キンミズヒキ

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キンミズヒキ
福島県会津地方 2016年9月
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ上類 Superrosids
階級なし : バラ類 Rosids
階級なし : マメ類 Fabids
: バラ目 Rosales
: バラ科 Rosaceae
亜科 : バラ亜科 Rosoideae
: キンミズヒキ属 Agrimonia
: シベリアキンミズヒキ
Agrimonia pilosa var. pilosa
変種 : キンミズヒキ
A. p var. japonica
学名
Agrimonia pilosa Ledeb. var. japonica (Miq.) Nakai [1]
シノニム
  • Agrimonia pilosa Ledeb. subsp. japonica (Miq.) H.Hara[2]
  • Agrimonia japonica (Miq.) Koidz.[3]
和名
キンミズヒキ(金水引)[4][5]

キンミズヒキ(金水引、学名:Agrimonia pilosa var. japonica )は、バラ科キンミズヒキ属多年草[4][5][6]。道端や山野で見られ、夏から秋に小さくて黄色い花が総状に集まって咲く。果実にはとげがあって、動物などにくっついて散布される。

名称[編集]

和名のキンミズヒキの由来は、「金水引」の意で、細長い黄色の花穂を「金色のミズヒキタデ科)」にたとえたものである[7][8]。なおミズヒキは、その花穂を水引にたとえたものであり[5]、バラ科のキンミズヒキとは異なる仲間の植物である[9]。地方により、ヌストグササシグサとも呼ばれる[7]

中国植物名は、黄龍尾(おうりゅうび)、龍牙草(りゅうげそう)という[7]。中国植物名の「龍牙草」の語源は、葉縁のギザギザした切れ込みから、竜の牙を連想したものと考えられている[8]

花言葉は、「しがみつく」である[10]

分布と生育環境[編集]

日本では、北海道本州四国九州に分布し、低山山地道ばた原野草地にふつうにみられる[7][11]。国外では、南千島サハリンウスリー朝鮮半島中国大陸インドシナ半島に分布する[6][12]

種子は良く発芽し、丈夫で、容易に栽培もできる[11]

基本種(基準変種)のシベリアキンミズヒキ(var. pilosa)は、ヨーロッパ東部からシベリア、中国大陸(北部)に分布する[6]。日本の本州の山地草原には、小型のヒメキンミズヒキがある[11]

特徴[編集]

秋に野原や草地などを歩くと、衣服にパラシュート形の果実がつくのでよく知られた多年草[8]

地下の根茎は肥厚する。全体に粗毛が密生しており、は直立して、草丈は30 - 150センチメートル (cm) になる[11][13][14]。よく分枝し、は等間隔に互生する[11]。葉は奇数羽状複葉で、3・5・7・9個の大小不ぞろいの小葉からなる[8][12]。小葉は菱状長楕円形から菱状倒卵形で長さ3 - 6 cm、幅2 cmほどになり、先端がとがり、葉の縁には粗い歯牙状の鋸歯がある[8][11]。葉の裏面には白色または帯黄色の腺点が多数ある。葉柄の基部にある托葉は、合着した葉のようなひれがあり[8]、ふつう半卵形で内側に曲がり、縁に粗くとがった鋸歯がある[4][5][6]

花期は夏から秋(7 - 10月)ころ[14]、分枝した茎先に総状花序を作り、黄色く小さな5弁が穂状に列を作って、やや密につける[8][11]花柄が短いので穂状にみえる。1個のと2個の小苞がある。花床筒は倒円錐形で、片は5個。花の径は6 - 11ミリメートル (mm)[12]花弁は黄色で5個あり、倒卵形から狭倒卵形で、長さ3 - 6 mm、幅1.5 - 2 mmになる。雄蕊は12本あり、花弁より短い[14]

果実の花床筒は長さ5 - 6 mm、径4 - 5 mmで、細長い花序に果実が多数つく[15]。果実は痩果で俵形、径3 mmほどの大きさがあり、永存性の萼筒に包まれたまま成熟する[15]。萼筒の上縁に副萼片が変化したものといわれる長さ3 mmのかぎ状のがあり、衣服や動物の毛に付着して運ばれ、種子が散布される[4][5][6][14]

