜目 : カブトムシ亜目 Polyphaga
上科 : コガネムシ上科 Scarabaeoidea
: クワガタムシ科
Lucanidae[1]
亜科 : クワガタムシ亜科 Lucaninae[注 1][1]
: クワガタムシ族 Lucanini[1]
亜族 : ノコギリクワガタ亜属 Cladognathina[1]
: ノコギリクワガタ属
Prosopocoilus
: ノコギリクワガタ
P. inclinatus
学名
Prosopocoilus inclinatus
(Motschulsky1857)

ノコギリクワガタ(漢字表記は「鋸鍬形」[2]もしくは「鋸鍬形虫」[3][4]学名: Prosopocoilus inclinatus)は、コウチュウ目クワガタムシ科ノコギリクワガタ属分類される昆虫の1である[5]

日本国内に広く生息するクワガタムシで、日本国外では朝鮮半島[5]中国遼寧省に分布する[6]和名の由来は、オス成虫大顎の内側にのように歯が数多く並んでいることである[7]。また学名の種小名 inclinatus は「曲がった」という意味であり、大型オス成虫の大顎の形に由来するものと思われる[5]。低地から亜高山まで生息し、日本のクワガタムシの中でも広い分布域を持つ種であり[8]、身近に生息するクワガタムシでもある[9]

複数の亜種に分類されるが(詳細は後述)、本項目では主に日本本土(北海道本州四国九州)を中心に分布する名義タイプ亜種[注 2] Prosopocoilus inclinatus inclinatus (Motschulsky, 1857) [5][11]を中心に解説する。

分布

名義タイプ亜種の場合、日本国内では北海道本州四国九州奥尻島飛島粟島佐渡初島伊豆諸島伊豆大島利島)、隠岐諸島瀬戸内海各島、対馬壱岐五島列島甑島列島種子島に分布する[6]。なお北海道に分布するノコギリクワガタは、ノコギリクワガタ属の分布北限種とされる[12]

日本国外では朝鮮半島済州島鬱陵島[5][6]中国遼寧省[注 3]に分布する[6]

形態

日本に分布するクワガタムシの中では大型の種である[4]。名義タイプ亜種の場合、成虫の体長(大顎の先端から尾端までの長さ)[注 4]オスで25.8 - 77.0 mm[11][10]メスで25.0 - 41.5 mm[10]。野外における最大個体は、長崎県壱岐市で2011年7月に採取された77.0 mmのオス成虫である[16]むし社の調査によれば、飼育下ではオス成虫は最大体長76.8 mm[注 5][17]、最小体長22.6 mmの個体がそれぞれ記録されている[18][19]。またメスは飼育下で最大43.9 mmが記録されている[20]

体色は赤褐色から黒褐色で、光沢は鈍い[11]。ただし、メスはオスに比べて前胸背板や上翅の光沢が強いとされる[21]。以下のように、オスは幼虫期から前蛹期にかけては低温で育った個体の方が大型化しやすい傾向にあると評している[22]

オス

オスは頭部が発達しており、複眼の前方と後方が強く側方へ突き出し、複眼には細い縁取り(長さは複眼のほぼ半分に達する)がある[11]。頭部の前縁中央(頭楯手前、大顎の付け根付近)には上向きの平たい突起がある[11]。頭楯は細長い舌状で、その先端は丸く前方斜め下方へ突出するが[11]対馬朝鮮半島の個体はこの突起がやや細長く尖る[5]。前脚の脛節は細長い[23]。中脚・後脚の脛節にはそれぞれ1本の棘があるが、後脛節の棘を欠く場合もある[11]

大顎の個体差

オスの大顎は連続的な多型の変化が見られる[24]。クワガタムシの場合、大型個体・中型個体・小型個体の大顎をそれぞれ大歯型中歯型小歯型[25][26]、もしくは長歯型両歯型原歯型と呼称するが[27]、本種は大きさの変化に伴う大顎の変化が顕著で、大歯型と小歯型を比較するとさながら別種のように見える[26]。また大型個体を湾曲した大顎の形状から「水牛」と呼ぶ地方も多い[7]。小歯型は「イトノコ」という通称でも呼ばれる[28]

オスの大顎は大型個体の場合、の角のように中心で左右上方に張り出すように湾曲し、中心よりやや前方に大きな内歯を持つほか、内歯基部側に1本、前方に2 - 5個の小内歯がある[29]。中型個体では大型個体と比べて大顎の湾曲が弱くなり、基部から先端にかけて鋸歯状に小さい内歯が並び、中央もしくは基部の近くにやや長い内歯が出現する場合が多い[11]。小型個体は中型個体よりさらに大顎の湾曲が弱くなり、長さも短く直線的になる一方、基部から先端にかけて短い小内歯が鋸歯状に並ぶ[11]。原名亜種の場合、オスは体長50 mm程度で大歯型になるが[注 6][31]、北海道から本州では通常54 mm程度以上の個体が大歯型になる[24]。このような歯型の変化は体長および前蛹期の温度に密接に関係しており、各型の中間サイズの場合、前蛹期に温度が低かった方が歯型が良くなる(大歯型寄りになる)傾向がある(後述[24]。ハル (2015) によれば、自然界では年中温暖な河川敷より、冷涼な山間部や高標高な里山に大型個体(大歯型)が多い[32]

下に向かって湾曲する大歯型のオスの大顎の形状は、海外に生息する同属のクワガタムシと比べても異様と評されるが、小島啓史はこのような形状の大顎を有する形態に進化した理由について、樹液をめぐって競合するカブトムシの巨大な円筒形の体を挟み上げて投げ飛ばせるような形に進化したという仮説を提唱している[33]

ノコギリクワガタの大顎の変異[24]
型の名称 特徴 体長
大歯型 中央よりやや基部寄りで強く内側に湾曲し、中央から先端側には直線部がある。
第2内歯(中央付近の内歯)と第3内歯(第2内歯より先端側)との間には、1 - 3本の小内歯がある。
北海道・本州では体長54 mm程度から見られる。
中歯型I型 大歯型に比べて大顎の湾曲は弱く、第1内歯(最も基部側の内歯)はより下方へ移動する。
第1内歯と第2内歯との間には鋸歯がないか、あっても痕跡的である。
北海道・本州では体長50 - 55 mm程度で見られ、四国・九州では50 mm後半でも出現する。
中歯型II型 中歯型I型に比べてさらに湾曲が弱くなる。
第1内歯はさらに根本へ移動し、と第2内歯との間に鋸歯が現れる。
体長45 - 52 mm程度の個体で多く見られるが、九州では50 mm台中盤でも見られる。
小歯型I型 大顎は直線的で、先端付近で内側に湾曲する。第1内歯以外の内歯はすべて鋸歯となる。 体長45 mm以下で見られるが、九州では50 mm程度でも出現する。
小歯型II型 大顎は直線的で平たく短い。鋸歯は小さく、一部では消失する。

形態の地域性

ノコギリクワガタはメスの飛翔距離が長いことから(後述)ことから、分布地域に断続がほとんどなく、個体変異を含めた形態差は少ない[34]。しかし全体的に、四国・九州や周辺離島の個体は大顎の湾曲が弱く細身な個体が多い一方、北方産地の個体は体が大きく大顎の小さい個体が多いことから、ハル (2015) は形態の地域性とそれぞれの産地の気温との関係を指摘している(後述[35]

