イヌビワ

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イヌビワ
Ficus erecta
Ficus erecta
(2007年4月30日、大阪府
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : バラ類 rosids
階級なし : 真正バラ類I eurosids I
: バラ目 Rosales
: クワ科 Moraceae
: イチジク連 Ficeae
: イチジク属 Ficus
: イヌビワ F. erecta
学名
Ficus erecta Thunb. var. erecta (1786)[1]
和名
イヌビワ、イタビ[1]
変種品種
  • ケイヌビワ F. e. var. beecheyana
  • イヌビワ F. e. var. erecta[2]
    • ホソバイヌビワ F. e. var. erecta f. sieboldii

イヌビワ(犬枇杷[3]学名: Ficus erecta または Ficus erecta var. erecta)は、クワ科イチジク属落葉低木から小高木。山野や海沿いに生える。別名ヤマビワ[3]イタビ、姫枇杷。

名称[編集]

果実(正確にはイチジク状果という偽果の1種)がビワの実に似ていて食べられるが、ビワに比べ不味であることから「イヌビワ」の名がある[3]。「イヌ」は劣るという意味である[3]。「ビワ」とついていてもビワ(バラ科)の仲間ではなくイチジクの仲間で、ビワとは近縁関係にはない[3]。イチジク渡来前の時代の日本では、本種は「イチジク」とよばれていた[4]

分布[編集]

日本本州関東以西)・四国九州沖縄と、韓国済州島に分布する[4]。海岸や沿海の山地に自生する[4]。特に関東地方から沖縄までの海岸沿いの照葉樹林の林縁に多く見られる[3]

なお、イチジク属のものには熱帯性のものが多く、本種は落葉性を獲得したため、暖温帯まで進出できたものと考えられる。本種はイチジク属の木本としては本土で最も普通に見られるため、南西諸島などに分布する同属のものには「○○イヌビワ」という本種に比した名を持つものが多い。

形態・生態[編集]

落葉広葉樹低木から小高木[4][5]、高さは5メートル (m) くらいまでになる。樹皮は灰白色でなめらか、一年枝はやや太く、緑色を帯びて無毛である[5]。枝を1周するように、はっきりした托葉痕がある[5]。樹皮に傷つけるとイチジクと同様に乳白色の樹液が出る[4]

は狭い倒卵形から長楕円形、基部は少し心形か丸まる[4]。葉質は薄くて草質、表面は滑らかかあるいは短いが立っていてざらつく。変異が多く、海岸沿いでは厚い葉のものも見ることがある。ごく幅の狭い葉をつけるものをホソバイヌビワ (var. sieboldii (Miq.) King)、葉面に毛の多いものをケイヌビワ (var. beecheyana (Hook. et Arn.) King) というが、中間的なものもある。葉縁に鋸歯はない[6]。秋には紅葉し、鮮やかな黄色や橙色に染まり、常緑樹林の中でよく目立つ[6][3]。紅葉後は遅くまで落葉せずによく残っている[5]

花期は晩春(4 - 5月ごろ)で、雌雄異株[4]。葉の付け根についた花嚢(かのう)は、秋に赤色から黒紫色へと変化して果嚢(かのう)となる[4]イチジクを小さくしたような形の実をつける[6]

果嚢は9月末 - 10月ごろに完熟し、見た目は小さなイチジク様で[3]、直径10 - 13ミリメートル (mm)の球形で長い柄があり[5]、白い粉を吹いたような濃紫青色となる。果嚢は甘く、食用になる[4]

冬芽はイチジクに似ていて、枝先の頂芽は円錐形で先が尖り、互生する側芽は球形や楕円形をしている[5]。頂芽は無毛で芽鱗2枚に包まれている[5]。側芽の芽鱗は2 - 4枚である[5]。葉痕は円形や心形で、維管束痕は多数が輪状に並ぶ[5]

蜂との共生[編集]

イヌビワの花序には、他の多くのイチジク属植物と同様に、イチジクコバチ科英語版ハチイヌビワコバチセブアノ語版)が寄生する。雄花序の奥側には雌花に似た「虫えい花」(花柱が短く、不妊)があり、これにハチが産卵する。幼虫は虫えい花の子房が成熟して果実状になるとそれを食べ、成虫になる。初夏になると雌成虫は外に出るが、雄成虫は花序の中で雌成虫と交尾するだけで一生を終える。雌成虫は雄花序の出口付近にある雄花から花粉を受け、この頃(初夏)に開花する雌花序に入った際には授粉をするが、ここでは子孫を残せず、雄花序に入ったものだけが産卵し、翌年春にこれが幼虫になる。このように、イヌビワの授粉には寄生蜂が必要であり、イヌビワと寄生蜂は共生しているということができる。

他に、イシガケチョウ食草としても知られる[7]


脚注[編集]

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Ficus erecta Thunb. var. erecta イヌビワ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月10日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Ficus erecta Thunb. var. erecta”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2014年8月7日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h 亀田龍吉 2014, p. 73.
  4. ^ a b c d e f g h i 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 236.
  5. ^ a b c d e f g h i 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 186
  6. ^ a b c 林将之 2008, p. 23.
  7. ^ 安田守『イモムシハンドブック』高橋真弓・中島秀雄監修、文一総合出版、2010年、35頁。ISBN 978-4-8299-1079-5 

参考文献[編集]

  • 茂木透 写真、高橋秀男・勝山輝男 監修『樹に咲く花:離弁花 1』山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、2000年、338-339頁。ISBN 4-635-07003-4 
  • 林将之『樹木の葉:実物スキャンで見分ける1100種類』山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、2014年、323頁。ISBN 978-4-635-07032-4 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]