コロラドビャクシン

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コロラドビャクシン
コロラドビャクシン
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 裸子植物 gymnosperms
: マツ綱 Pinopsida
: ヒノキ目 Cupressales[注 1]
: ヒノキ科 Cupressaceae
亜科 : ヒノキ亜科 Cupressoideae
: ビャクシン属(ネズミサシ属) Juniperus
: Juniperus sect. Sabina[5]
: コロラドビャクシン J. scopulorum
学名
Juniperus scopulorum Sarg.1897[6]
シノニム
  • Juniperus virginiana var. scopulorum (Sarg.) Lemmon (1900)
  • Juniperus virginiana subsp. scopulorum (Sarg.) A.E.Murray (1983)
  • Sabina scopulorum (Sarg.) Rydb. (1905)
  • Juniperus excelsa Pursh (1813), nom. illeg.
  • Juniperus maritima R.P.Adams (2007)
  • Juniperus occidentalis var. pleiosperma Engelm. (1877)
  • Juniperus virginiana var. montana Vasey (1876)
  • Sabina maritima (R.P.Adams) Y.Yang & K.S.Mao (2022)
英名
Rocky mountain juniper[1][7][8], Rocky mountain red cedar[1][7][8], mountain red cedar[7], river juniper[1][8], Colorado red cedar[9], red cedar[1][8], weeping juniper[7], western juniper[8]

コロラドビャクシン(学名: Juniperus scopulorum)は、裸子植物マツ綱ヒノキ科ビャクシン属に属する常緑針葉樹の1種である。高さ10–20メートルになる高木であり、小枝は細く、鱗片状の葉で覆われる。球果は翌年に熟し、液果状で直径4-9ミリメートル、紫黒色で粉白をおびる。北米西部に広く分布しており、草地、荒原、岩石地などに生育している。北米東部に見られるエンピツビャクシンに近縁であり、異所的に分布している。スカイロケット(‘Skyrocket’)などさまざまな園芸品種があり、観賞用に植栽されている。

特徴[編集]

常緑高木であり、ふつう主幹が明瞭だがまれに株立ち状、高さ10–20メートル (m) になる[7][10][11](図1, 2a, b)。樹冠は円錐形から不定形[7][10][11]樹皮は赤褐色から灰褐色、薄く縦に剥がれる[7][10][11](下図2c)。小枝は平滑、横断面は四角から三角形、ふつう上向するがときに下垂、末端は細く、葉長の2/3以下[7][10]

2a. 樹形
2b. 樹形
2c. 樹皮

はふつう鱗形葉、まれに針葉、明緑色から濃緑色、ときに青緑色、全縁、背軸側にある腺点は楕円形で明瞭[7][10][11]。鱗形葉は長さ 1–3 mm、ときに竜骨状、先端は尖頭から鈍頭、重なる場合でも1/5長以下、十字対生して枝を覆う[7][10][11](下図3a)。針葉はさや状、長さ 3-12 mm、向軸側は白色を帯びない[7][10][11]

3a. 枝葉
3b. 雄球花をつけた枝葉
3c. 球果をつけた枝葉

雌雄異株であり、"花期"は4月から6月、雄球花[注 2]または雌球花[注 3]を小枝の先端につける[11][15]。雄球花は楕円形、長さ 2–4 mm、黄褐色、ふつう6個の小胞子葉からなる[11][15](上図3b)。球果は翌年の秋から冬に成熟し、裂開せず鱗片は合着して液果状(漿質球果)になり、球形から卵形、直径 4-9 mm、青黒色、粉白をおび、1-3個の種子を含む[7][10][11][15](上図3c)。種子は黄褐色、長さ 2-5 mm[10][11](下図4c)。染色体数は 2n = 22[7][10]

分布・生態[編集]

北アメリカ西部に広く、しかし散在的に分布しており、カナダ西部からメキシコ北部、特にロッキー山脈に沿って見られる[6][7][15](下図5a)。生育可能な気候条件の範囲は幅広く、7月平均気温が 16–24°C、1月平均気温が -9°Cから4°C、平均年間降水量が 250–840 mm の地域に見られ、乾燥地に生育する[15]

4a. 分布域: コロラドビャクシン(緑)と近縁種の Juniperus maritima(赤)
4b. 自生地のコロラドビャクシン(アイダホ州
4c. 自生地のコロラドビャクシン(モンタナ州

一般的に土壌が浅くあまり発達していない痩せた土地の、草原や牧草地、荒地、岩地などに生育する[15](上図4b, c)。森林にも生育するが、優占することはない[15]

球果は、主に鳥によって食べられ、種子散布される[11][15]。種子散布において哺乳類は重要ではないが、ヒツジは球果を好んで食べることが知られており、放牧地の道沿いにコロラドビャクシンが生えていることがある[15]

コロラドビャクシンの枝葉は、家畜シカバイソンなどさまざまな動物に食べられる[11]。また、さまざまな鳥がコロラドビャクシンに営巣する[11]

Cercospora sequoiae子嚢菌門クロイボタケ綱)は、コロラドビャクシンにとって最も深刻な病害を引き起こす[15]。他に、Rhizoctonia solani担子菌門ハラタケ綱)、Phomopsis juniperovora(子嚢菌門フンタマカビ綱)なども害を与える[15]。また、リンゴナシなどに大きな被害を与える赤星病菌(担子菌門サビキン綱)の中間宿主となる[15]

コロラドビャクシンを食害する動物として、甲虫鱗翅目双翅目キジラミハダニなどが知られる[15]。またセンチュウPratylenchus penetrans は実生の根に深刻な害を与える[15]