北海道や本州では体長70 mm超の個体は稀である[36]関東地方近畿地方のサイズは大差ない[30]東北地方産の個体は他産地より小型化する傾向にあり[注 7]、大顎の発達も悪く、体長70 mm以上の個体は極めて珍しいと思われる[37]。また中部地方でも65 mm超の個体は少なく、69 mm以上の個体はあまり見られない[30]淡路島でも65 mm超の大型個体は余り見られないという[38]

伊豆大島産の個体は体型が太くなる傾向にあり、また大顎も太短く、中型・小型個体では先端の湾曲が強くなる傾向にある[39]。伊豆大島では本州より大型個体の出現率が高く、本州では稀な体長70 mm超の個体も比較的多く、最大で74 mm超の個体が得られているという[39]。またメスに関しても、体長40 mmに達する成虫が比較的多く見られる[40]。一方で利島産の個体群は伊豆大島産とほぼ同じような体型ながらやや細身であり、70 mm超の個体は見られず、65 mm超のサイズも稀であるという[注 8][39]

北海道産の場合、70 mm級の個体の出現率は本州と大差ない[41]。四国・九州産の個体群は北海道・本州産と比較して大顎の湾曲がやや弱く、長い傾向にある[10]。四国産や瀬戸内海島嶼部に分布する個体群の場合、本州産よりやや大顎や体型が細長い傾向が見られる[42]。九州産の個体群はそれらよりさらに細身で大顎も長くなる傾向にあり、70 mm以上の個体の出現率は北海道・本州より遥かに高いといい[43]宮崎県では本土産の野生個体としては最大となる76 mmの大型個体が確認されている[44]。特に壱岐の個体群はそのような特徴が顕著で、体も大型化する傾向にあるため、65 mm以上の個体が普通に見られ、本土に比べれば70 mm以上の個体も遥かに多い一方、他の産地では大歯型になるようなサイズ(体長57.0 mm)でも中歯型にとどまる場合もある[16]五島列島平戸島長崎県西海市肥前大島寺島では形態的には九州本土とほとんど変わらず、大顎は細身の傾向があるものの、地域変異と呼べるほど著しい変異はない[45]

対馬では体長60 mm超の大型個体はあまり得られず、九州本土の個体群より、同じく大型個体が少ないとされる朝鮮半島の個体群に近い系統にあると考えられている[16]

メス

メス

メスの体は背面から見るとラグビーボールのような体型で[24]、厚くて丸みがある[29]。メスの大顎はオスに比べて遥かに小さいが、産卵のために朽木に穴を開けやすい構造になっている[46]。大顎は細く、先端部が強く尖るほか、1本の小さな内歯がある[24]。メスの頭楯は台形で、その先端はややくぼみ、複眼の縁取りは複眼の前半部を覆い、後端が側方に張り出している[11]。前胸背板は前角が丸く、上翅には大きな点刻が密にある[11]

前脚の脛節は先端が幅広く、その外縁に先の丸い三角形の外歯が並んでいる[11]。このようなメスの前脚の形状は土かきのためと考えられている[29]。またオスと同じく、中・後脚の脛節には各1本の棘がある[11]

雌雄モザイク

ノコギリクワガタは雌雄モザイクの個体が複数確認されている[38]。雌雄モザイクは数百万頭に1頭の割合で出現すると言われており[38]、クワガタムシの雌雄モザイク個体の場合、体の左右で雌雄に分かれる個体や、雌雄の特徴が混在する個体は知られているが、体の前後が雌雄別々に分かれたノコギリクワガタのモザイク個体は珍しいという[21]

2012年に茨城県牛久市で採取された雌雄モザイク個体は、頭部にオス、胸部と腹部にメスの特徴を有していた[21][47]。同個体の体長はオス側が52.4 mmであった[38]。また体の前後で分かれている上、頭部も左半分がオス、右半分がメスにそれぞれ分かれているという個体も確認されている[注 9][38]。オスとメスがほぼ完全に二分する個体は稀で、そのような個体は交尾器形態も完全に二分していることが多い[38]。雌雄モザイクもしくは奇形で左右の大顎の長さが異なる場合、背面から見て左側の大顎の方が右側より発達が良い(雌雄モザイクの場合は左側がオス、右側がメスになる)場合が多い[38]

生態

原名亜種の場合、成虫は5月下旬から10月上旬に出現し、梅雨の最中から7月下旬までが発生のピークとなる(後述[11]。ただし、産地によっては9月上旬でも普通に見られる[36]。成虫は昼夜ともに活動し、広葉樹の樹液を食する[11]。口はブラシ状になっており、酵母によって甘酸っぱく発酵した樹液を舐め取るように食する[48]

基本的には夜行性だが、昼間も樹液につく姿がよく見られる[6]

生息標高

主に平地から低山地にかけての雑木林や、河川敷ヤナギ河畔林に生息する[11]。日本本土に分布する原名亜種の場合、生息する標高域は0 - 1,400 mにわたる[36][6]。珍しい記録として、2003年10月24日にJR海峡線竜飛海底駅下り線ホーム(標高海面下135 m)で採取されたメス成虫の例があり、おそらくクワガタムシとしては日本で最低標高地点で採取された記録と思われる[注 10][8]

関東地方ではノコギリクワガタの方がミヤマクワガタより個体数が多い一方、近畿地方では住宅地に近い山や雑木林でもミヤマクワガタが優勢な場合が多く[49]、実際に本郷によれば、京都市内の雑木林ではミヤマクワガタが最も身近なクワガタムシだった[50]。しかし2012年時点ではミヤマクワガタが減少している一方、それまで個体数の少なかったノコギリクワガタが増加しているという[50]

生息環境

樹液を利用する樹種は、平地ではクヌギアベマキコナラカワヤナギカエデハンノキニレなど、高地ではヤナギ[注 11]ミズナラ[6]、山地ではヤシャブシ、ヒメヤシャブシ、タチヤナギ、ドロヤナギ、ヤマハンノキ、イタヤカエデなどが知られている[52]。河畔林や山地ではオニグルミ、暖地ではオオバヤシャブシ Alnus sieboldianaアカメガシワミカン類の樹液にも集まる[11]。また、夜間は灯火にもよく飛来する[11]

原生林にも見られるが、本来は人間の農業・林業活動のため伐採が繰り返されて生じた里山の二次林・薪炭林に多く、大人の腕から脚程度の太さのクヌギ・コナラを好む[53]。また山地ではあまり太くない若い木が多く、樹幹にコウモリガの食痕が多数付着しているような林に多い[52]

岡島秀治により、ヤナギの細枝に多数のノコギリクワガタが集まって樹皮に傷をつけ、樹液を舐めている姿が何度か観察されている[51]。土屋利行 (2015) によれば、活動時間のピークは日没直後から21時ごろと、明け方近くの2回ある[6]。道路沿いの灯火に飛来した個体は車に轢かれて死ぬことも珍しくないが、その事故死した個体の体液を別の個体が吸いにやって来る場合がある[40]

