タンザワヒゴタイ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
タンザワヒゴタイ
静岡県金時山 2023年9月下旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : キク上類 Superasterids
階級なし : キク類 Asterids
階級なし : キキョウ類 Campanulids
: キク目 Asterales
: キク科 Asteraceae
亜科 : アザミ亜科 Carduoideae
: トウヒレン属 Saussurea
: タンザワヒゴタイ
S. hisauchii
学名
Saussurea hisauchii Nakai (1931)[1]
シノニム
  • Saussurea triptera Maxim. var. hisauchii (Nakai) Kitam. (1935)[2]
  • Saussurea triptera Maxim. f. hisauchii (Nakai) Ohwi (1953)[3]
  • Saussurea spinulifera auct. non Franch. (1897)[4]
和名
タンザワヒゴタイ(丹沢平江帯)[5]

タンザワヒゴタイ(丹沢平江帯、学名:Saussurea hisauchii)は、キク科トウヒレン属多年草[5][6]。別名、トゲキクアザミ[1][6]

特徴[編集]

は直立し、高さは50-80cmになる。茎に翼があるか、または無く、上部で1-3回分岐する。根出葉はふつう花時には存在しない。茎の下部につくは草質、葉身は卵形から三角状卵形で、縁に粗い鋸歯がある。葉身の先端は尾状に伸び、基部は心形になり、葉柄は上部で翼がつくか、または無い[6]

花期は8-9月。頭状花序は茎先または枝先に2-9個、多いときは20個が散房状から円錐状にまばらにつく。総苞は長さ12-14mm、径5mmになる狭筒形になる。総苞片は6列あって圧着し、緑色で、総苞片間にくも毛があり、総苞外片は卵形で、先端はとがるが尾状とはならない。頭花は筒状花のみからなり、花冠は淡紅紫色になる[6]

分布と生育環境[編集]

日本固有種[7]。本州の中部地方から関東地方の丹沢山地金時山愛鷹山に分布し、山地の夏緑林の林縁や林間の岩石混じりの草地に生育する[6]

名前の由来[編集]

和名タンザワヒゴタイは、「丹沢平江帯」の意で、タイプ標本の採集地が神奈川県丹沢山地であることに由来する。植物学者中井猛之進 (1931) による命名である[5][8]

種小名(種形容語)hisauchii は、タイプ標本を採集した植物学者の久内清孝への献名。久内清孝は、新種となる標本を丹沢山地の塔ノ岳山梨県三つ峠で採集した[5][8]。なお、中井 (1931) による「日鮮産ひごたい属ノ智識ヘ一寄與」中、「丹澤とうひれん」とある[8]のは、同一号の原著論文中にあるとおり「丹澤平江帯」 Tanzawa-Higotai の誤りである[5]

種の保全状況評価[編集]

国(環境省)および都道府県のレッドデータブックレッドリストの選定はない。

ギャラリー[編集]

分類の混乱[編集]

本種は、久内清孝が丹沢山地で採集した標本をもとに、中井猛之進 (1931) によって新種 Saussurea hisauchii Nakai とされた[1]。その後、北村四郎 (1935) は、本種を富士山天子山地に分布するヤハズヒゴタイ S. triptera Maxim.の変種とし、S. triptera Maxim. var. hisauchii (Nakai) Kitam. とした[2]。さらに、大井次三郎 (1953) は、ヤハズヒゴタイの品種に格下げし、S. triptera Maxim. f. hisauchii (Nakai) Ohwi とした[3]。また、勝山輝男 (1990、神奈川県立博物館) の調査によると、久内清孝が丹沢山地以外の山梨県の三つ峠で採集した「タンザワヒゴタイ」は、ヤハズヒゴタイとタカオヒゴタイ S. sinuatoides Nakai の雑種群であったという[9]。勝山 (1990) は、「丹沢産のものを TYPE指定したにもかかわらず,多くの記述が(三つ峠産の)CO-TYPEに基づいて書かれてしまったために,タンザワヒゴタイの分類は混乱してしまった」と記述している[9]

別名のトゲキクアザミは、フランスの植物学者サヴァティエ箱根で採集したものを、フランスの植物学者フランシェ (1897) が、 S. spinulifera Franch. として記載したもので、和名は後に牧野富太郎根本莞爾 (1925) がつけた。勝山 (1990) は、「おそらく Franchet の記載より記述し,その内容からトゲキクアザミと名付けたものと思われる」としている[9]。北村四郎 (1935) は、本種をヤハズヒゴタイの変種とした際にも、トゲキクアザミ S. spinulifera Franch. は、「相模、金時山、愛鷹山」に分布し、「頭花は多数、茎葉底は截形又は契形」として別の種として扱っている[10]。しかし、北村 (1978) がパリ自然史博物館S. spinulifera Franch. のタイプ標本を調査したところ、それは「箱根の金時山頂のものにあてていた」トゲキクアザミではなく、日本に普通に分布するキクアザミ S. ussuriensis Maxim. であったという[11]。勝山 (1990) は、本種とトゲキクアザミを同一の種とした[9]

現在は、本種の学名は S. hisauchii とし[1][6][7]、分類表内のシノニムはシノニムとして扱っている[1]。和名は「タンザワヒゴタイ」が標準和名で、「トゲキクアザミ」は別名扱いである[1][6]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f タンザワヒゴタイ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  2. ^ a b タンザワヒゴタイ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  3. ^ a b タンザワヒゴタイ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  4. ^ タンザワヒゴタイ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  5. ^ a b c d e T. Nakai「Contributio ad Cognitionem Generis Saussureœ Japono-Koreanæ」『植物学雑誌(Botanical Magazine, Tokyo)』第45巻第539号、東京植物学会、1931年、518頁、doi:10.15281/jplantres1887.45.513 
  6. ^ a b c d e f g 門田裕一 (2017)『改訂新版 日本の野生植物 5』「キク科トウヒレン属」p.263
  7. ^ a b 門田裕一 (2011)「トウヒレン属」『日本の固有植物』pp.147-148
  8. ^ a b c 中井猛之進「日鮮産ひごたい属ノ智識ヘ一寄與」『植物学雑誌(Botanical Magazine, Tokyo)』第45巻第539号、東京植物学会、1931年、533頁、doi:10.15281/jplantres1887.45.539_531 
  9. ^ a b c d 勝山輝男「トゲキクアザミ(タンザワヒゴタイ)について」『神奈川県立博物館研究報告(自然科学)』第19巻、神奈川県立生命の星・地球博物館、1990年、89-100頁。 
  10. ^ 北村四郎「日本産トウヒレン属の分類及び分布」『植物分類及植物地理(Acta Phytotaxonomica et Geobotanica)』第4巻第1号、植物分類地理学会、1935年、6, 9頁、doi:10.18942/bunruichiri.KJ00001078819 
  11. ^ 北村四郎「パリー通信」『植物分類,地理(Acta Phytotaxonomica et Geobotanica)』第29巻第1-5号、日本植物分類学会、1978年、126-128頁、doi:10.18942/bunruichiri.KJ00001078291 

参考文献[編集]