ノート:正中の変

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メモ(正中の変≠倒幕計画説)[編集]

最近、河内祥輔氏が『日本中世の朝廷・幕府体制』(吉川弘文館、2007年) ISBN 4-642-02863-3 の中に“「正中の変」は後醍醐の討幕運動に非ず”という新原稿による一節を設けており(305-320ページ)、後醍醐天皇が初めて倒幕の考えを抱くようになったのは正中の変をきっかけとして持ち上がった後醍醐天皇後の皇位継承問題の具体化によるものであり、「正中の変」は倒幕運動とされたのは当時の「天皇の謀反」とする憶測による風説が反後醍醐派の皇位継承への期待とともに余りにも広まりすぎた上に後の倒幕の成功と重なったもので、幕府は事実無根の風説を収拾して無関係な後醍醐の在位を継続させるためのスケープゴートとして日野資朝を流したとする説を出されています。ただ、余りに旧来の説と違うために過ぎに本文に書くのは躊躇するため、概要だけこちらに記しておきます。

河内氏は

  • 証拠と呼べるのは一方的な土岐頼員の証言しかなく、土岐頼兼ら残りの参加者とされる武士は全員討ち取られて裏づけ自体行われなかったこと。
  • 後醍醐天皇が万里小路宣房を通じて鎌倉幕府に送った綸旨(9月24日付)が「逆鱗以て甚し」と言った逆に幕府を問責したのみならず、更に今回の件は持明院統あるいは邦良親王派による謀反であるので詮議するように命じている(これについては持明院統の花園上皇も同年11月14日付の日記にその一部を引用して衝撃を受けたことを記している)。つまり従来言われていた鎌倉幕府への釈明とは大分違う展開を辿っていた。
  • そもそも、後醍醐は中継ぎであるから、何事も無くても邦良親王成人を理由に退位を行わせることが可能であったにも関わらず、退位すら行われなかった。つまり、幕府は後醍醐天皇が無実だと知っていたので、罪を着せて退位させるわけには行かなかった。
  • 日野資朝らが無礼講を幕府側から咎め立てられた事実はあるもののそこに後醍醐が同席したと言うのは『花園天皇日記』などが書きとめた風説以外に典拠がないこと。そもそも無礼講の内容を知る資料は存在しないこと。なお、持明院統系の人々はは後醍醐の早期退位を希望しており、後醍醐退位につながる記事(つまり、真偽を問わずに後醍醐が謀反を起こしたという情報)を積極的に書く傾向が見られること。
  • 『花園天皇日記』翌正中2年閏正月7日条に鎌倉での日野資朝らの取調の結果、幕府の幹部の大半が謀反を無実とする意見に傾いて長崎円喜が不満を抱いていることを記し、2月9日条には資朝の流罪は事前に後醍醐の了承を取ってから決定されたことを暗に示唆している。つまり、幕府としては何らかの罪名を付けなければならず、後醍醐の了承を得た上で日野資朝の単独犯行というシナリオを作成しようとした。
  • 『神皇正統記』の正中の変に関する件の時系列は信用ならないこと、『正統記』は後宇多法皇崩御→後醍醐と邦良の使者の鎌倉での政治工作の激化→邦良に有利となり後醍醐が初めて倒幕の意向を抱く→正中の変となっており、同時代の記述と言うことで信用されてきたが、そもそも両者が鎌倉に使者を揃って派遣をするようになったのは正中の変をきっかけに皇位交替の可能性が出たからであり(これは花園天皇日記正中2年正月13日条の著名な「世に競馬と号す」の記述でも裏付けられる)、順番からすれば正中の変よりも後ろの記事である(つまり、後醍醐天皇は幕府に不満を抱いたから正中の変を計画したのではなく、正中の変をきっかけに幕府への不満→討幕運動に至ったことになる)。仮にこの順番の通りに正中の変以前の段階で使者が派遣されていたとしても後宇多法皇崩御から正中の変発覚まで2ヶ月余りしかなく、その期間内で後醍醐が突然倒幕を考えて一連の行事を経なければならなくなり、時間的に無理がある。

など……正中の変の大きな要素である無礼講と実際にあったかどうかも確認が取れなかった倒幕計画の密告を1つの事件に結びつけたるのは、六波羅探題の「見込み捜査」に過ぎず、一連の件に後醍醐が関わっていたとする話は後醍醐に反対する勢力(持明院統及び邦良親王派)の主張あるいは願望の域に過ぎないとする。結果的に『神皇正統記』の前後の錯乱や物語である『太平記』による流布、実際の倒幕の成功によって、本来憶測に過ぎない「正中の変による討幕運動」があたかも事実のように広まったとしています(私の要約に問題がある可能性もありますが)。

今後、他の学者さんがその反証を出される可能性もあり、現時点での本文執筆は差し控えた方がいいと考えますが、今後の執筆において留意すべき点であると考えます。--水野白楓 2008年9月13日 (土) 10:09 (UTC)一部修正--水野白楓 2008年9月30日 (火) 12:45 (UTC)[返信]