成虫は天敵の鳥から身を守るため、樹に震動が加わると跗節感覚毛で震動を感じ、擬死して落下してくる習性がある[54]。この習性を利用し、クワガタムシがいそうな木を足で蹴ったり、大きい槌で叩いたりして木に震動を与え、落下してきたクワガタムシを採集するという方法がある[55]。このような習性は人間だけでなく、クワガタムシを捕食するカラスにも利用されているが、カラスは木を揺らして落ちてきたクワガタムシを捕食する際、落ちてきたクワガタムシを見失うことがないように下草が生えていない場所を選ぶ[56]。しかしクワガタムシは震動を与えれば必ずしも落ちてくるとは限らず、強風の日などは木を揺らしても落ちてこない場合もある[56]。ノコギリクワガタの場合、朝に高く伸びたクヌギやコナラを木槌で軽く叩くと木から落ちてくる場合が多い[57]

また成虫は夜間、人間の出す明かりに気づくとオスの場合は威嚇のポーズを取る一方、メスの場合は明かりから逃げ出そうとする場合がある[55]。メスの飛翔距離は数キロメートル (km) から十数キロメートルと長く、それが分布地域ごとの形態差の少なさの要因となっている(前述[34]

種間競争

ノコギリクワガタは同じニッチを占める競合他種と比べて、オス成虫の戦闘能力が遥かに高い[34]。ノコギリクワガタは活動可能な気温帯ならば昼夜を問わず活動し、また樹液を巡る争いでは排他的に同種または他種を追い払うため、同じように幼虫が地下の埋没木や切り株で育つことの多いヒラタクワガタと生息環境が重複する場合でも、ノコギリクワガタが優勢種となる場合が多い[58]

ノコギリクワガタはカブトムシミヤマクワガタと同じく、木の表面から樹液が出ている部位を餌場にするため、この3種は互いにニッチを奪い合う格好となる[59]。一方でヒラタクワガタ、コクワガタスジクワガタなどは樹木の表面ではなく、樹皮の裏側や樹洞などに潜り込んでその中で樹液を吸汁することが多いため、その点ではノコギリクワガタなどとは棲み分けている格好になる[59]

闘争

ノコギリクワガタのオス成虫は、大顎および頭部に接触刺激を受けると相手を大顎で挟もうとする[60]。オスたちは食物である樹液や、樹液にやってきたメスをめぐって激しい闘争を繰り広げ、時には大顎が折れる場合もある[61]。同種のオス同士が闘争した場合、大抵は強力な大顎を持つオスが勝利するが、体が小さくて弱いオスでも、大型のオスより早い時間に樹液に来訪してメスを見つけたり、大型のオス同士が争っている隙にメスを見つけたりすることができるため、小型のオスが必ずしも繁殖に不利になるというわけではない[61]

ノコギリクワガタは闘争面では、対カブトムシという面ではほとんど不利である[62]。野生下では、ノコギリクワガタやミヤマクワガタがカブトムシと遭遇した場合はクワガタムシが逃げて闘争にまで至らない場合が多く、仮に闘争に至ったとしてもほとんどの場合はカブトムシの勝利で終わる[62]。これは多くの場合、カブトムシの方がクワガタムシより体格で優れている[注 12]ことに加え、クワガタムシは興奮すると体を起こし、大顎を振りかざして威嚇の体勢を取るが、カブトムシは相手の体の下に頭角を差し込んで掬い投げる戦法を取るため、その角が相手のクワガタムシの大顎より長い場合は、威嚇の姿勢を取るクワガタムシの体の下にカブトムシが角を差し込みやすくなり、カブトムシが勝利する場合が多いためである[63]。このため、野外ではクワガタムシはカブトムシとの闘争を回避する場合が多い[63]

一方、ノコギリクワガタはミヤマクワガタ相手の場合は仮に相手の方が体格が良くても有利に戦うことができる[64]。本郷儀人が2年間をかけて採取したノコギリクワガタ70個体とミヤマクワガタ32個体を用い、餌台付きの止まり木を入れた飼育ケース内で人為的に闘争させる実験を行ったところ、ノコギリクワガタ同士の闘争は93回、ミヤマクワガタ同士の闘争は69回、異なる両種間での闘争は119回発生したが[注 13][65]、79勝40敗でノコギリクワガタが優勢という結果が出た[66]。このうち、体格の大きい方が勝利した事例は70回(ミヤマクワガタ39勝、ノコギリクワガタ31勝)、小さい方が勝利した事例は49回(ミヤマクワガタ1勝、ノコギリクワガタ48勝)で、2個体の体格差が大きいほど体格の大きい個体の方がより有利になる一方、仮にミヤマクワガタの方が体格が大きくても、ノコギリクワガタが勝利する可能性も十分にあるという結果が出た[67]。大顎を含む全長という観点ではミヤマクワガタは43 - 79 mm、ノコギリクワガタは33 - 74 mmと、わずかにミヤマクワガタの方が有利であり[68]、実際に本郷が取った統計(ノコギリクワガタ105頭、ミヤマクワガタ103頭)によれば[注 14]、大顎を除いた体の長さではノコギリクワガタ(平均38.06 mm)よりミヤマクワガタ(同40.46 mm)の方が優勢ではある[70]。しかし大顎の長さという点では湾曲する大顎を持つノコギリクワガタ(平均26.51 mm)の方がミヤマクワガタ(同22.56 mm)より優勢で、大顎の広げ幅ではノコギリクワガタが28.48 mm、ミヤマクワガタは28.20 mmとほぼ互角であり、2種間で体格がほぼ同等の場合はより大顎の長いノコギリクワガタが優勢になると考えられる[71]

またミヤマクワガタは同種間・異種間どちらの闘争でもほとんど「上手投げ」(相手を背中側から大顎で挟み込んで投げ飛ばす戦法)で勝利している一方、ノコギリクワガタは同種間闘争では「上手投げ」による勝利が半数を占めるものの、対ミヤマクワガタの場合は全体の3分の2の割合で、相手を腹側から大顎で挟み込んで投げ飛ばす「下手投げ」の戦法、すなわちカブトムシの角の使い方に近い戦法で勝利を決めていた[72]。このような戦法の違いは、ノコギリクワガタとミヤマクワガタそれぞれの大顎の使い方の違いに由来するもので、本郷が顎を広げている状態のクワガタの大顎と頭部を割り箸で刺激してみる実験を行ったところ、ノコギリクワガタは体の上下どちら側から刺激を受けた場合でもすぐに大顎で挟み込もうと反応してきたが、ミヤマクワガタは体の上側から刺激を受けた場合、大顎を広げたまま上体を反らして威嚇の態勢を取るばかりで挟み込もうとはしてこなかった[73]。つまりノコギリクワガタは上下どちらからの刺激にも対応できる一方、ミヤマクワガタは上からの刺激には対応できないため、「下手投げ」の戦法を取ることができないのである[74]。ミヤマクワガタはノコギリクワガタに遭遇すると大きな体格を活かし、相手を上から押さえ込むような形で挟もうとするが、ノコギリクワガタは上からも下からも相手を挟み込むことができるため、仮にミヤマクワガタの方が大柄でも相手を腹側から挟み込んで「下手投げ」を狙うことができる[74]

またクワガタムシやカブトムシとの闘争だけでなく、カナブンなど他の昆虫を縄張りから追い払う際に大顎を用いて投げ飛ばす場合もある[75]

生態の地域性

撮影地:北海道
撮影地:埼玉県秩父

以下、日本本土に分布する原名亜種に関しての解説である。島嶼部に分布する各亜種については後述の「亜種」節を参照されたい。

北海道ではミヤマクワガタよりやや遅れて発生し、灯火への飛来は6月下旬から7月上旬がピークとなる[41]。北海道にはクヌギがほとんどないため、ヤナギ、ミズナラ、ハルニレなどの樹液に多い[76]。北海道の道東道北では個体数が少ないものと思われる[41]

