航技研 VTOL実験機
VTOL実験機(ブイトールじっけんき)は、日本の航空宇宙技術研究所(航技研・NAL)が計画したリフトジェット方式の実験用垂直離着陸機(VTOL機)。実機は製造されていない。
概要[編集]
航技研では、1962年(昭和37年)に設置された「V/STOL委員会」が定めた年次計画において、1967年(昭和42年)度以降に研究される第3段階内で、フライングテストベッドによる試験を経た上での高速V/STOL実験機の飛行試験を予定した[1]。
フライングテストベッドの実験が行われた後の1970年(昭和45年)頃には試作研究の検討が開始され[2]、昭和48年度[3]、昭和49年度といった形で[4]外形案などの概念設計が繰り返された[3][4]。航技研の突風風洞にて1/10スケールの模型を用いた風洞実験も行われた他[3]、富士重工業においても初期計画などが受注され一部の要素実験が進められていた[5]。しかし、1973年(昭和48年)に生じた第1次オイルショックの影響を受けて予算面での問題が生じ[6]、詳細計画図などが未成の段階で[7]計画は中止された[6][7]。
機体はホバリングからの遷移飛行の研究に主眼を置いた[2][6]有人の小型ジェット機で[8]、航技研が開発したJR100系リフトエンジンの推力を約10パーセント強化し、整備性向上を図って形状を変更した[9]「JR100V」を、VTOL用として胴体中央部に4基一列に装備[7]。その後方にゼネラル・エレクトリック製の「CJ610」を、リフトエンジンの空中始動用空気源を兼ねた推進用エンジンとして1基、補助動力装置(APU)とともに搭載する[8]。また、自動安定装置[7]やリフトエンジンの自動始動システムも備えられる予定だった[10]。
諸元(昭和49年度案・計画値)[編集]
出典:「リフトジェットエンジンの研究開発(II)」 1 - 3,5頁[11]。
- 全長:11.54 m
- 全幅:10.05 m
- 全高:4.32 m
- 全備重量:4,500 kg
- エンジン:
- 航技研 JR100V ターボジェットエンジン(推力:1,181 kg) × 4
- GE CJ610 ターボジェットエンジン × 1
- 航続時間:48分
- ホバー時間:7分
脚注[編集]
- ^ 上山忠夫 1966, p. 35,36,38.
- ^ a b 武田峻 & 滝沢直人 1972, p. 42,49.
- ^ a b c 尾形吉和 et al. 1975, p. 1.
- ^ a b 航空宇宙技術研究所原動機部 1982, p. 1.
- ^ 「日本ヘリコプタ協会 人物紹介(3) 牧野健」 2,4頁。
- ^ a b c 「日本ヘリコプタ協会 人物紹介(3) 牧野健」 4頁。
- ^ a b c d 航空宇宙技術研究所原動機部 1982, p. 2.
- ^ a b 航空宇宙技術研究所原動機部 1982, p. 3,4.
- ^ 航空宇宙技術研究所原動機部 1982, p. 5.
- ^ 航空宇宙技術研究所原動機部 1982, p. 5,19.
- ^ 航空宇宙技術研究所原動機部 1982, p. 1 - 3,5.
参考文献[編集]
- 上山忠夫「航空宇宙技術研究所におけるV/STOL機の研究計画」『日本航空学会誌』第14巻第153号、日本航空学会、1966年、35,36,38頁、CRID 1390001205371124224、doi:10.2322/jjsass1953.14.363、ISSN 0021-4663、2024年4月27日閲覧。
- 武田峻、滝沢直人「航技研─フライング・テスト・ベッド」『日本航空宇宙学会誌』第20巻第217号、日本航空宇宙学会、1972年、42,49頁、CRID 1390001204505857152、doi:10.2322/jjsass1969.20.98、ISSN 0021-4663、2024年4月27日閲覧。
- 尾形吉和、廣末健一、北村清美、村上義隆「VTOL実験機模型に関するCTOLモードの風洞試験(I)」『航空宇宙技術研究所資料』第287巻、航空宇宙技術研究所、1975年、1 - 5頁、CRID 1571980077200390016、ISSN 0452-2982、2024年4月27日閲覧。
- 航空宇宙技術研究所原動機部「リフトジェットエンジンの研究開発(II)」『航空宇宙技術研究所報告』第700巻、航空宇宙技術研究所、1982年、1 - 5,19頁、CRID 1570854177292854656、ISSN 0452-2982、2024年4月27日閲覧。
- “日本ヘリコプタ協会 人物紹介(3) 牧野 健” (PDF). 日本ヘリコプタ協会. p. 2,4. 2024年4月27日閲覧。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]