人間との関わり[編集]

コロラドビャクシンのの木目は細かく、辺材は白色、心材は紫紅色でその境界は明瞭、精油を多く含み芳香がある[7][15]家具や塀などに用いられる[11]。また、コロラドビャクシンの球果や若枝の精油は、薬用としても利用されている[11]

北米東部の先住民の多くの部族は、コロラドビャクシンを儀式に用いていた[11]は、楽器燃料などに用いられていた[11]。また、球果や葉、根を生薬としていた[11]

防風林として利用されることがある[11]。観賞用にも利用され、‘Blue Arrow’、‘Blue Creeper’(ブルークリーパー)、‘Blue Heaven’(ブルーヘブン; 下図5a)、‘Blue Trail’、‘Cologreen’、‘Erecta Glauca’、‘Gray Gleam’(グレイグラム)、‘Green Ice’、‘Greenspice’、‘Jewell Frost’、‘Medora’(メドーラ)、‘Moffat Blue’、‘Montana Green’、‘Moonglow’(ムーングロウ)、‘Pathfinder’、‘Platinum’、‘Skyrocket’(スカイロケット; 下図5b, c)、‘Sparkling Skyrocket’、‘Springbark’、‘Sutherland’、‘Table Top’、‘Table Top Blue’、‘Tollesonís Blue Weeping’、‘Tollesonís Green Weeping’、‘Welchii’、‘Witchita Blue’(下図5d)、‘Winter Blue’(ウィンターブルー)などの園芸品種がある[11][15][16]

5a. ‘Blue Heaven’(ブルーヘブン)
5b. ‘Skyrocket’(スカイロケット)
5c. ‘Skyrocket’(スカイロケット)
5d. ‘Witchita Blue’

分類[編集]

コロラドビャクシンはエンピツビャクシンJuniperus virginiana)に極めて近縁であり、北米を二分して南北に走るグレートプレーンズを境界として西側にコロラドビャクシン、東側にエンピツビャクシンが分布している[7]。分布域が接する地域では、交雑することが報告されている[7]。また米国北西部のピュージェット湾周辺に分布する(上図4a)J. maritima も極めて近縁であり、この3種は同種とすべきとも考えられている[7]。他にも、J. barbadensisJ. bermudianaJ. gracilior なども近縁であり、明瞭な系統群を構成している[7]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ ヒノキ科イチイ科コウヤマキ科とともにヒノキ目に分類されることが多いが[2][3]マツ科(およびグネツム類)を加えた広義のマツ目(Pinales)に分類されることもある[4]
  2. ^ "雄花"ともよばれるが、厳密には花ではなく小胞子嚢穂(雄性胞子嚢穂)とされる[12]。雄性球花や雄性球果ともよばれる[13][14]
  3. ^ "雌花"ともよばれるが、厳密には花ではなく大胞子嚢穂(雌性胞子嚢穂)とされる[12][13]。送受粉段階の胞子嚢穂は球花とよばれ、成熟し種子をつけたものは下記のように球果とよばれる[13]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e Farjon, A. (2013年). “Juniperus scopulorum”. The IUCN Red List of Threatened Species 2013. IUCN. 2024年1月13日閲覧。
  2. ^ 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編), ed (2015). “種子植物の系統関係図と全5巻の構成”. 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. p. 18. ISBN 978-4582535310 
  3. ^ 米倉浩司・邑田仁 (2013). 維管束植物分類表. 北隆館. p. 44. ISBN 978-4832609754 
  4. ^ 大場秀章 (2009). 植物分類表. アボック社. p. 18. ISBN 978-4900358614 
  5. ^ Juniperus”. The Gymnosperm Database. 2024年1月8日閲覧。
  6. ^ a b Juniperus scopulorum”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2024年1月13日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Juniperus scopulorum”. The Gymnosperm Database. 2024年1月13日閲覧。
  8. ^ a b c d e Juniperus scopulorum Sarg.”. GBIF Backbone Taxonomy. 2024年1月13日閲覧。
  9. ^ Juniperus scopulorum”. N.C. Cooperative Extension. 2024年1月13日閲覧。
  10. ^ a b c d e f g h i j Juniperus scopulorum”. Flora of North America. Flora of North America Association. 2024年1月13日閲覧。
  11. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t ROCKY MOUNTAIN JUNIPER”. NRCS, USDA. 2024年1月13日閲覧。
  12. ^ a b 長谷部光泰 (2020). 陸上植物の形態と進化. 裳華房. p. 205. ISBN 978-4785358716 
  13. ^ a b c 清水建美 (2001). 図説 植物用語事典. 八坂書房. p. 260. ISBN 978-4896944792 
  14. ^ アーネスト M. ギフォードエイドリアンス S. フォスター『維管束植物の形態と進化 原著第3版』長谷部光泰鈴木武植田邦彦監訳、文一総合出版、2002年4月10日、332–484頁。ISBN 4-8299-2160-9 
  15. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Noble, D. L.. “Rocky Mountain Juniper”. Forest Service, USDA. 2024年1月13日閲覧。
  16. ^ 柴田忠裕・香川晴彦・大谷徹・梅本清作 (2012). “ビャクシン属植物10種61品種を用いたナシ赤星病菌の中間宿主としての寄生性の評価”. 千葉農林総研研報 4: 51–55. https://www.pref.chiba.lg.jp/lab-nourin/nourin/kenkyuuhoukoku/documents/cafrc4-51-55.pdf. 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]