東北地方では6月下旬から発生し、7月中旬にピークを迎える[76]。東北地方ではミズナラや河川敷のヤナギの樹液に多く、関東地方以西では雑木林のクヌギやコナラ(関西ではアベマキにも)、河川敷のヤナギの樹液に多い[76]。関東以西では6月から発生し、7月の上旬から中旬にかけて発生のピークを迎えるが、8月に入るとカブトムシが本格的に発生し、樹液で見られるノコギリクワガタの姿は減る[76]。関東地方では林が残っていれば都市部にも生息しているが[41]東京都市部では個体数が減少傾向にあることが指摘されている(後述[58]。槇原寛・星元規は、茨城県つくば市森林総合研究所筑波研究学園都市)では、本種は6月下旬から7月上旬にかけては大型のオスばかりが見られるが、7月中旬から8月にかけてはメスや小型のオスが見られると述べている[77]。このように大型個体が野外で早期に出現する理由としては、大型のオス成虫は羽化直後に蛹室を出るためであるという仮説や、メスや小型オスは羽化したその年に活動を開始する個体もいる一方、大型のオスは羽化時期が遅いことから羽化した年は活動しないまま越冬し、その翌年から活動を開始するためであるという仮説を提唱している[77]。中部地方ではどの地域でも普通種で、佐渡島でも個体数は少なくない[30]。淡路島や隠岐諸島でも普通種である[78]

九州ではクヌギ・クリ・タブ・ヤナギなどに多く、稀にイチョウにもいるという[76]。壱岐では個体数が非常に多いが、対馬では個体数は少ない[79]。対馬・壱岐では7月中旬から8月上旬にかけて発生のピークを迎え、クヌギ・コナラ・タブの樹液や灯火に集まる[79]甑島列島では7月の中旬から下旬にかけて発生のピークを迎えるが[79]下甑島ではコクワガタやヒラタクワガタが優勢種であり、上甑島も含めてノコギリクワガタの個体数は少ないとされる[16]

伊豆諸島にはクヌギはほとんど生えていないため[注 15]、オオバヤシャブシ、カラスザンショウ[注 16]タブアカメガシワなどの樹液に集まる[76]。山崎昭彦によれば、オオバヤシャブシの若木が密生している場所に多いが、三宅島と同じく噴火のタイミングと個体数の変動が関係している可能性があるという[注 17][80]。伊豆大島では6月から11月にかけて発生するが[76]、発生のピークは他地域より遅く[39]、8月中旬から下旬にかけてである[76]。伊豆大島では個体数が非常に多く[76]ヤシャブシの成木の樹液によく見られ、7月から10月中旬まで昼間に普通に見つけられるほか、都道沿いの水銀灯などの灯火にも多く飛来する[40]。伊豆大島では本種以外にミヤマクワガタ Lucanus maculifemoratusコクワガタ Dorcus rectusヒラタクワガタ D. titanus も生息しているが、本種が優勢種となっているようである[40]。利島ではオオバヤシャブシやカラスザンショウの樹液によく集まるが、バナナトラップにはあまり集まらない[39]

繁殖

ヤナギの細枝を齧り樹液を得ようとするノコギリクワガタの雌雄

交尾は樹液が出ている樹幹や枝の上で行われ、オスはメスを守るため、交尾後もペアになっていることが多い[11]。また、街灯に飛来した雌雄がその場で交尾する場合もある[40]

メスは交尾後、地下に埋もれた朽木もしくはその周辺の土に産卵する[46]。野生下ではクヌギ・コナラ・ヤナギ類など広葉樹白色腐朽した立ち枯れの根際に潜り、地下に埋もれている根の腐朽部表面に産卵することが確認されている[11]。また天然の立ち枯れ木だけでなく、シイタケ原木栽培に用いられるクヌギなどの「ホダ木」に産卵することも多い[82]。メスは大顎で朽木に穴を開けてそこに産卵する[83]場合もあるが、朽木そのものに産卵するのではなく、土中の朽木の表面に泥を固め、泥の中に産卵する場合もある[84]。朽木に穴を開けて産卵する場合、メスは腹部の先端を穴に挿入し、産卵管を伸ばして卵を産み付け、後脚を使って木屑で穴を埋め、最後に大顎で埋めた穴の表面を均す[85]。一方でコクワガタの場合は、地表に横たわっている湿った朽木の表面に大顎で穴を開けて産卵するが、このようにノコギリクワガタとコクワガタはそれぞれ異なる場所に産卵することで棲み分けを図っていると考えられる[84]。ノコギリクワガタの1頭のメスによる産卵数は30 - 50個程度におよぶと考えられる[84]。メスは1個産卵するために約2時間をかける[86]

飼育下ではコナラの朽木と土を入れた水槽に雌雄の成虫を入れたところ、1か月後に土中から多数の卵と1齢幼虫が見い出せたが、朽木には産卵された痕跡はなかったという報告がある[87]。このことから、立ち枯れの腐朽した根の周辺の土中にも産卵するものと考えられる[11]。また、稀にスギヒノキといった針葉樹の朽木にも産卵する場合があるが[11]、幼虫がこれら針葉樹の朽木を食す場合は、ヤニなどの成分が分解されている場合に限られる[6]

野外では成虫は越冬することなく[51]、活動を終えた成虫は通常、10月ごろまでに死亡する[11]。死因は夏の盛りを過ぎたころから樹液が枯れ始めることによる飢餓とされ、飼育下では長生きする場合もある[88]

幼虫

3齢幼虫

は秋に孵化して1齢幼虫(初齢幼虫)になる[11]。産卵から孵化までの日数は、夏季は約20日間、秋季は45 - 100日程度である[89]。産卵直後の卵は約2 mmの楕円形だが、産卵から約10日後には3 mm程度に膨張して丸みを帯び、産卵から約3週間で孵化する[90]。孵化直前(産卵から約2週間後)になると、卵の殻の中で幼虫の体が透けて見えるようになり、特に大顎の先端部分が2個の黒い点のように目立つようになる[90]。孵化直後の幼虫は体長約5 mm[90]もしくは約8 mmで[91]、孵化直後はまだ頭部が白くて軟らかく[92]、頭部が硬化して茶褐色に色づくまでの約1日間は孵化した場所から動かない[93]。クワガタムシ科の昆虫の幼虫は硬いオレンジ色の頭部と、軟らかくて長いC字状の白い胴体を有する体型[94]、ジムシ(コガネムシ科の幼虫)に酷似しているが[95]、コガネムシ科の幼虫とは異なり、腹部の末端に2つの丸いいぼ状の膨らみがある[96]。幼虫の体全体の約7割を腹部が占めている[94]。幼虫期間は成虫原基の発達のために重要な期間であり、この時期に長時間をかけて成虫原基細胞の数を増やせるか否かが、成虫時の大顎の発達度合いを左右することになる[97]

