生葉たばこ病

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ニコチンは単純な化学構造であり[1]、禁煙のためのニコチンパッチのような製品があるように経皮からも吸収される。

生葉たばこ病(いくはたばこびょう、英語: Green Tobacco Sickness, GTS)とは、湿ったタバコ葉の表面から経皮吸収英語版されて起こる急性ニコチン中毒症状[2]。作物としてのタバコ収穫従事者が発症するため、収穫作業に際し防水用具の着用を指導し、露に対する曝露を最小限にするための配慮が必要と指摘されている[3]

解説[編集]

世界で推定3,300万人のタバコ農場の労働者がおり、多くは開発途上国にて生活している。国際調査は、収穫期ごとにタバコ収穫者の8-89%が影響を受けている可能性があると報告された(割合の広さの原因は、研究方法や作業条件によるであろう)。長期的にニコチンに晒された際の健康に関する予後は、よく知られていない[4]

歴史[編集]

1970年に、アメリカ合衆国の Weizenecker らにより収穫作業者の脱力・めまい・吐き気などの症状が報告され[5]1974年ニコチンの経皮吸収が原因であることが明らかになった[6]

日本では、1983年熊本大学の研究者らにより初めて報告された[7]。収穫作業の従事者の間では「タバコ酔い」「ニコチン酔い」として知られていた[8]

症状[編集]

吐き気嘔吐頭痛目まい、著しい衰弱などがある[2]。これらは血圧心拍数の変動を伴う。腹部の痙攣、悪寒、発汗、唾液分泌、呼吸困難、下痢も一般的で[2]、皮膚かぶれ、掻痒感などの皮膚症状[3]も現れる。非喫煙者は発症しやすい。1-2日で軽快するが、重度の症状であり、救急医療が必要になる場合もある。

出典[編集]

  1. ^ Jan van Amsterdam; David Nutt; Wim van den Brink (2013). “Generic legislation of new psychoactive drugs” (PDF). J Psychopharmacol 27 (3): 317–324. doi:10.1177/0269881112474525. PMID 23343598. http://www.undrugcontrol.info/images/stories/documents/generic-legislation-nps.pdf. 
  2. ^ a b c “Nicotinic plant poisoning”. Clinical Toxicology 47 (8): 771–81. (September–October 2009). doi:10.1080/15563650903252186. PMID 19778187. 
  3. ^ a b 青木一雄 ほか、「たばこ栽培従事者における"生葉たばこ病"の疫学的検討(健康管理・健康診断,一般演題,第62回日本産業衛生学会・第46回日本産業医協議会)」 産業医学 31(7), 617, 1989-12-20, NAID 110006737139
  4. ^ http://www.tobaccoinaustralia.org.au/chapter-3-health-effects/3-20-tobacco-poisoning/ Tobacco in Australia]
  5. ^ Weizenecker, R. and Deal, W.B.: Tobacco cropper's sickness, J. Florida Med. Assoc., 57:13-14, 1970.
  6. ^ Ghosh, S.K., Parikh, J.R., Gokani, V.N., Kashyap, S.K. and-Chatterjee, S.K.: Studies on occupational health problems during agricultural operation of Indian tobacco workers, J. Occup. Med., 21:45-47, 1979.
  7. ^ 三角順一、小山和作、三浦創、たばこ収穫作業者における"生葉たばこ病"の2症例およびラットにおけるニコチンの経皮吸収について 産業医学 25巻 (1983) 1号 p.3-9, doi:10.1539/joh1959.25.3
  8. ^ 三角順一 ほか、第1回九州農村医学会 9.生葉たばこ収穫作業に伴う健康障害に関するアンケート調査成績について 日本農村医学会雑誌 40巻 (1991-1992) 4号 p.969-978, doi:10.2185/jjrm.40.969