ベルナール・スティグレール

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ベルナール・スティグレール
2004年のドキュメンタリー映画『The Ister英語版』より
生誕 1952年4月1日
フランスの旗 フランス エソンヌ県
死没 2020年8月5日(2020-08-05)(68歳)
フランスの旗 フランス シェール県
時代 現代思想
地域 フランス哲学
研究分野 工学, 政治, 美学
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ベルナール・スティグレール[1](Bernard Stiegler, 1952年4月1日 - 2020年8月6日[2])は、フランス哲学者

人物[編集]

デリダシモンドンの強い影響を受けた哲学者で、哲学技術の関係、社会と技術の関係を中心に著述がある。大著『技術と時間』はハイデガーの技術論と時間論に影響を受け、書かれている。『技術と時間』では、人間の生み出した技術が作り出した時間と、その時間に支配される人間などを扱っている

フランスエソンヌ県ヴィルボン=シュル=イヴェットにてテレビ技術者の父、銀行員の母のもとに生まれ、パリ北部のサルセルで育つ[3]。1968年の5月革命参加のため学校を中退、フランス共産党 (PCF) の党員となり、フランス映画自由学院(fr:Conservatoire libre du cinéma français)に一時通ったが、コンピュータープログラミングのインターンを経て1973年より農家、ウェイターとして働いた[3]。1976年にPCF書記長ジョルジュ・マルシェスターリン主義路線に抗議して離党[4]

トゥールーズジャズ喫茶を開業し、常連客にトゥールーズ第二大学(現・トゥールーズ・ジャン・ジョレス大学)の哲学教授ジェラール・グラネル(fr:Gérard Granel)がいたことから哲学に興味を持ちはじめる[4]

店の経営に失敗し、当座貸越を返済のために銀行強盗を繰り返し、4度目に逮捕されて懲役8年の判決を受け、1978年から5年間服役した[1]。獄中では、グラネルの支援で第二大学の通信講座に登録し、服役期間のほとんどを哲学書を読むことに費やし、なかでもジャック・デリダの『グラマトロジーについて』に感銘を受け、デリダに手紙を書き、服役中の1982年に初対面[4]。出所後にデリダの指導のもと哲学者としての活動を始めた[1]

デリダが共同設立した国際哲学コレージュに1984年に職を得、博士号取得のため社会科学高等研究院でデリダの指導を受け、同窓となったカトリーヌ・マラブーと結婚した[4]。1994年に学位論文「技術と時間: エピメテウスの過失」を発表して注目を集め、1996年にフランス国立視聴覚研究所の副所長に就任(1999年まで)[4]

2002年から2005年末までIRCAMの所長を務めるなど、技術と芸術、コミュニケーション、メディアといった方面も研究している。2006年よりポンピドゥーセンター芸術監督。同センター内にリサーチ&イノベーション研究所(IRI fr:Institut de recherche et d'innovation)を設立[4]

2020年8月6日、自死により逝去[5][2]。ポール・ジョリオン(fr:Paul Jorion)によると、スティグレールは大病を患い、再び症状が出た場合は命にかかわることを知っていたという[6]。3人目の妻(弁護士)と4人の子がおり、一人は哲学者のバーバラ・スティグレール(fr:Barbara Stiegler)。

主要著作[編集]

  • La Technique et le temps: Tome 1. La faute d'Epiméthée (1994)
  • La Technique et le temps: Tome 2. La désorientation (1996)
    • 『技術と時間 II ──見失うこと』(2010/邦訳 法政大学出版局)
  • Echographies de la télévision : Entretiens filmés (avec Jacques Derrida) (1996)
    • 『テレビのエコーグラフィー ──デリダ〈哲学〉を語る』(デリダとの共著 :2005/邦訳 NTT出版
  • La Technique et le temps: Tome 3. Le temps du cinéma et la question du mal-être (2001)
    • 『技術と時間 III ──映画の時間と<難-存在>の問題』(2013/邦訳 法政大学出版局)
  • Passer à l'acte (2003)
    • 『現勢化──哲学という使命』(2007/邦訳新評論)
  • Aimer, s'aimer, nous aimer : Du 11 septembre au 21 avril (2003)
    • 『愛するということ──「自分」を、そして「われわれ」を』(2007/邦訳 新評論)
  • De la misère symbolique: Tome 1. L'époque hyperindustrielle (2004)
    • 『象徴の貧困 I ──ハイパーインダストリアル時代』(2006/邦訳 新評論)
  • Philosopher par accident : Entretiens avec Elie During (2004)
    • 『偶然から哲学をする』(未邦訳)
  • Mécréance et Discrédit: Tome 1. La décadence des démocraties industrielles (2004)
  • Révolutions industrielles de la musique. Cahiers de médiologie n°18 (2004)
  • De la misère symbolique: Tome 2. La Catastrophè du sensible (2005)
    • 『象徴の貧困 II ──一般的感覚器官の組織学のための基礎』(未邦訳)
  • Constituer l'Europe: Tome 1. Dans un monde sans vergogne(2005)
  • Constituer l'Europe: Tome 2. Le motif européen (2005)
  • Mécréance et Discrédit: Tome 2. Les sociétés incontrolables d'individus désaffectés (2006)
  • Mécréance et Discrédit: Tome 3. L'esprit perdu du capitalisme (2006)
  • Pour une nouvelle critique de l'économie politique (2009)

評伝[編集]

  • 李舜志『ベルナール・スティグレールの哲学 人新世の技術論』 法政大学出版局 2024年

脚注[編集]

  1. ^ a b c 永田希. “現代思想はブラックボックスをどう扱ってきたか──ゲシュテルと第三次過去把持”. 集英社新書プラス. 2022年12月17日閲覧。
  2. ^ a b Bernard Stiegler, la philosophie et la vie – série de podcasts à écouter” (フランス語). France Culture. 2020年8月7日閲覧。
  3. ^ a b Bernard Stiegler obituaryStuart Jeffries, The Guardian, 2020.8.18
  4. ^ a b c d e f The Singular Life of Bernard StieglerConrad Bongard Hamilton The Philosophical Salon, 2020.8.17
  5. ^ France, Centre (2020年8月7日). “Disparition - Bernard Stiegler, le grand philosophe français d'Epineuil-le-Fleuriel, est décédé”. www.leberry.fr. 2022年12月17日閲覧。
  6. ^ In Memoriam: Bernard StieglerBrian Holmes, Sebastian Olma, Caradt, 2020/09/07

関連項目[編集]