野外での幼虫期間は1年から2年で[98]、通常は約2年である[6]。幼虫は孵化から蛹化までの間に2回脱皮し、1回目の脱皮で1齢幼虫から2齢幼虫に、2回目の脱皮で2齢幼虫から3齢幼虫になる[99]。この間、幼虫は土中を移動して立ち枯れや切り株の根など、地中に埋もれた朽木に食い入り、朽木を食べて成長する[11]。大きく成長した幼虫は体長約8 cmになる[100]。幼虫はCの字状の体型を活かして狭い空間を回転しながら移動し、鋭い大顎で朽木をかじり、トンネルを掘り進むようにして朽木を食べる[94]。幼虫の大顎の基部には臼状の歯があり、幼虫は鋭い大顎で噛み砕いた朽木の一部をこの歯で磨り潰して食べる[101]。食痕(トンネル)の太さは約2 cm[102]ないし約3 cm程度になり[103]、幼虫は朽木を食べた際に発生した食べかすや糞を、回転運動しながら自身より後方のトンネルへ押し固めるように詰めていく[94]。消化しにくい朽木を栄養源として吸収するため、幼虫の体内には長い腸が入っているが、その腸内には無数のバクテリアや他鞭毛虫といった微生物たちが生息しており、彼らが朽木の分解を手助けしている[94]。これらの微生物は幼虫が脱糞すると同時に体外に排出されるが、幼虫は朽木を食べる際に糞も混ぜ合わせて食べることで、排出された微生物を再び体内に取り込んでいる[94]

クワガタムシ科の昆虫の幼虫が食べる朽木の部位は種ごとに、含有水分量の少ない順に「立ち枯れ上部」「倒木」「立ち枯れや切り株の根部・倒木の地面埋没部分」に大別され、種によっては腐植土や泥上のフレークなどを食べる種もいる。また、朽木の腐朽型は朽木に寄生した菌の種類によって白色腐朽材(白腐れ)、褐色腐朽材(赤腐れ)、軟腐朽材(黒腐れ)に大別される[104]。ノコギリクワガタの幼虫は、自然界では白色腐朽材の立ち枯れの根部や、倒木の地中埋没部を食べている[98]。またバクテリアによって黒く朽ちた黒腐れ材を食べるとする文献もある[105]。特に広葉樹の切り株根部に多く、そのような部位からは10 - 20頭の幼虫がまとまって発見される[98]。地面に埋もれた朽木の下部など、よく腐朽して湿気を含んだ軟らかい部分に多いとされる[51]。根の中央付近よりも樹皮のすぐ下を好んで食べる傾向にある[6]。このようにノコギリクワガタの幼虫が地下部を好んで食べるのは、他のクワガタムシ類の幼虫と競合することを避けるためと考えられている[注 18][108]。同じ立ち枯れの地表部からオオクワガタの幼虫、地中部からノコギリクワガタの幼虫がそれぞれ発見される場合もある[55]。またノコギリクワガタの幼虫たちは1つの朽木に集団で入っていることが多く、1本の立ち枯れの根を食い尽くした中から多数の幼虫が出てくる場合もある[6]。また今坂二郎 (2015) によれば、1齢幼虫や2齢幼虫は軟らかい材部を食べていることが多いが、3齢幼虫は他の幼虫と寄り添うように食痕の中に埋もれながら生活する個体が見られるという[109]

夏に孵化した幼虫は、1齢幼虫から3齢幼虫の初期段階で1度目の越冬を行い、翌年に蛹化するものが多い[98]。一方でオスの大型個体などは3齢幼虫で2度目の越冬を行い、その後蛹化する[98]。幼虫は光が届かない朽木や土中に深く潜って生活しているため、気温の変化で季節の変化を知り変態する[97]

幼虫は穿孔木の塩分・湿度の増加に強く、黒潮などの海流に乗って海を渡り、海岸に流れ着くことは不可能ではないという[110][111]。小島啓史は、ノコギリクワガタやミヤマクワガタなど湿度の高い状態の朽木を好むクワガタムシは多少の塩分でもほとんど影響を受けないため、これらの種は幼虫が穿孔している朽木ごと海に流されても生存したまま海を渡ることができるが、乾燥した朽木を好み、過剰な湿度に弱いオオクワガタの幼虫は朽木ごと海に流されると死亡してしまい、海を渡ることはできないだろうと考察している[110]

前蛹

3齢幼虫は初夏になると[注 19][51]、楕円形の蛹室を作る[11]。蛹室を作る場所は朽木の中の軟らかい部位や[51]、または朽木近くの土中で[112]、小島 (1996) は3齢幼虫が地中の腐朽部を食い尽くした場合、地中に蛹室を作る場合もあると述べている[33][77]。また筒井学は、湾曲した巨大な大顎を持つノコギリクワガタにとっては、朽木よりも土の方が軟らかく脱出しやすいため、ノコギリクワガタは土中で蛹室を作ると述べている[113]。蛹室は羽化時に後翅や大顎などを伸ばしても壁にぶつからないよう、蛹の大きさに比して大きめに作られる[114]。土中で蛹化する場合、地下1 m程度まで潜る場合も少なくない[98]

蛹室が完成すると幼虫の体は次第に縮んでいってシワが目立つようになり、蛹室完成から約10日後には「前蛹」という形態に変化する[113]。前蛹は、曲がっていた体を伸ばして仰向けになっており、体内では幼虫時代の筋肉・消化器官が分解され、蛹になるための再構築が行われていると考えられる[113]。前蛹期は大顎・頭部・胸部といった成虫の上半身の部位が急成長する期間で[115]、特に大顎の発達の鍵を握る成虫原基が急成長する期間である[97]。ハル (2015) は、幼虫期に高栄養・低温度の環境で育った幼虫は大歯型に、低栄養・高温度の環境で育った幼虫は小歯型になりやすい傾向にあると述べ[116]、また前蛹期に低温環境にいた個体は大顎の成虫原基の成長期間が延長され、細胞増殖が盛んに起きることにより、大顎の湾曲が強く、上翅サイズも大きな成虫になる一方、逆に前蛹期に高温に晒された個体は大顎湾曲が弱くなり、上翅も小さくなると評している[97]。また蛹化時の大顎の伸長具合は蛹室の傾斜にも比例しており、頭部側が高い蛹室を作った個体は、ポンピングにより腹部から頭部に送られた体液が重力により、大顎の基部から先端部へ流れやすくなるためか、上半身が大きく膨らみ、大顎の先端部分が伸びて湾曲も強くなるという[115]

蛹室の完成から約10日後[11]ないし約2週間後[113]、前蛹は脱皮(蛹化)してになる[113]。蛹室を作り始めてから蛹化するまでの時期は約3週間である[9]。前蛹は蠕動運動とともに脱皮を開始し、頭部から背中にかけて前蛹の皮膚に亀裂が走り[113]、中から白い蛹の頭胸部が姿を見せる[117]。大顎は前蛹の皮膚から抜け出すと、その直後から少しずつ膨張していき、大顎が抜け出ると脚・翅の部分も現れる[117]。やがて蛹は体をくねらせながら幼虫の殻を脱ぎ捨てていき[117]、開始から約15分後には脱皮を完了する[113]。その後、蛹は腹部を活発に動かして体液を押し上げ[117](「ポンピング運動」[115])、約1時間後には腹部が縮み、逆に頭胸部が大きく発達した形に整う[117]。翅や腹部は上半身とは異なり、蛹化後もしばらく成長するが、蛹化時に高温下に置かれた個体は蛹化時のポンピング運動が活発になることで頭部や大顎が大きく発達した成虫になりやすい一方、蛹化時も低温下に置かれていた個体はポンピング運動が鈍くなり、下半身の大きい成虫になりやすいとされる[115]

