コタネツケバナ

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コタネツケバナ
茨城県常総市小貝川畔 2024年3月中旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ上類 Superrosids
階級なし : バラ類 Rosids
階級なし : アオイ類 Malvids
: アブラナ目 Brassicales
: アブラナ科 Brassicaceae
: タネツケバナ属 Cardamine
: コタネツケバナ C. kokaiensis
学名
Cardamine kokaiensis Yahara, Soejima, Kudoh, Šlenker et Marhold (2018)[1]
シノニム
  • Cardamine parviflora auct. non L. (1958)[2]
和名
コタネツケバナ(小種漬花)[3]

コタネツケバナ(小種漬花、学名: Cardamine kokaiensis)は、アブラナ科タネツケバナ属越年草[3][4][5][6]。別名、ヒメタネツケバナ、コカイタネツケバナ[1]。従来、ヨーロッパ原産の帰化植物とされてきた[4][5]が、2018年に日本在来の新種として記載された[1]

特徴[編集]

植物体の高さは5-20 cmになる。は基部からよく分枝し、直立または傾伏し、ふつう無毛まれに基部にわずかに毛が生える。はほぼ無毛で互生し、葉身は羽状に全裂し、側裂片は3-5対あり、裂片は楕円形で、基部はくさび形、縁は全縁または1-2個の歯牙がある[3][4][5][6]

花期は3月下旬から4月。茎先に短い総状花序をつけ、白色の十字形の4弁花をややまばらにつける。萼片は斜上し長さ約1 mm、開放花の花弁は長さ約2 mmになる。開放花の雄蕊は6個、雌蕊は1個。果実長角果で斜上する果柄に直立してつき、線形で、長さ10-15 mm、幅0.8 mmになる。種子は四角状広楕円状で、長さ0.7-0.8 mm、周囲に白色で膜状の狭い翼がある[3][4][5][6]。生育環境が河川の氾濫原である場合には、しばしば花弁が退化する閉鎖花となる傾向があり、雄蕊は4個に減数し、1あたりの花粉数も減少する[3][6][7]染色体数は、2n=32[8]

分布と生育環境[編集]

日本では、本州の関東地方から近畿地方中国地方に分布し、河川敷や低地の湿った場所に生育する[6][7]。国外では、中国大陸東部に分布する[7]

名前の由来[編集]

和名コタネツケバナは、「小種漬花」の意[3]種小名(種形容語)kokaiensis は、別名のコカイタネツケバナ発見地の茨城県小貝川にちなむ[6]

分類の変遷[編集]

植物学者の村田源は、1952年に京都府船井郡八木町(現、南丹市)でこの植物を採集し、村田 (1954) は「コタネツケバナ」と名付けた。この際、村田は、「京都府の八木町附近の田んぼの中にタネツケバナと混つて多數見受けられる。花も果實もタネツケバナよりずつと小さく,花期も早い。日本で今までこれに當てられていたヒメタネツケバナはこれではなく,タチタネツケバナの一形であるので,新しい歸化植物とみとめ和名をコタネツケバナとする。」とし、これをヨーロッパ原産の Cardamine parviflora L. に同定した[9]

一方、堀内洋は、1991年に茨城県下妻市小貝川河川敷の湿った場所で、タネツケバナ属ではあるがタネツケバナより小さく、分枝した茎があまり直立せず、斜上して這い、花弁の退化した植物を見いだした。堀内 (1998) はこれを「コカイタネツケバナ(仮称)」と名付けた[10]。その後、堀内 (2003) は、村田 (1954) によるコタネツケバナとコカイタネツケバナ(仮称)の検証を行い、両者は同一のものとの見解を示し、それ以降、本種についてコタネツケバナ C. parviflora の名称を使用した[7]

さらに、工藤, K.マルホルド & J.リホバ (2006) は、村田 (1954) によるコタネツケバナとその標本を利用した図鑑等について触れ、「これまで報告されている日本産のコタネツケバナは,C. parviflora ではない.」「著者らがこれまでに調査した国内の標本庫において,その時点で C. parviflora と同定できる日本産の植物標本はなかった.」と、日本産コタネツケバナは、ヨーロッパ原産の C. parviflora とは異なる分類群であることを指摘した[11]。これより前の1999年に、工藤は小貝川でこの植物を採集している。工藤による採集の標本ラベルには、閉鎖花をつける未記載種である可能性が記されている[7]

これに先立ち、矢原徹一は1990年に、堀内とは別に、茨城県下妻市の小貝川でこの植物を見いだし、採集した。矢原は、この種が閉鎖花をつけ、タネツケバナとは異なる分類群であることから、堀内とは独立して、これに「コカイタネツケバナ」の和名をつけた。Morinaga et al. (2008) は、矢原からこの標本の提供を受け、開放花と閉鎖花の遺伝子発現を解析し、このコカイタネツケバナは新分類群と考え、Cardamine kokaiensis Yahara を裸名で使用し論文を発表した。この発表を契機に、新分類群のコカイタネツケバナ、C. kokaiensis が広く認知されることとなった[7]Šlenker et al. (2018) はこの種を Cardamine kokaiensis Yahara, Soejima, Kudoh, Šlenker et Marhold と新種として正式に記載した[7][8]

YListでは、和名はコタネツケバナ。コカイタネツケバナは別名とされている[1]

種の保全状況評価[編集]

国(環境省)のレッドデータブックレッドリストでの選定はない。都道府県のレッドデータ、レッドリストでは、兵庫県が要調査種(環境省の「情報不足」に相当)に評価している[12]

ギャラリー[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d コタネツケバナ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月19日閲覧。
  2. ^ コタネツケバナ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月19日閲覧。
  3. ^ a b c d e f コタネツケバナ(小種漬花)”. 野田市役所. 2024年3月19日閲覧。
  4. ^ a b c d 中井秀樹 (2003)「アブラナ科タネツケバナ属」『日本の帰化植物』p.85
  5. ^ a b c d 清水, 森田 & 廣田 (2011), p. 94-95.
  6. ^ a b c d e f 米倉浩司 (2017)「アブラナ科タネツケバナ属」『改訂新版 日本の野生植物 4』p.57
  7. ^ a b c d e f g 藤井 et al. (2021), p. 107-116.
  8. ^ a b 矢原徹一. “日本の野生植物総点検プロジェクト タネツケバナ属 Cardamine”. 九州オープンユニバーシティ. pp. 1-5,45. 2024年3月19日閲覧。
  9. ^ 村田 (1954), p. 177.
  10. ^ 堀内 (1998), p. 94-96.
  11. ^ 工藤, K.マルホルド & J.リホバ (2006), p. 41-49.
  12. ^ コタネツケバナ”. ひょうごの環境. 兵庫県. 2024年3月20日閲覧。

参考文献[編集]

文献[編集]

ウェブサイト[編集]

関連項目[編集]