利用[編集]

花期の地上部の茎葉には、精油タンニンを含んでおり、そのうちの主成分となるタンニンは、細胞組織を引き締める収斂作用がある[8]。また、水で煮出した水性エキスには、胆嚢の働きを助ける利胆作用があるといわれている[8]。根には、タンニンのほか、フェノール配糖体アグリモノリドフィトステロールバニル酸タキシフォリンなどが含まれるが、根の部分はあまり利用されていない[8]

8 - 9月ころに、花が咲きはじめたときに地上部の茎葉を刈り取って1 - 2日ほど天日干ししたあと、粗く刻んで陰干ししたものが生薬となり、竜牙草(りゅうげそう)[8][11]、または仙鶴草(せんかくそう)[7]と呼んでいる。出血下痢止め、のどの痛み、口内炎腫れあせもただれかぶれ湿疹、倦怠疲労に効果があるとされ、竜牙草(仙鶴草)1日量15グラムを約600 ccの水で半量になるまで煎じた汁が利用される。鼻血血便[7]、下痢などには煎じ汁を1日3回に分けて服用し、扁桃炎、のどの痛みや口内炎には、うがいに使われる方法が知られている[8][11]。また、皮膚の湿疹・かぶれには、冷ました煎じ汁で冷湿布することにより、タンニンの消炎作用を活用する方法が知られる[8]

また、春先は山菜として食用にされており、4 - 5月ころに摘み取った若芽や若葉を軽く茹でて水にさらし、お浸しや汁の実、和え物などに調理されている[8]

近縁種[編集]

脚注[編集]

  1. ^ キンミズヒキ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  2. ^ キンミズヒキ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  3. ^ キンミズヒキ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  4. ^ a b c d 『山溪ハンディ図鑑1 野に咲く花)』p.300
  5. ^ a b c d e 『新牧野日本植物圖鑑』p.76,p.294
  6. ^ a b c d e 『改訂新版 日本の野生植物3』p.25
  7. ^ a b c d e f 貝津好孝 1995, p. 185.
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n 田中孝治 1995, p. 83.
  9. ^ 田中修 2007, p. 145.
  10. ^ a b 主婦と生活社編 2007, p. 102.
  11. ^ a b c d e f g h i 馬場篤 1996, p. 45.
  12. ^ a b c 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著 2010, p. 153.
  13. ^ 大嶋敏昭監修 2002, p. 150.
  14. ^ a b c d 山田隆彦・山津京子 2013, p. 55.
  15. ^ a b 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2018, p. 181.

参考文献[編集]

  • 大嶋敏昭監修『花色でひける山野草・高山植物』成美堂出版〈ポケット図鑑〉、2002年5月20日、150頁。ISBN 4-415-01906-4 
  • 大橋広好門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 3』平凡社、2016年。
  • 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、185頁。ISBN 4-09-208016-6 
  • 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著『花と葉で見分ける野草』小学館、2010年4月10日、153頁。ISBN 978-4-09-208303-5 
  • 主婦と生活社編『野山で見つける草花ガイド』主婦と生活社、2007年5月1日、102頁。ISBN 978-4-391-13425-4 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『増補改訂 草木の 種子と果実』誠文堂新光社〈ネイチャーウォッチングガイドブック〉、2018年9月20日、181頁。ISBN 978-4-416-51874-8 
  • 田中修『雑草のはなし』中央公論新社〈中公新書〉、2007年3月25日。ISBN 978-4-12-101890-8 
  • 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、83頁。ISBN 4-06-195372-9 
  • 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、45頁。ISBN 4-416-49618-4 
  • 林弥栄監修、平野隆久写真『山溪ハンディ図鑑1 野に咲く花』山と溪谷社、1989年。
  • 牧野富太郎原著、大橋広好邑田仁岩槻邦男編『新牧野日本植物圖鑑』北隆館、2008年。
  • 山田隆彦・山津京子『万葉歌とめぐる 野歩き植物ガイド 夏〜初秋太郎次郎社エディタス、2013年8月15日、55頁。ISBN 978-4-8118-0762-1 
  • 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」

関連項目[編集]