蛹は幼虫期に蓄えた栄養分を用いて体内で成虫の体を再構築する時期であり[118]、腹部を回転させながら体勢を変化させるような動きしかできない[119]。腹部の先端には小さな鉤爪上の器官があり、これを蛹室の壁に引っ掛けて体を回転させることで動く[118]。蛹化した直後の蛹は白いが、その翌日になると透明感のある飴色に変化する[117]。更に約1週間後には黄土色に変化し、成虫の複眼が黒く色づき始める[119]。蛹化から約20日後には体内の成虫の頭胸部と足が赤みを帯びるようになり、羽化直前になるとさらに赤褐色に変化し、皮膚にはシワが入るようになる[119]。そして羽化前日には蛹の尾端から、蛹の皮膚と成虫の体との隙間を埋めていた水分が排出され、蛹の皮膚はシワだらけで成虫の体に貼り付いたような状態になる[120]。蛹の時点では、成虫の頭部は折れ曲がった状態で[120]、また翅の部分は小さく収まっており、羽化する際に大きく伸びる[120]

羽化

蛹は蛹化から20日程度で羽化して成虫になる[11]。羽化を開始する際、蛹は頭部を少し持ち上げて脚を動かし、腹部を回転させて体の向きを仰向けからうつ伏せに変える[121]。そして腹部を伸縮させることで蛹の皮膚を後ろにずらし、背面の頭胸部の中心の皮膚に亀裂が入ると成虫の体が露出する[121]。次いで成虫は足を踏ん張って体を持ち上げ、翅と頭部をそれぞれを蛹の殻から引き出し、最終的に腹部の先まで脱皮する[121]。そして脚を動かすことで腹側の殻を脱ぎ、大顎・触角も脚を使って蛹の殻を取り除いていく[121]。またそれと同時に[121]、腹部に入っている体液を縮んでいた上翅の隅々まで行き届かせることで上翅を伸ばし、腹部を上翅で覆う[120]。腹部の殻をすべて脱ぎ終わると、同様に後翅を伸ばす[121]

羽化開始から約2時間後には折れ曲がっていた頭部が少しずつ伸びていき、それから約3時間後(羽化開始から5時間後)には上翅が少しずつ色づくと同時に、伸ばしていた後翅も上翅の下へ折りたたまれる[120]。羽化から約1日後には赤褐色に色づくが[120]、羽化直後は体はまだ軟らかく[114]、体が硬化するまでには約1か月を要する[120]。体が完全に硬化しても[120]、新成虫はその夏は外に出ることはなく、そのまま蛹室内で越冬し、翌年(孵化から3年目)の初夏に脱出して活動を開始する(2年1越型)ことが多い[11]。しかし室内で常温飼育すると冬の温度が高いためか、孵化した翌年に蛹化する1年1越型になる場合が多く、野外でも1年1越型の個体がいる可能性がある[11]。また、小型個体は1年1化型とする文献もある[29]。なお蛹化・羽化の時期に急激な温度変化をすると蛹化不全・羽化不全の原因になる[9]

茨城県つくば市では、飼育下ではメスや小型のオスになる幼虫は生育が早く、早いものは孵化してから最初の越冬前に3齢幼虫となり、翌年の春から夏にかけて羽化し、夏までに羽化した個体はその年の秋には活動を開始する[77]。一方で大型のオスは成長が遅く、孵化から2年目の夏から秋にかけて羽化する[77]

新成虫は越冬時、地下の奥深くで過ごしており、地下50 cm以上の深い場所にいる場合もある[120]。槇原寛や星元規により、大型のオス成虫がケヤキの切り株やクヌギの立ち枯れの根元で団子状になって集団越冬していた事例が観察されているが[122][123]、これは大型のオスの場合、蛹室内では大顎が邪魔になるため、羽化直後に蛹室を出て越冬場所(切り株の根の間など)に移動するのではないかという説が唱えられている[77]。また集団になるのは、地中に蛹室を作れる場所や蛹室から出た成虫が落ち着ける場所が限定されるため、結果的に集団になるのだろうと考えられている[77]

分類

本種のタイプ産地静岡県下田市で、ロシアの昆虫学者ヴィクトル・モチュルスキーが1857年に Lucanus 属の一種として記録した[124]。その後、1862年にはモチュルスキーによって創設された Psalidoremus 属に再分類され、本種だけでなく日本産の4種(ハチジョウノコギリクワガタアマミノコギリクワガタヤエヤマノコギリクワガタ)と台湾タカサゴノコギリクワガタも同属に分類されていたが、その後の研究により、日本の研究者たちの間では Prosopocoilus 属に分類されることが多くなった[124]。これら5種に共通する特徴として、大型のオス成虫の大顎が強く湾曲する点や、メス成虫は体高が高くて丸みを帯び、各脚脛節が先端に向かうほど幅広くなるという点が認められる[13]

亜種

ノコギリクワガタは名義タイプ亜種の他、以下の複数亜種分類されている[125]。名義タイプ亜種を含むと亜種数は6もしくは7(御蔵島の個体群を伊豆諸島南部亜種とは別亜種とした場合)である。

なおハチジョウノコギリクワガタ P. hachijoensis Nomura, status nov. は1960年、野村鎮によってノコギリクワガタの八丈島亜種 ssp. hachijoensis として記載されたが、市川敏之がその特異な特徴・生態に着目して研究を進めた結果、1985年にノコギリクワガタの亜種ではなく独立種とされた[126]。また南西諸島トカラ列島から久米島にかけて分布する個体群はアマミノコギリクワガタ P. dissimilis (Boileau, 1898) に[127]八重山諸島石垣島西表島)に分布する個体群はヤエヤマノコギリクワガタ P. pseudodissimilis Y. Kurosawa, 1976 に[128]、台湾に分布する個体群はタカサゴノコギリクワガタ P. motschulskyii (Waterhouse, 1869) [129]にそれぞれ分類されており、いずれも日本本土に分布するノコギリクワガタとは別種として扱われている。

大隅諸島黒島亜種[11] P. i. kuroshimaensis Shimizu et Murayama, 2004 [130][11][131]
クロシマノコギリクワガタ[111][132][131]とも呼ばれる。タイプ産地および分布地は鹿児島県大隅諸島黒島三島村[11]。体長はオスで29.5 - 69.7 mm、メスで25.0 - 41 mm[131]。野生下における最大個体は、2009年7月に採取された体長69.7 mmのオス成虫である[132]。飼育下ではオスの最大個体は体長74.0 mm[131]
原名亜種に比べて大顎は短く湾曲が強い[133][131]。体全体に光沢があり、特に上翅は原名亜種に比べて光沢が強い[133]。脚は細長く[131]、中・後脚の脛節に生えている棘は小さい[133]。通常は赤褐色型だが、完全な黒化型も出現する[131]
6月から9月に発生し、7月中旬から下旬にかけてピークを迎える[79]。山間部のタブやスダジイの樹液に集まるほか、夜間は灯火にも飛来する[132]。個体数は非常に多いが、三島村では条例で昆虫採集が禁止されている[134]
大隅諸島硫黄島亜種[11] P. i. mishimaiouensis Shimizu et Murayama, 1998 [130][11][131]
ミシマイオウノコギリクワガタ[135][130][131]とも呼ばれる。
タイプ産地および分布地は鹿児島県大隅諸島硫黄島(三島村)[11]。体長はオスで27.5 - 68.8 mm[131]ないし69.3 mm[132]、メスで24.5 - 35 mm[131]。野生下における最大個体は、1999年7月に採取された体長69.3 mmのオス成虫である[136]。飼育下ではオスの最大個体は体長73.8 mm[131]
原名亜種に比べて大顎は太く、やや湾曲が弱い[31][131]。原名亜種では体長50 mm程度で大歯型になるが、本亜種はその程度では大歯型にならず、体長60 mm前後を境に大顎の湾曲が強くなる[31]。体色は赤褐色から黒褐色だが、黒褐色の個体は稀である[31]。体の表面は光沢がやや強いが、黒島亜種ほどではない[130]。脚の跗節が細長い[131]
幼虫は広葉樹の朽木根部や地中に埋もれた倒木に見られ、特にヤブツバキで観察できる[137]。成虫は7月から11月にかけて発生するが[136]、個体数がやや少ないことに加え、島内には樹液を出す木も少ないためか、自然状態で本種を観察することは困難とされている[79]。アカメガシワの樹液や灯火、果物トラップに集まった姿が観察されている[137]
口永良部島亜種[11] P. i. kuchinoerabuensis Shimizu et Murayama, 1998 [130][11][131]
クチノエラブノコギリクワガタ[137][130][131]とも呼ばれる。
タイプ産地は鹿児島県大隅諸島口永良部島[11]。体長はオスで25.8 - 71.0 mm、メスで19.2 - 38.9 mm[131]。野生下における最大個体は、2007年7月に採取された体長71.0 mmのオス成虫である[138]。飼育下ではオスの最大個体は体長74.0 mm[131]
原名亜種に比べて頭部がやや小さく、大顎もやや細長くて湾曲が弱い[130]。硫黄島亜種と同じく、原名亜種なら大歯型になる体長50 mm程度でも大歯型にはならない[137]。体はやや細長く、光沢がやや強い[11]。跗節は細く、中脚脛節の棘は痕跡的である[131]
幼虫は広葉樹の朽木の地面に接した部分から得られる[137]。成虫は6月から9月にかけて発生、7月中旬に発生のピークを迎える[138]。雌雄ともタブノキの樹液や灯火・果物トラップに集まっている[137]。個体数は多いがほとんどが小歯型で、大歯型はほとんど見かけない[79]
伊豆諸島南部亜種[139] P. i. miyakejimaensis Adachi, 2009 [130][139][140][141]
原記載では和名は提唱されなかったが[142]、仮称としてイズノコギリクワガタ[130]、もしくはミヤケノコギリクワガタ[142][140][141]とも呼ばれる。
伊豆諸島の新島式根島神津島三宅島御蔵島に分布する[130][141]。タイプ産地は三宅島で[139][143]、亜種名は三宅島に由来する[143]
体長はオスで25.6 - 69.4 mm、メスで24.0 - 38.0 mm[141]。確認されている最大個体は神津島で採取された体長69.4 mmのオス成虫である[144]。神津島では大型化する傾向にあるが[144]、三宅島では体長60 mm超の個体は稀である[145]。山崎によれば、三宅島では2013年時点で50 mm超の個体は少なく、採集される個体はほとんどが小歯型であるという[81]
原名亜種に比べてオスの大顎は太短く、より内側に湾曲する[143]。また小型個体のオスは大顎の内歯が少なく、不明瞭とされる[143][139]。前胸側縁は丸みを帯び、体色は黒化したものが多く、全身に赤味のある個体は稀である[143]
しかし原名亜種との差異は軽微とされ[130]、研究者によっては本亜種を原名亜種と同亜種として扱う場合がある一方、御蔵島産の個体群を本亜種とはさらに別の御蔵島亜種[139]ミクラノコギリクワガタP .i. mikuraensis Matsuoka et Takatoji, 2010 として区別する場合がある[145][141]。同亜種を報告した松岡進樹・高都持佑輔は、伊豆諸島南部亜種については原名亜種のシノニムとして扱うべきだろうと述べ、大島・利島の個体群と合わせて「伊豆諸島北中部型」という型であるという説を提唱している[146]。御蔵島産のものは原名亜種に比べ、以下の特徴がある[146]
オス - 体長は29.6 - 61.8 mm[141]。体色は暗赤褐色から黒色で、体全体の光沢がより強い。大顎はやや細短く、大型個体では大顎の湾曲がなだらかな点、小型個体では内歯が発達せず鋸状にならない。脚は細長い。上翅の先端が丸みを帯びる。交尾器の基節が伸長しやや大きい。
メス - 体長は25.2 - 36.4 mm[141]。体色は黒褐色から黒色で、光沢が強い。前胸背板から上翅の点刻は深く、非常に粗い。脚は細長く、中脚・後脚の脛節にある突起はやや弱い。半腹板が幅広い[146]
6月から9月に発生し、7月中旬に発生のピークを迎える[140][145]。オオバヤシャブシ、カラスザンショウ、タブ、アカメガシワなどの樹液に集まり、灯火にも飛来する[140]。新島・神津島ではそれぞれ非常に個体数が多いが[147]、三宅島・御蔵島では少ない[145]。山崎によれば三宅島では噴火後の2006年には個体数が多かったが、年数が経過するにつれて少なくなっているという[81]。また式根島でも新島ほど個体数は多くないと考えられる[144][148]。なお御蔵島では条例により、昆虫採集が禁止されており[145]、神津島でも島内すべての動植物の持ち出しが禁止されている[149]
ヤクシマノコギリクワガタ P .i. yakushimaensis Adachi, 2014 [150][151][131]
原記載は『KOGANE』第15号1-6頁[150][151]。鹿児島県大隅諸島屋久島に分布する[131]。体長はオスで25.0 - 69.3 mm、メスで22.7 - 35.0 mm[131]。野生下における最大個体は、屋久島で2009年7月に採取された体長69.3 mmのオス成虫である[152]。飼育下ではオスの最大個体は体長67.0 mm[131]
ミシマイオウノコギリクワガタ、クチノエラブノコギリクワガタ、クロシマノコギリクワガタがそれぞれ名義タイプ亜種と別亜種とされて以降も、屋久島・種子島の個体群は引き続き名義タイプ亜種の九州南部離島型として分類されていたが、阿達直樹が形態や交尾器の形状などを観察した結果、屋久島の個体群については既知の亜種とは明確に区別できる特徴があるとして、新亜種として記載したものである[150]
原名亜種に比べてオスの大顎の湾曲が強く[131]、大顎は短い[150]。大歯型がより体長の小さな個体でも出現する傾向にあり[150]、体長50 mm程度で大歯型になる個体もいる[36]。大歯型のオスの場合、最大内歯がやや後方を向き、また先端から最大内歯の間に位置する小内歯は少ない[150]。体はやや光沢が強いが、大隅諸島産の他3亜種よりは弱く、明るい赤色の個体が多い[150]。雌雄とも体型は幅広く、楕円形である[150]。オスの交尾器は名義タイプ亜種や伊豆諸島南部亜種と比べて細長い[150]。中脚脛節外縁の棘は小さいがはっきりと認識できる一方、後脚の脛節外縁の棘はオスの場合は痕跡的である(メスの場合は小さいがはっきり認識できる)[150]
6月から9月に発生し、7月中旬に発生のピークを迎え[152]、7月下旬以降は個体数が減少する[79]。クヌギ・タブ・ミカンの樹液や街灯、バナナトラップなどによく集まる[79]

人間との関わり

前田信二はノコギリクワガタについて、日本産クワガタムシの中ではミヤマクワガタとともに子供たちの人気を二分する種であると述べている[153]

成虫は乾燥に強く、幼虫は埋没木を食べるため、小島啓史は本種について、東京都港区千代田区といった都心部でも幼虫の生育環境や成虫の餌場になる小規模な緑地があれば生息できるクワガタムシであると評している[154]。また土屋利行 (2015) によれば、東京都内の新宿区渋谷区でも採集できる場所があるという[41]山田一成は、外国産のクワガタムシ・カブトムシ類の輸入が解禁される以前は、ノコギリクワガタが書籍の表紙を飾るなど、特に人気の高いクワガタムシだったと述べている[155]むし社の発行する季刊誌『BE・KUWA』によれば、ノコギリクワガタはコクワガタミヤマクワガタとともに、日本における3大普通種と言える一般的なクワガタムシであるという[156]

関東地方の平野部では普通種だが、2010年代時点では雑木林の過度な下草刈り・落ち葉除去などによる林の乾燥化、美化運動による朽木の撤去、河川敷の大規模な草刈り・牧草地化により、生息環境の減少・悪化が著しいことが指摘されている[11]。小島は東京都市部で2003年までに、それまで少なかったヒラタクワガタが増加・大型化している一方、ノコギリクワガタが減少・小型化していることを指摘し、その原因として半透明ゴミ袋の普及によって個体数を増やしたハシブトガラスによるノコギリクワガタへの捕食圧と、局地的な温暖化(河川敷の伐採によって日光が遮られなくなることや、都市部のヒートアイランド現象など)によってノコギリクワガタ(大型オスは2年1化1越年を必要とすることが多い)が早熟になって大型化しづらくなった一方、ノコギリクワガタと競合する環境では個体数を増やしづらい一方、もともと湿潤温暖な環境を好むヒラタクワガタにとっては生息しやすい環境になりつつあるためではないかと評している[58]。一方で天野和利(時事通信社記者)は2023年、東京都心部の大きな公園はクヌギ・コナラ・シラカシなどクワガタムシやカブトムシの好む樹液を出す木が多いことや、彼らの幼虫の食物および住処となる朽木や腐葉土が積み上げられていることも多いことに加え、それらの公園では動植物の採集が禁止されている場合が多く、結果的にノコギリクワガタやカブトムシが繁栄しやすい環境になっていると評している[28]。東京都の2013年版レッドリストでは区部で準絶滅危惧 (NT) に指定されていたが[157]、2020年版では対象外となっている[158]

伊豆大島では「クワガタムシ」というと単に本種のことを指し、それ以外のクワガタ(ミヤマクワガタ・コクワガタ・ヒラタクワガタ)が生息することはあまり知られておらず、地元の子供たちも本種にはさほど関心を示さないという[40]

人工繁殖

人為的に産卵させることは容易で、握って塊になる程度に湿らせた発酵マットで産卵木を埋めた状態の飼育ケースに交尾済みのメス成虫、もしくは雌雄ペアの成虫を入れておけば多数の幼虫が得られる[159]。幼虫飼育は菌糸ビン・発酵マットのどちらでも可能であるが、今坂二郎は野外における幼虫の生態を根拠に、1 - 2齢の幼虫は栄養価の高い菌糸ビンで飼育し、菌糸の食べ具合を見て老齢(蛹化直前)の幼虫をマット飼育に切り替えるのが自然に近いと評している[109]。また飼育温度については、1齢幼虫から3齢幼虫の初期段階までは20程度、3齢幼虫になったら18 - 20℃程度、蛹室を作り始めて以降は19 - 22℃前後が、大型個体を羽化させるための適温であるとしている[160]。ハル (2015) も大型の成虫を羽化させるためには、幼虫を高栄養・低温度の環境で育成することにより、体の成長速度を抑えて閾値体重(変態が可能となる体重)を増やした上でそれへの到達を遅くし、前蛹期までは比較的低温で管理することが望ましいが、成虫の上半身のプロポーションを良くするためには、蛹化時に比較的高温(20 - 24℃程度)で管理することが望ましいと評している[161]

登場作品

脚注

注釈

  1. ^ 日本産のクワガタムシ科昆虫はすべてクワガタムシ亜科 Lucaninae に属するとされる[1]
  2. ^ 名義タイプ亜種と同義で原名亜種[10]という単語を用いる場合もある。
  3. ^ 2015年の文献より[6]。同書の著者である土屋利行は2013年時点で、中国からの確実な記録を聞いたことがないと述べていた[13]
  4. ^ むし社から発行された『世界のクワガタムシ大図鑑』では、大顎の先端部から上翅の先端部までの長さを「体長」と定義している[14]。同社発行の季刊誌『BE・KUWA』が主催している「クワガタ飼育ギネスコンテスト」のルールでも、大顎の先端から上翅の先端までの長さを競っている(大顎は開きすぎず、上翅と前胸の隙間も開けすぎない)[15]
  5. ^ 2015年の「クワガタ飼育レコード」で記録された個体で、種親は伊豆大島産[15]。2012年7月採卵、2014年6月に羽化した[15]
  6. ^ 土屋 (2015) によれば、原名亜種で最小の大歯型個体は山梨県産のオス成虫(体長50.8 mm)である[30]
  7. ^ これはミヤマクワガタにも該当する[37]
  8. ^ 土屋 (2015) によれば、利島産の最大個体は67.0 mmである[39]
  9. ^ 2006年8月に静岡県富士宮市で採取された個体(オス側の体長は52.2 mm)[38]
  10. ^ この個体は採取された時点では既に死亡していたが、後翅をやや出した状態であったことから、青森側の駅で列車の明かりに飛来し、列車に乗って竜飛海底駅まで運ばれたものと見られている[8]
  11. ^ 河畔林や山地に生えるアカメヤナギ・カワヤナギ・オノエヤナギなど[11][51]
  12. ^ 大顎まで含めたクワガタの大きさと、メスのカブトムシの大きさがほぼ同等である[62]
  13. ^ 対戦者が同じ取り組みは除外している[65]
  14. ^ 研究のために採取した前述の個体たちと、それ以前に採取した標本個体を計測対象とした[69]
  15. ^ 山崎は、伊豆大島のクヌギは移入種であると述べている[80]
  16. ^ カラスザンショウの場合、樹の高い枝先についている場合が多い[79]
  17. ^ ヤマザキは三宅島に分布するイズミヤマクワガタ(ミヤマクワガタの亜種)について、砂防ダムが新設されて2年から3年程度が経過した場所では砂防ダム建設の際に行われた森林伐採で良質な発生木が多数できるためか、特大個体も含めて多数の大型個体を採集することができたが、それから10年以上が経過すると良い発生木が減少するためか、大型個体が発生しづらくなるという[81]
  18. ^ ミヤマクワガタはノコギリクワガタと同じように白色腐朽材の根部を好み[106]、またヒラタクワガタも同様に白色腐朽材の立ち枯れの根部および倒木の地中埋没部を好むが、ヒラタクワガタと同属であるコクワガタは乾燥に強いとされる[107]。またオオクワガタなど立ち枯れに好んで産卵するクワガタムシの多くは一般的に乾燥した環境を好むとされる[98]
  19. ^ 蛹化時期は5月から8月にかけてである[89]

出典

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その他文献

関連項目